第4話再開と・・・
1
荒野を走るバイクが1台あった。バイクといっても車輪はなく、浮遊し、エンジンからの噴射で爆走していたのでものすごい土煙が上がっていた。かつては機械的な発展を目指していたイーサンの国土は、ニルヴァの執拗な攻撃により大方破壊され、見る影もない荒野が広がるばかりである。失陥していない土地は、1つの港と首都ギリゴヌガレザと、そこを直線で結ぶ決死防衛線のみとなっていた。バイクは、ギリゴヌガレザの近くにあるとされる反攻戦線の拠点に向かっていた。詳しい位置は、レイにはわからなかったが、考えはあった。
「結局、2年も会えなかったもんな・・・ライ、元気にしてるかな・・・1年もおまけをもらったお礼、しないとな。」
レイの眼前に巨大な氷の柱が立っていた。この2年の間に、イーサンのそこかしこに、このような巨大な氷の柱が立てられていた。もちろん、イーサン攻略指令、氷の女王エリザの能力によるものである。レイはそのうちの一本に向かっていた。
「さて、と。雑魚の群れかと思ったがやはりエリザの直衛兵が配置されていたな。2年間は柱を避けていたが、もう終わりだ。さて、先制攻撃をする!」
レイはバイクに回収した炎のメダルと、回転のメダル(正確には擬似メダル)をセットし、ハンドルを捻った。すると、バイクから炎を纏った竜巻の砲弾が放たれた。ニルヴァ兵の多くは吹き飛ばされたが、3人のエリザ兵はやはり難なく弾き、無傷であった。
「炎竜穿砲ではやはりだめだな。行くぜ、二段解放!」
レイは待機モードにしたバイクから飛び降り、エリザ兵へと飛び込んでいった。すぐさま、ショットガンの嵐が兵の1人を襲い、吹き飛ばされていった。
「ぐわああああああ・・・・」
「こいつ、強い!」
「貴様、この塔を破壊することの意味が分かっているのか!?それ以前に破壊できるとでも思っているのか?鎧化、重打撃!!」
残り2人が鎧のように変化したエナジーを纏い、殴りかかってきたが、レイは軽く受け止めた。数回の打撃の応酬の後、エリザ兵はまとめて蹴り飛ばされた。
「さすがにエリザ兵となると、少しだけはやるな・・・まあいい、まずはあのクソ氷を破壊させてもらおう、三段覚醒。」
レイの身体が激しい炎に包まれた。レイは少し屈み、右手にエナジーを集中させた。
「お前たちもあの氷の真意もわからないで、よく守っていたものだな?二年の間逃げ回っていた鬱憤、ここで晴らさせてもらうぜ・・・炎龍!!」
レイの振りぬかれた右手から、龍のような勢いのある炎が噴き出し、2人のエリザ兵を食べながら氷塔に衝突し、砕いていった。
「ぐわあああああああああああ・・・・」
「鎧ごと焼かれる・・・」
龍は更に上昇し、天へと抜けていった。
「さあて、派手に復帰宣言してやったんだ、出て来いよ。氷の女王。」
呟くレイ。もちろん挑発のためだけに塔を破壊したわけではなかった。
「さて、ライも気づいたな?」
反攻戦線のメンバーの接近をたしかに感知できていた。
2
「こちらが、本部です、レイさん。」
「うまく隠してあるな・・・?これなら、たしかに首都の付近でも見つからないわけだ。」
「基地の維持に能力を割いておりますので。半数がカモフラージュ要員、残りのうちの半分は補給維持要員で、我々実戦部隊はもっと少ないです。さて、こちらがライ隊長の部屋です。我々は、外で待機しております。」
それだけ言うと、さっさと隊員は行ってしまった。人員不足なのだろう。メダルによるエナジー発動は属性を伴い、複雑な能力開花はできないから、一度機械的に変換して基地を隠匿しているとの説明であった。基地の大半はエナジー変換と感知確率低下霧放出装置で動きづらく、なんとも非合理だが、これが最も安全なやり方であるから、仕方がなかった。
「さて、入りますよ、ライ隊長・・・髪が伸びましたね?それに、全身、なんか逞しくなったんじゃないのか??」
「激戦続きだったのさ。そういうレイは・・・あまり変わらないな。本当に任務と修行してたのか?」
「ちゃんとしてたさ・・・まったく。」
ライは、幾分背も伸びたようだったが、それ以上に伸びた髪と、全身が鍛え上げられていたのに驚いた。傷も所々に残り、完全に以前の少年兵の面影は消え、歴戦の戦士となっていた。それに比べて、自分はほとんど変化がなかったのを、少しだ恥ずかしく思ったがけ、ライは戦闘でいろいろ苦労したんだ、自分はエナジー技術に集中していた、その差だと了解した。2人は、2年ぶりの再会ということでしばらくの間話し合った。
「それじゃ、戦局はだいぶ悪いんだな、感じていたよりも・・・それなのに1年も余計に、すまなかった、ライ。」
「いいんだ、結局、三段覚醒まで完全にコントロールするのにそれくらいは必要だったってことだからさ・・・おかげさまで。俺にも三段覚醒まではインストールされたわけだし。まだ実戦では使ってないけどもな、切り札さ、俺の。」
「四段超越はまだ完全とは言えないけど、結構いい線まではきてる。ライに届くのも、あと少しさ。」
「うん、そのことなんだが・・・まあとにかく、久々に会ったところだが、あまり実戦はしてなかっただろ?俺と手合わせしてくれよ?」
「いいぜ。俺の力に驚くなよ?」
いくら外見が厳つくなっても、やはりライはライであった。レイは安心して、訓練スペースへと向かった。
3
地下の訓練スペースは2人の再会の喜びによって破壊されてしまった。正確にはレイの炎のせいである。
「お前、強くなったというか・・・強すぎだろ!1訓練スペース壊れたじゃねえか!もう直せないんだぞ!」
「本当にごめん・・・」
「まあ、いいさ。もうこの基地も、お前の帰還で用済みになるわけだしな。さて、本格的にエリザを討つわけだが、その前にあの氷塔を破壊したおかげで集まったエリザ兵を何とかしないとな・・・恐らく、ここも気づかれるだろう、念入りに調べるだろうしな。さすがに、俺を探すためとはいえ、悪手だったんじゃないのか?」
「いいんだ。どうせ俺がエリザ兵を叩いた時点で俺の所在はおおよそバレる、そうなればあの塔も意味はない。つまり、あの塔は、俺の探知専用なのさ。」
「どういうことだ?」
「あの塔が破壊されると、エリザが感知し、エリザ兵が集められる。そういう仕組みなのは、知ってるよな?あの高慢な女王様は、わざわざそれを宣言したものな?だが、考えてみな、あの氷を壊せるのが実際に何人いるか?三段覚醒は必要な氷だ。そうすると、奴の知っている情報では、俺しかいない。最初から、俺を探すためだけにあの塔を建てたのさ。実際のところ、塔よりも先に、エナジーの爆発で感知されただろうけどな。」
「そういうことか・・・少し違和感があったが、これでわかったよ・・・」
ここでライは、初めて深刻そうな表情になった。
「さて、と・・・この廃墟(レイがきまり悪そうにした)いや、いいんだって・・・には2人しかいない。深刻な話なんだが、レオン、ノエル先生方が帰国したがっている。」
「なんだって!?!?」
レイは思わず大声を出してしまった。だがライはニヤリと笑って続けた。
「そうなると思って、部屋では話さなかったのさ。ここなら、こうしてくれれば誰も来ないし、大声でも聞こえない。」
「俺が壊しても何も言わなかったのはそのためか。」
「まあ、な。さて、話を戻そう。先生たちは、大陸に行く船と、上陸後の用意はできているから、出港地の確保を頼むと仰っている。」
ライは地図を描き出し、話をつづけた。レイは、器用さに驚きながらも、話に集中した。
「先生のいるギリゴヌガレザ郊外から、決死防衛線を通って、港へ行く。これなら、簡単なのだが、問題は、帰国の許可が、降りないということだ。」
「つまり、夜逃げってやつをやるのか。」
「そうだ。だから、部隊も使えない、俺とお前だけで、こっそり、迅速にやるしかない。港も多分使えない。決死防衛線だって、実のところ危ういのはさっき話した通りだから、実際その意味でも港は使えないな。」
だから、とライは続けて雷製の地図にルートを書き足した。レイには触れない。
「単純に、ここから最も近く、大陸にも近い、このポイントまで直行して、出航していただく。これしかないと思うんだが?」
「ん、賛成だな。何より、お前の方がこういうのには強いだろ?」
「先生と別れるの、寂しくないのか?」
「寂しいさ。でも、それよりも・・・この国に愛着があるのさ。先生には、生きていれば、この国を守った後で、大手を振って海を渡って、明るい報告に行けばいいんだ。先生も、多分それを望んでる。」
ライは、レイが変わったのを理解した。以前なら、何としてでもノエルについていっただろう。
「さて、じゃあ、先生に会いに行きますかね。急がないと、ニルヴァの妨害の確率も上がってくる。こっちに隠し直通路がある。行こう。」
2人は闇に消えていった。
4
レオンは、既に研究室をすべて処分し、首都の外れに潜んでいた。後はライが出航の手はずを整えるだけとなっていた。
「つまり、レイ捜索のために集まったエリザ兵の討伐作戦を隠れ蓑として、出発します。最短での出発はいつ可能ですか?」
ライは先ほどのように雷地図を用いて説明した。レオンは、これほどまでに器用にエナジーを扱えるように、ライがなったことに感心して、柄にもなく驚きと喜びの表情を出していた。続く返答ではいつもの調子を取り戻そうとしていたが、やはり隠し切れなかった。レイは聞いていて、おかしくて吹き出してしまうところだった。
「うん、すぐにでも可能だ。話を聞く限り、今日の夜がよかろう。エリザ兵を放置すれば、壊滅してしまうだろうからな。ノエルは起きまいが、こんな感じで」
そういってレオンは手元のボタンを押し、隠し扉を開いた。中には、大型のバイクがあった。
「うん、こいつはレイのバイクのデータを基に作ったものだ。こいつは変形してボートにもなるから、そのまま出航する、というわけだ。生活スペースをつけた分、大型化したが、擬似メダルのおかげで、いろいろ解決、というわけだな。」
「中にノエル先生がいるんですか?何をしても休みの日は起きないから、交代でここで寝てたんですよね?」
「そうだ、レイ。我々2人の能力は、1日ごとに活動し、記憶を引き継ぎながら研究を常に継続できるものだ。その代償として、休眠日は、ほぼ封印状態のように眠ってしまうし、その様子を見られると封印が解けて休眠がやりなおしとなり、ひいては過労死するわけだな。だから、ノエルと別れの挨拶は出来ないのは、本当にすまない。」
「いいんです。また、この国を守って、その報告に行きますから。」
「ん・・・強くなったな、レイ。ありがとう。:
レオンはレイの精神的進化もきちんと喜んでいるのだ。
それからしばらく会話をし、別れた。作戦決行である。
5
夜になっても、エリザ兵の一団は退却する気配を示さなかった。隠匿能力を使っているとはいえ、基地の所在も突き止められるのはもう間もなくであった。レイとライは、秘密通路から戻る際、誰にも見つからないように注意して。
「そろそろかな?隊長さん?」
「了解した。じゃあ、俺は、お前が暴走したと言って基地で触れ回って増援部隊として追い出して、博士をお連れする。手筈通りにな。」
「頼んだぞ、ライ。じゃあ、行くぜ・・・」
レイは三段覚醒し、地面に思いきり拳を打ち付けた。
「派手に行くぜ!炎柱五本!」
エリザ兵の集団付近に炎柱が5本出現した。エリザ兵のうち、数人は飲み込んだが、殆どは命中しなかった。
「こけおどしなど!!!」
隊長と思しき男がレイに突撃してきた。
「貴様が炎の男だな!!エリザ様に貴様の首を届けさせてもらう!!」
隊長は大剣を空間から出現させ斬りかかった。しかし、レイは、冷静に回避しカウンターのショットガンを叩きこみ、吹き飛ばした。
「ぐっ・・・だが、数で押し切る!いくぞ、突撃!重打撃で押しつぶすのだ!!」
10人の兵士が鎧のようなエナジーを身に纏い、突撃してきた。レイは、しかし。
「四段超越で見せた力のうち、これだけは三段覚醒でもできるようになった。」
独り言をつぶやきながら、指先のエナジー量を増大させた。
「先込め式で10発。指にエナジーを先に封印する形にして使えるようになった・・・追加効果もない、純粋な攻撃、その分必殺と夏・・・さて、10人、ちょうどいいな・・・炎銃!!!」
レイの人差し指から、凝縮された一筋の炎-レーザーと言ってよいだろう-が放たれた。瞬く間に、2人貫かれて倒れた。そのまま、何が起きたか悟られる前に連射し、6人を撃ち抜いた。残りの2人のうち、片方は致命傷にならず、もう1人は完全に射撃を外したが、レイは何事もなかったかのように炎龍でダメージを与えた方を倒した。
「お前らじゃ、相手にならないな!エリザ様に慰めてもらいな!」
1人残った兵士は完全にうろたえていたが、しかし、隊長はさすがに冷静であった。
「エリザ様の光線をいやしくも模倣するとは、不届きな奴だ!許すわけにはいかないな!
だが、エリザ様には貴様は及ばんな、もほやそれは撃てないだろう?」
「(あっさり見抜かれたな・・・)そうかい!だがな!」
レイはパニックのまま殴りかかってきた下級兵を軽くいなし、数発のショットガンで確実に倒した。
「そんなもんに頼る必要すらないのさ!俺は!」
「仇を討たせてもらうぞ!!」
再度斬りかかる隊長の攻撃を、やはり再度躱し、カウンターの打撃を与える。
(なかなかタフだな・・・ショットガンではなかなか突破できないな・・・それに・・・)
レイと隊長のにらみ合いは、数分にも満たなかった。反攻戦線の兵士が殴りこんできたのだ。
「レイさん!!!援護に・・・ってあれ、あと一人だけか?じゃあ一気に!」
「いや待て!!あいつは我々の手には負えん!攻撃部隊の主力だぞ!」
「だが、レイさんの周りに転がってるのも主力だ!この勢いで倒すぞ!!」
数人が飛び込んできた。
「雑魚が!!!」
隊長の薙ぎ払いにより、兵士は吹き飛んだ。
「斬るまでもない・・・しまった!!」
レイの姿が消えていた。背後にいるのを察知したときには、もう手遅れだった7.
「まあ、馬鹿野郎だったが、1手間省けた・・・じゃあな!!」
隊長は炎龍に飲み込まれ、果てた。
「さて、と・・・こいつらも無事に集まったし、ライがうまくやってくれていれば・・・ん、打電が来たな。」
ライの能力による、電気信号であった。発信装置は基地にしかないことになっているが、実際はライの純粋な能力である。通知は成功、とだけあった。兵士にとっては隠密機能の維持を、レイにとっては博士の出航を意味している。
「これで、とりあえず・・・だな。本格的に、いよいよ、あいつと戦うのも近いな・・・」
勝どきとしてあげた炎柱を眺めながら、レイはひとり呟いた。
6
エリザは、報告を受けたとき、表情を変えなかった、とされている。
「そうか・・・やはり、我が兵士でも敵わぬか・・・なんたること・・・」
「エリザ様、我々は、覚悟はできております。エリザ様!お願いいたします!」
「しかし、アレはお前たちの死を意味する・・・一人のために、そなたたちすべてを犠牲にするわけにもいかぬ。ましてや、あと少しの辛抱なれば・・・」
「恐れながら、申し上げます。このままでは、調査終了後の作業にも、支障が出ると考えます。確実に、全力を尽くし、任務を完遂すべきことこそ、重要と申し上げます。」
エリザは、逡巡していた。
「確かに、グスタフ様に申し訳が立たぬか・・・いや、あの方はお強い。私が頼めば、あの者が仮に今の10倍の力を隠し持っていても、何の苦も無く倒せる・・・お前たち全員の命と私1人、どちらが重要か議論の余地もあるまい。うむ、すぐにグスタフ様にお伺いを」
「エリザ様の方が、重要でございます。誰に対しても、膝を折ってはなりませぬ。既に我々、儀式を発動しました。あとはエリザ様の御心のみでございます。」
ここにきて、エリザは自分の兵士の忠義と、責任の重さを改めて思い知った。しばし目を閉じ、開いたときには、もはや迷いはなかった。
「よかろう、お前たちの心、確かに受け取った。それでは今、ここに・・・」
えりざは、魔法陣を生成し、要塞を包んだ。まばゆい光が要塞を包んだ次の瞬間、兵士たちは絶命していた。そして。
「いでよ、氷の3巨人!!!」
氷の身体を持つ、3体の巨人がエリザの周囲から、生えるようにして現れた。エリザは、残りの兵士30人の命を集め、巨人に入れたのである。
「1つにつき10人分が限度だ・・・もはや何も感じぬ、発せぬ体にしてしまった。本当にすまぬな・・・手向けに、これをやろう。必ず、あの男を討ち取ろうぞ!!」
そういうと、エリザは氷剣エタニティを作り出し、巨人に与えた。もはや表現はできないが、エリザはたしかに巨人が喜びに震えたのを感じた。
「もはや我々に、敵はない!!!!」
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