第5話決戦

1


 その日、レイは基地の騒ぎで起こされた。


「なんだなんだ?訓練の騒がしさじゃないな?おい、何が起きてる?」


部屋から出た際に、偶然通りかかった兵士にレイは尋ねた。だが、兵士は青ざめた顔で、どうにも落ち着かない様子で、


「も、もうおしまいですわたしもわたしもあなたももも」


と、きちんと発言できない有様であった。仕方がないので、司令部に向かうレイであった。


「まったく・・・ライ、どうなっているんだ?」


ライはしかし、すぐには答えず、センサーモニターを眺めていた。やがて、ゆっくりと振り返り、こう答えた。


「今までにない巨大な反応がこちらにまっすぐ、2つ来ている。恐らくばれているんだろう。いま、偵察員を向かわせてみた、間もなく連絡が届く。」


「来ました!・・・敵は、巨大な氷の巨人が二体!!偵察員はやられた模様!」


連絡員が悲鳴に近い叫び声をあげた。ライはしかし、冷静だった。


「この基地も、放棄の時だな・・・おそらく迎撃しても、兵士たちでは歯がたたないだろう。」


「おいおい、俺がいるだろ?逃げなくてもいいだろ?」


「いや、レイ。お前には別の任務がある。この攻撃は、おそらく敵の戦力のほとんどを費やしたものだろう。センサーに引っかかったエナジー量から推定するに、複数人で巨人を操っている。だから、それに敵が集中している今こそ、逆にエリザを叩くチャンスだ。幸い、奴の居場所はわかっているからな、射出装置で直接、乗り込んで叩いてもらいたい。」


「けどよ、こっちに来ているのはどうするんだ?逃げきれないぞ・・・まさか!」


ライは、しかし、自信があるようだった。


「大丈夫だ。俺にも、三段覚醒がある。お前とは違って、悪いが拡張兵装もあるんでな?」


レイは、完全に了承して、射出装置に向かった。


「あっちで待ってるからな、レイ、出撃します!」


レイの射出を見届けたライは、指示をつづけた。


「残った兵はBルート経由による迂回路で要塞に向かえ!これは攻略戦だ!」


「しかし、隊長はどうなさるのですか!残ります!」


「いや、お前たちではあの氷の巨人はどうしようもないだろう、俺が好きに暴れるためだと思って、な?」


「・・・了解しました。では、基地の自爆準備完了次第、我々も出撃します。」


「頼んだぞ?」


ライは装備を整えるべく、自室に戻った。地力ではどうしようもないだろう。しかし、俺には、サポートの兵装がある。勝算はある。ライは静かに、その時を待った。


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出撃するレイを見送り、援護という形で脱出させる兵士の整理を終えたライは、自室で座り、敵の襲来を待っていた。どれくらい待っただろうか、ついにその時が来た。巨人の拳の一撃で基地は半壊し、ライの部屋が露出した。それを見たライは、静かに微笑み、三段覚醒した。全身から雷が迸り、確かに力が満ちるのを感じたライは、自然と敵に向かっていった。氷の巨人はライに対して、女王より授かった氷剣で斬りかかったがライは難なく回避。そして、倉庫から引っ張り出してきた拡張装備の1つ、エナジーミサイルを全弾放ち、直撃させた。さらに、ミサイル装備をパージすると同時に、バズーカ砲を何発も撃ち込んだ。これはライのエナジーを先込めして放つものである。弾切れになるまで撃ち込んだ後、ライは更なる追撃を加えようとしたが、もう一体の巨人の攻撃によって阻まれた。


「ちっ・・・確実に1体ずつ仕留めようとしたが、そううまくも行かないか・・・だが!


ライは冷静に反撃に転じ、蹴りを加え、巨人の頭部を吹き飛ばした。


「仕組みからして、再生するだろうが、足止めにはなるな!」


再び距離を置き、もう一丁のバズーカ砲で先ほど攻撃していた巨人に更なる攻撃を加えた。そして、弾を撃ち尽くすと同時に、巨人は跡形もなく砕かれた。しかし。


「これで1体・・・なんだと?」


巨人の破片が、もう1体の巨人に集まり始めていた。


「合体するのか・・・!さすがに楽には行かないとは思ったが、これは思ったよりハードだな・・・拡張兵装の残りは、回復装備しかないが、退くわけにはいかない・・おわっと!」


合体を終えた巨人が、氷弾、もはや塊である、を飛ばしてきた。回避するが、巨人が、巨体に似つかわしくない速さで迫り、剣で斬りつけた。ライはそれを雷丸で防いだが、そのまま吹き飛ばされてしまった。今度は巨人が先ほどの仕返しとばかりに、続けざまに氷を撃ち込んできた。しかし、ライは雷の壁でそれを防いでいた。


「まったく!」


ライは再び巨人に立ち向かった。


「雷砲!」


手から雷を何発も撃ちだしたが、巨人の外皮を削るだけで、あまり効いているいるようには見えなかった。


「おおおおお!!」


それでも全身に撃ちこみを続けるライに。巨人が堪り兼ねたのか、接近し、剣で斬りつけてきた。


「雷丸!最大稼働!!」


雷丸から閃光が迸り、巨人の剣を砕いた。その瞬間にライの気が僅かに緩んだのを巨人は見逃さなかった。


「がはっ・・・」


巨人の拳はライにクリーンヒットしていた。吹き飛んだライに、さらに追撃のために放たれた氷弾は、今度は確実に有効打となった。


「ぐっ・・・回復装備がなければ死んでいたな。がはっ・・・あっても、このザマだが・・・」


ライは立ち上がったが、それがやっとであった。


「もう殴られるわけにはいかないが・・・来る!」


巨人の接近に備えたライであったが、敵も考えている。ダメージで動きの鈍くなったライに、確実にとどめを刺すべく、周囲を高速で飛び回るに留め、なかなか攻撃をしない。


「ぐっ・・・だめだ、追いきれない、この身体では・・・しまった!」


巨人がついに攻撃に転じたが、それはライの予想した動きではなかった。基地の資材を投げつけてきたのである。破壊のために、ライはカウンター用に貯めた雷撃エナジーを放出せざるを得なかった。


「砕いたが・・・完全に見失った・・・!!!ぐわああ!」


ついに、巨人の一撃がライに直撃した。ライはギリギリで反応したが、弱い雷砲を撃つことしかできなかった。巨人は、致命傷を負ったはずのライに確実なとどめを刺すため、吹き飛ばした方向へ向かおうとした。その時であった、巨人が自身の違和感を認識したのは。ライを殴り飛ばしたはずの拳が、腕ごと脱落していたのである。巨人には目も口も無いし、当然痛覚も無い。もしあれば、痛みと怒りで方向をあげていただろう。そのような怒りの滾ったエナジーを放出しながら、今やさしたるダメージを受けた様子もなく、笑みを浮かべて腕を組んで立っているライの方に向かっていった。まだ左腕があるのだ、焦らず撃ちこめば良い!だが、ライは、


「俺が闇雲に射撃していたと、本当にそう思っていたのか?」


と呟き、またしても雷砲を放ち、左腕も落とした。バランスを崩して倒れた巨人を見やり、


「お前の体は歪にデカいからな、どこかに無理が生じるんだよ・・・スクリーニングに手間があれだけかかったわけだが、わかってしまえば、自然、解体ショーになる・・・お前がやるべきは、拙い追撃ではなく再生とダルマ型にでも変形することだったな・・・焦ったんだよ、お前は。」


雷丸で頭部をまず切り落とした。


「これで、再生以外の行動はできないな・・・動きを完全に止めさせてもらったよ。何せ、初披露の最大の大技なんでね?」


ライは両手を合わせ、ゆっくりと離した。手と手の間には、激しい雷が迸っている。


「再生もできないほどに細分してやるよ・・・スパーク・ブレイク!!!」


両手をつなぐ雷を断ち切り、顕わになった激しい両手の雷を巨人に叩きつけた。巨人の体に直撃したスパークは更に一層激しくなり、巨人の体を砕いていった・・・


「そんな姿になってまで、お勤め、ご苦労様・・・」


半分は自分に向けた言葉だった。


「さすがに、疲れたな・・・メダル発動状態すら維持できないのは、マズいな・・・身を隠す、いや、レイが残り全部倒すか・・・レイは、うまくやれているだろうか・・・」


結局、その場でライも気絶するように倒れてしまった。


 レイは、要塞に到着する寸前で四段超越した。そして、上空から突入する寸前に炎龍を放ち、巨人を消滅させていた。当然、これはエリザの機嫌を損ねた。


「お前は、私の部下を何人足蹴にすれば気が済むのだ?」


「お互い様だよ、いや、市民すら巻き込むお前たちの方がもっと悪いんだからな?」


「なんだと!!」


「まあ、贖罪の時が来たのさ、潔く受け入れな・・・炎銃!」


ほぼ不意を突いたレイのレーザー攻撃は、しかし、エリザの頬を掠めるだけに終わった。


「さすがに氷の女王だな、限界を超える反応速度だ。」


「貴様・・・私のレーザーまでも・・・許さん!!」


レイの炎龍とエリザの氷嵐が激突した。それは、まさしく決戦のゴングの音であった。


3

エリザは、自分の危惧が正しかったことを悟った。目の前にいる炎の男は、僅か二年でニルヴァでも上位の能力者である自分と正面から渡り合えるだけの力をつけていた。このままでは、万に1つでも、グレイヴに手が届かない、とも限らないかもしれない。その程度の、ほんの些細な可能性であるが、見逃すわけにはいかない。ここで確実に討つ!


 「ダイヤモンド・ワイバーン!奴を噛み砕け!」


しかし、氷の翼竜はすぐに炎の竜に食われ、消滅した。そのまま炎龍は襲い掛かるが、これを難なくエタニティで切り裂く。が。


「囮か!」


レイが目前にまでいつの間にか迫っていた。接近されれば手数で向こうに分がある。


「メテオショットガン!!」


「ぐっ!エタニティが!」


しかしエリザは、エタニティを折られただけで、それ以上のダメージは受けなかった。事前に、敵が所定の位置に到達すると発動するように仕込まれたダイヤモンド・ダストが発動し、巨大な氷塊がレイを襲ったためである。エリザはそこから針を出現させて追撃を図ったが、これはレイの炎柱に阻まれて失敗した。更にレイは炎の中から炎銃を放ち、勝負を決めに来た。エリザは自身も光線を放って打ち消したが、怒りに震えていた。


「!!クイーンズアローを真似たな、こいつ!許さん!!」


エリザは光線を乱射した。レイのそれと同じように、防御不能の光線なので、躱すか打ち消すしかない。だが、回避にしても、全身運動と指先の僅かな調整の差がある。すぐに追い込まれ、炎銃で打ち消すしかなかった。それも当然、エリザの計算内である。


「クイーンズアローは超高等技能だ!それを勝手に見様見真似で、しかも改変するなど!!許されぬ暴挙!!」


なおも光線で追い詰めるエリザ。


「ギリギリのバランスで成立させた能力をお前は乱した・・・私のものを上回る威力の代償として、連射はできまい、せいぜい10発が限度・・・それに対して私はいくらでも放てるのだよ、力尽きるまでな!」


 ついにレイが10発目の炎銃を放ち、エリザのクイーンズアローを打ち消した。だが、レイは、炎銃を使い切ったが、悲観してはいなかった。


(まだ4段超越は余裕を残している・・・それに・・・)


炎龍を二体作り、エリザを襲わせる。だが、あっさり光線に貫かれ、消えた。エリザが嘲笑う。


「どうした?弾切れか?ならば、死ね!!」


エリザの光線をギリギリで回避する。


「いつまでも、避け切れないだろう?・・・なに!」


レイは、しかし、無策で炎銃を見せてエリザを怒らせ、クイーンズアローの猛攻を呼び寄せたのではなかった。


(あいつの光線だって、消耗は大きいはず・・・確実に俺の一撃で仕留めるためには、へばらせないといけないんでね・・・それに)


レイは巧みな動きでいつの間にか、エリザの間の出口に立っていた。


「じゃあな、また来るぜ!」


「私の劣化コピーの弾込めをするつもりだろうが、させない!」


エリザは最初の罠のダイヤモンド・ダストで呼び出した氷塊を変形させて出口をすぐに塞いだ。さらに、


「クイーンズアロー!」


光線をついにレイに直撃させた。レイの撃ち抜かれた右足はそのまま凍り、動けなくなってしまった。


「やっと終わるな・・・まったく、部下全員と、要塞をこんなにも滅茶苦茶にしてくれた、恨み、この一撃で晴らさせてもらう!さらばだ!クイーンズアロー!」


だが、エリザはレイが4段超越から3段覚醒に変化していることを見逃していた。


「炎銃!!」


「何!?・・・ぐふっ」


レイの両手から放たれた炎銃が、エリザのクイーンズアローを打ち消し、もう1つがエリザの腹を撃ち抜いていた。勝負は決した。


「ぐっ・・・貴様・・・撃ち尽くしたと思っていたが・・・」


「先込め分は撃ち尽くしたさ。だから、再チャージしなきゃいけなかったが、まさか四段超越が解除しちまうとは思わなかった、ギリギリだったよ・・・」


レイは説明を切り上げた。本当は、四段超越解除の上に、エリザに撃たれて動けなくなったために、ようやくチャージができたのだが、それは言わなかった。これ以上挑発して、自爆でもされれば、今のレイでは逃げられないからだ。


「じゃあな、氷の女王」


エリザは、自身に迫る巨大な炎砲をじっと見つめて、そして飲み込まれて消滅した。


4

要塞制圧の翌日、イーサン国では、盛大なパーティーが催された。何といっても、ニルヴァの有力将校と目されるエリザを打倒したのである。主役は当然、レイ・・・とはいかなかった。エリザ戦のダメージが大きく、1日で身動きが取れるようにはなれなかった。だから、ライが今や輝かしいヒーローだった。兵士が囃し立てる。

「ライ隊長、レイ戦士万歳!!!」

「ライ隊長「ライ隊長「ライ隊長!!」」

歓声に応えながら、ライは自信を深め、また、レイのことを思った。

 二人なら、これからも、何でもできる、と。

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