第3話流浪へ
1
「ん~~~効くねえ~~~まずいかなあ?」
マルコがレイに一方的な攻撃を受けている。彼は先の要塞戦で死んだはずである。
「いい加減にくたばりな!炎砲!!」
レイの炎砲の直撃を受け、マルコの姿にノイズが走り、消えた。景色も要塞から計器の完備したトレーニングルームに変わった。2人は今、レオンの研究所に戻っていた。部隊再編でローチは不在であったので、久しぶりにかつてのメンバーに戻れ、レイは心底くつろいでいた。やはり、ローチはこころのどこかで受け入れられなかったようだった。
「お疲れ様、レイ、ライ。それぞれ独力でマルコクラスまでは倒せるようになったな。それに二段解放にもだいぶ慣れて負荷も減ったようだな。」
レオンがパソコンで解析を行いながら無感動に言った。ライの方が先にレオンのいる管理室に戻った。
「すごいですね、このログシステムは。まさか戦闘データがメダルに残っていて、記録を取り出してシミュレーションを構成できるなんて!」
「ライの方がメカには興味があるんだな。だからこそこのような分業体制をとったわけだが。」
「俺が先行試作システムのテストタイプで、ライが実用テストタイプだっけか?レオン先生?」
このころレイはレオンも先生と呼ぶようになっていた。ようやく懐いてきたようだった。ノエルが言い聞かせていたのも大きいのだが。
「そうだ。」
レオンが2人に向き合って答えた。
「レイが新たな戦闘システムの構築の、ライが実用化の道標となるわけだ。というわけで2人にそれぞれ新システムを導入してみた。まずはライからだ。記録装置を改良したもので、任意で記録、再生ができる。再生機能が特に優れていて、脳内に直接イメージを投影し、先ほどのシミュレーションのような臨場感が得られる。」
ライは早速自身のメダルデバイスを弄り回していた。
「さて、それで早速記録してもらいたいものがある。レイの新システムだ。マルコとの戦闘データを解析した結果、彼は二段解放よりもさらに顕著な変調を起こしたと我々は結論付けた。二段解放ではエナジーの絶対量は増えるが、変質はしないが、奴の場合は変質が認められた。通常のニルヴァ兵のようなエナジーから、より無機的な、ある種金属的なものへの変質が見られた。おそらく本人も自覚していなかっただろう。していたら、おそらくそれを生かした能力開発をしていたはずだからな。」
「つまり、あいつは宝を持ち腐れた、というわけか・・・」
「レイもたまには鋭いな、そういうことだ。幸いなことに、お前たちの場合は先に能力が与えられている。そこで資質に迷うことはないわけだが・・・もちろん、可能性の幅という点では悪いことをしたとは思っているが・・・ともかく、この変質に着目し、さらにこれを強める方向でのシステムを今回は開発した。今のレイナなら、振り回されないだろう。名付けて、三段覚醒。」
「三段・・・覚醒・・・」
レイはゆっくりとその言葉を飲み込んでいった。レオンの口ぶりから察するに、またしても負荷の大きなシステムだろうとは察しが付く。だが、立ち止まってはいられない。レオンの調子からすると、はるかに強力な敵がまだたくさんいるのだ。
「さて、今回はマルコのデータに手を加え、金属オーラを発展させ、能力を仮定してみた。この改造データと戦ってもらおう。」
「了解です。すぐ行けます。」
「では、またトレーニングルームだな・・・いや、外を使おう。計算では建物が吹き飛ぶからな。」
2
結局、テストは翌日となった。隔離された試験場を探すのに手間取り、場所も遠かったからだ。この延びた時間で、事業を引き継いだノエルは、シミュレーションデータを仮想から引っ張り出してきた。すなわち、擬似メダルで動く人形を作り、そこにデータを入力したのである。これも試作段階で、現状では本体バッテリー用とは別に、擬似メダルを積んだ塔で、いわゆるプロレスのリングのように囲み、結界を作らなければならないため、戦闘には使えない。
「でも、結界があるおかげで逆に訓練には最適なのよね。」
ノエルがシステムを確認しながら呟いた。
「さて、今回はライの希望で人格データをリアルタイム接続のライにさせてもらったわ。」
「それって、マルコの能力を持ったライと戦うってことか。いいぜ!」
「ごめんよ、レイ。どうしても間近で三段解放を見たくてね。それに、高い能力の世界も見てみたいのさ。」
ヘッドセットをつけたライが結界の外から呼びかける。
「じゃあ、接続するわよ。痛覚とかは遮断した分、シンクロが悪くなって、たぶんゲームでキャラを操作している感じになると思うわ。」
「かまいません、よろしくお願いします。」
「じゃあ・・・接続!」
数秒後、マルコ人形が動き始めた。声も人形から出ている。
「なるほど、ゲーム操作とはよく言ったもんだ・・・よし、ちょっと準備運動したら
行こうか!さて、こういう能力なわけだが、レイ君はどうするかな??」
マルコ人形は重く変質したオーラを纏っていた。
「ヘビーアーマー・・・確かにあのスタイルには似合わないな。重さの代わりに圧倒的パワーだから・・・俺には合うけど。さて、行くぞ!!」
「まずは二段解放で様子を見るか・・・炎砲!」
しかし、マルコは炎砲を気にせず直進した。鎧が炎砲を簡単に防ぎ、そのままレイに体当たりした。
「グッ・・・なんて重さ・・・これをやられていたら、間違いなく勝てなかった・・・隊長の回転剣も折られそうだな・・・」
一撃のダメージが想像以上に大きい。もう少し様子を見たかったが、そんな余裕は吹き飛んでいた。
「じゃあ、行くぜ・・・?三段解放!!!」
レイの体の炎が、より赤く、激しくなった。
「でやあああ!」
「正面から来るとは!もう一度思い知れ!!」
正面から二人の拳が衝突した。その直後には、今度はマルコが吹き飛んだ。それだけではない。鎧が溶け、人形の素体が露出していた。生身であったら、おそらく腕は失われていたであろう。
「なんという威力・・・だが、ヘビーハンマー!」
マルコは、残った左腕に金属エナジーを集め、球体を作った。
「いいアイデアだな、それ、もらったぜ!・・・炎球!!」
レイも右手を掲げ、マルコのように炎を集めた。しかし、規模がマルコの作り出す球、半身ほどのサイズ、とは比較にならず、結界を覆わんばかりのものとなった。
「ぐっ、うまくまとまらねえな・・・まあ、とりあえず今はこれで・・・!」
レイは既に三段解放の負荷のために、頭痛がし、集中ができなくなっていた。健全に動けるのはやはり、まずは数十秒なのだろうか。
「炎!!球!!!!」
結界の中が炎で包まれ、何も見えなくなった。炎が消えたころには、マルコ人形の姿はどこにもなく、レイが眠るのみとなっていた。
「やっぱり、負荷が大きすぎたわね・・・実用化は遠いなあ・・・」
ノエルが残念そうにつぶやいた。
3
三段解放の凄まじい力を体験したレイの身体には、異変が起きていた。
「メダルが体から出てこない!?じゃあ俺は一体どうなるんですか!先生!」
「落ち着いて、レイ。調べた限りでは、メダルは体に吸収されたと言えるわ。体に悪影響を与えることはないと考えていて、考えようによってはメダルデバイスなしでも、あなただけはメダルの力を借りてエナジーを操ることができるって、良いことにも捉えられるのよ?」
「まあ、そうだけど・・・とりあえず、動いてみるよ、先生。トレーニングルームに行ってくる!ライはどうする?」
「んー俺は・・・俺は飯が先だなあ。それにさっきので割と疲れたし、今日はもうやらないかなあ・・・」
「精神転送は本人のエナジーも結構消費するものね・・・今日はもうゆっくり休んだ方が、いいでしょうね。」
「ありがとうございます、そうします。それにしても、レイは先生のためなら、本当に何でもできてしまうんですね・・・」
「本当ね・・・無茶をしすぎないように、見守ってあげてね?」
「ええ、はい・・・本当に・・・」
こんな会話をしている間にトレーニングルームで、早速レイを見ながら、ライがゆっくりと言った。
「本当に・・・」
「おーいライ!二段解放が前より楽だぜー!お前も体にメダル、取り込んでみろよ!」
ライはしばらくレイのことを無言でじっと見つめていた。
「少しお伺いしてもよろしいですか?先生?」
4
レイたちが新たな力を得て、着実にそれをものにしつつあった頃。
ニルヴァが建造し、イーサンの所有物となった要塞を見ながら、エリザは演説を始めた。ここは国境地帯である。結局要塞奪取後、イーサンは侵攻することは今まで無く、こちらから仕掛ける散発的な偵察戦闘のみであった。それを彼女はイーサンの臆病だと断ずる。
「お前たち!まずはここまでの偵察戦闘、ご苦労であった!やはりイーサンにはまともなエナジー技術は無いということが、お前たちの働きでよくわかった!奴らは我々正規軍の敵ではないのである!!そしてついに今、重い将軍府が、ついに動いた!ここに命令を下す!」
エリザには、イーサンもニルヴァも怯懦だと考えていた。イーサンは要塞攻略の勢いで侵攻すればもう少しでも領土を広げられたし、そもそもニルヴァもマルコなどに要塞を遊ばせるからこのような事態となったのだ、と考えるからだ。ミリタンのように自分なりを投入してさっさと蹴りをつければよい、と不満であった。彼女はイーサンの内情など知らないし(既にボロボロである)、ましては彼女の祖国の目的が侵略にはない、とは知らないから、このように無邪気に思えるのであるが、もちろんそれを自覚する日は来ない。
「我々の目的は、要塞の奪取にあらず!内部の兵士の殲滅並びに要塞の破壊、及び新要塞の建造である!奴らを一掃し!我らニルヴァの誇りをあの地に示すのである!!」
「「「うおおぁー!」」」
エリザ隊は進撃を開始した。数は50人に満たない、小規模な部隊である。しかし、将軍府グスタフの信任を得るほど、その戦闘力はニルヴァの中でも高かった。
「ん、さすがに初動は向こうも早いか・・・しかし!」
イーサンのからの砲撃は、エリザの作り出した氷の壁によってすべて弾かれた。
「さて、ダイヤモンド・ダスト!」
たちまち要塞の周りに氷の塊が現れ、それが要塞に降り注いでいった。あまりに突然のことであったため、要塞内は大混乱に陥った。
「うわあああ!砲台がつぶされた!」
「こっちは出口が!」
「一部隊丸ごとやられた!」
「急いで出撃だ!あの女が一人でやっていることだ!」
イーサン部隊が慌てて出てくるのを眺めながら、エリザは笑った。
「なんだ、技の1つも完遂させてくれんのか・・・それ!」
エリザが気を放つと、要塞に落ちた氷塊が変形し、針となり、要塞に更なるダメージを与えた。もはや、機能を果たせそうにはなかった。
「さて、行くか・・・兵は待機し、後詰と新要塞建設の準備を始めよ!ここは私1人で良い!・・・あまりにも他愛ないな・・・バージンロード!」
エリザから要塞まで、氷の道が伸びた。射線上にいたイーサン兵は氷漬けになり、まもなく砕け散った。まもなく、要塞とエリザを結ぶ清らかな氷の道ができた。その上をエリザが滑り、周囲のイーサン兵を造作もなく蹴散らしていく。エリザは小さな氷柱を飛ばしながら、優雅に、美しく道を進んでいき、簡単に要塞に到着した。
「さて、兵士は引き返してきたか・・・残した我が軍の残りより私を脅威とみなすのは正しいな、褒美に一掃してやろう!ダイヤモンド・ダスト・スピア!」
棘の鋭い金平糖が何もない空間からいくつも飛び出し、イーサン部隊を襲った。
「さて、さっさと要塞を潰してしまうとするか、これ以上ウジ虫に付き合ってもなにも面白くないしな。」
「ここまでだよ!竜穿砲!」
竜巻の砲弾がエリザに降ってきた。
5
「なんだ、この敵襲は!?」
ローチは要塞の自室でエリザの襲撃を知った。それは今までにない衝撃だった。
「わかりません1突然氷塊が降ってきたのです、それもいくつも。今、急ぎ部隊が出ていきました・・・あれはもしや、ミリタン殲滅の主戦力であったエリザ隊なのでは?」
「恐らくそうだろうな・・・急いでレイたちに連絡してくれ。あいつらが希望だ。」
まずいな、とローチは感じていた。恐らく自分1人では太刀打ちできないであろうことは、すぐに分かった。しかし、やらねばならない。このままでは数分で要塞が陥落してしまう。どうにかレイたち到着までの10分程度を稼がねばならない。
ニルヴァが、イーサンとミリタンを分断しているのをいいことに嘘情報を流しており、エリザを誇大に広告しているのを差し引いても(実際にミリタンを滅ぼしたのは将軍府の3人である。エリザは、初期の攻略戦で戦果をいくつか挙げたに過ぎない)このローチの懸念はおおむね正しかった。現有の要塞戦力ではエリザ1人で殲滅されるのは確実だった。だからこそ、現在の最高戦力である自分が命を賭して更なる高戦力であるレイとライの到着を待つ必要があった。
(せめて、イーとヤンの後任が決まっていれば・・・いや、無駄か?)
こう思いながら、ローチはメダルを起動させ、竜殺しを持ち、エリザのもとへ向かおうとした。しかし、その時、氷塊が変形し、巨大な氷柱が襲い掛かった。
{!!!!なんてことだ!}
咄嗟に竜穿砲を放ち、氷柱を破壊したローチはさらに絶望的な感情を抱えながらエリザのもとへ向かった。もはや、どうしようもないかもしれない。だが、負けるわけにはいかない。
ローチが道中の氷柱を斬りながら要塞の外へ出た時には、すでにエリザが到着していた。思ったよりはるかに早い!まったく足止めできなかったか!と思ったが、長く伸びた氷の道と倒れた兵士の群れが目に入り、すぐに納得した。今、この女と戦闘状態に入ることが許されるさえ自分しかいないと。
「さて、さっさと要塞を潰してしまうとするか、これ以上ウジ虫に付き合ってもなにも面白くないしな。」
「ここまでだよ!竜穿砲!」
ローチの放った竜穿砲は、直撃しなかった。エリザが回避したのである。
(弾かなかった・・・ということは、この竜穿砲ならば、あるいは・・・)
一方エリザは、余裕そうに言い放った。
「少し・・・ほんの少し、まじめなのがいるようだな?名前だけは聞いてやろう?」
「俺はローチだ!これ以上はやらせん!かまいたち!」
「ほう?だが、このアイスパッドを砕くには力不足だな?」
ローチの攻撃は全てエリザの作る氷の壁に受け止められていた。
「だめだ、直接叩き斬らないと!」
「ならば、この氷の名刀、エタニティの錆がまた1つ増えるな!」
エリザがその場で作り出した氷の剣と、ローチの回転する竜殺しが激突し、あたりに衝撃波が走った。
6
「なんだって?要塞が大規模な攻撃を受けているだと?」
ライが画面に向かって叫んだ。ノエルの開発した通信装置により、連絡兵は不要となり、迅速な連絡が可能となっていた。しかし、そのため、レイたちは報告を受ける前に氷塊の変形で報告兵が吹き飛ばされ、通信装置が破壊されるのも見てしまった。
「・・・ッ!急いで向かわないと、先生!射出装置を!」
「ちょっと待って。レイ。あれは恐らく、氷の女王エリザね・・・今、2人に追加装備をインストールするわ・・・レイはそれを持参ね、もうデバイスがないから。・・・はい、これでよし。2人とも、決して無理はしないで。マルコなんかとは次元の違う敵よ。必ず、ローチ隊長とも合流して、3人の連携で戦ってね。」
「分かっています。きっと、隊長は先に戦っているでしょう、急いで合流しないと。」
「んで、そんなに強いなら、最初から二段解放で行くぞ、ライ!」
「当たり前だ!」
「じゃあ、行くわよ・・・発進!!」
2人は二段解放を発動させ、戦地へと大砲で射出された。
7
「ぐっ・・・ガッ!!なんて奴だ!俺は奴を動かすこともできないのか!!」
ローチとエリザは何度目かの激しい剣戟を繰り広げ、またしてもローチが弾き飛ばされた。エリザの剣は美しい細身であるのに、ローチの大剣真・竜殺しを軽々といなしていた。エリザはその場からほとんど動かず、その上周囲に氷弾を暇をつぶすかのように飛ばし、イーサン兵を屠っていた。これが、ローチには大きな屈辱であった。
「これが、奴とのエナジーの差だというのか・・・だとしても!鼬乱舞・真空乱波!」
「懲りないな、お前!ダイヤモンド・ディフレクション!」
ローチの放った大量の真空波は、エリザの前に現れた氷の鏡の層に飛び込み、砕いていった。
「そんな鏡で止められるものか!・・・何い!」
「だからお前は愚かなのだよ!」
真空波は鏡を砕くうちに進行方向を変え、エリザから逸れ、結局エリザを包囲していたイーサン兵部隊に直撃した。
「雑魚の相手など、この私がすることではない・・・お前自身で片づけてもらおうか!」
「竜穿砲を封じられた・・・剣が折れても、奴を直接斬る!」
「どこまでも愚かなのだな!」
回転剣をまたしてもエリザにたたきつけ、やはり防がれる。だが、ローチにも策がある。
「これなら!」
「私の剣が回る・・・チッ」
ローチは剣を通してエリザの剣に回転メダルのエナジーを注ぎ込んだのだった。剣はエリザの手から弾き飛ばされ、消滅した。
「今だ!」
「そうは行かんよ!・・・エタニティ!」
再び虚空から剣を取り出し、竜殺しを止める。
「何度でも取り出せるのか・・・ぐっ!」
「氷の女王だぞ、この程度、造作もないさ、甘かったな・・・さて、あまり面白くもなかったが、終わりにするか・・・ダイヤモンド・スピア。」
エリザの剣が槍へと変化し、ローチめがけてそれを飛ばした。吹き飛ばされたローチは態勢を立て直し、迎撃しようとしたが、いつのまにか右腕が凍り付いて地面とくっつき、立ち上がることさえできなくなっていた。
「・・・いつの間に・・・しまった!」
槍がローチを貫くことは、なかった。直前で空から炎が降ってきたからである。
「炎砲!」
レイとライが空から到着した。
8
レイがエリザの前に立つ。ライは素早くローチの氷を破壊し、追加装備からエナジーを補給させる。
「ほら、回転メダルも持ってきました・・・そろそろ、限界でしょう?」
「助かるよ、まったく。しかし、あいつはヤバい。全員で一気にカタをつけよう。」
「そのつもりだが・・・チッ、ショットガン!」
レイが素早くショットガンで氷弾を溶かした。エリザは傲慢であるが、決して手を抜く人間ではなかった。3人の連携も取るに足らぬとは感じたが、それども、仮に後方兵力に向かわれでもすれば、被害は出る。ここで確実に潰すと決めていた。
「あいつ、空も飛べるのか?・・・ショットガ・・・横から!?グッ!!」
レイが吹き飛ばされた。エリザは宙に浮き、その周りを小さな氷柱や氷塊が魔法陣のように舞っていた。それらが縦横無尽にレイたちを襲ったのだ。
「よく見ろ、あいつ、氷塊の上に乗って、それで浮いてるんだ、あれを狙えば、サンダー!」
しかし、ライの電撃は回避された。空中を自由に動けるエリザに攻撃を個別に当てるのはほぼ不可能だと分かった。
「どうにか連携で、体調の竜穿砲で一気に・・・」
「いや、レイの¥に新システムが入ったんだろ?それで行くべきだ。奴は射撃を曲げる。仮に竜穿砲を放って、曲げられて周囲にばら撒かれたら、それこそおしまいだからな。」
「聞いてましたよ、行きましょうか。」
レイが起き上がり、そのまま三段覚醒を発動した。レイの追加装備は、三段覚醒の負担を軽減するためのものである。肩とふくらはぎのフィンガ開き、余分なエナジーを放出すると同時にレイの機動力をさらに補助する。頭の輪は頭痛がするという声に応え、思考補助を行うのだ。
「よし、体が軽い!行くぜ・・・まずはその剣、叩き潰す!炎棒!」
レイは剣術を特段習得していないので、あえて棒術に出た。エリザは接近される前に氷弾での迎撃を試みたが、レイの速度に追いつけず、果たせなかった。
「これは、ようやく・・・楽しめるな!エタニティを折れるものか、しかし!」
「「俺の炎は!」
勢いそのままに、レイがエタニティを叩き折った。そのまま、回転蹴りを叩きこみ、エリザを吹き飛ばし、要塞にたたきつけた。少し壁が壊れた。
「追撃する!炎球!」
以前に演習で放った制御不能の大きさではなく、今度は等身大程度に収縮させた球を放った。だが、これはエリザの放った氷の波動によりかき消された。
「・・・その程度か?ならばダイヤモンド・ダスト!!」
「炎が・・・氷に・・・負けるわけ、ないだろ!!!」
レイへ放たれる大小さまざまな氷塊をレイは縦横無尽に躱し、必要なら迎撃した。その間にも確実に距離を詰め、再び拳を叩きこむ。しかし、エリザは今度は吹き飛ばされることはなく、氷の波動で逆にレイを吹き飛ばした。
「グッ・・・だが、氷漬けには、ならない!」
レイの身体から炎が噴き出し、侵食する氷を溶かした。エリザは軽く舌打ちし、追撃しようとした。その時である。ライが飛びかかり、雷丸で斬ろうとした。
「敵はレイ1人じゃない、雷丸、スパークブレイク!」
「雑魚が割り込むな!」
エリザの怒りがライに炸裂した。氷ではない純粋なエナジーの衝撃波にライは吹き飛ばされ、そのまま気を失った。ローチは急いでライの回収に向かいながら、もはや、この戦いには割り込めないことを痛感した。ならば、やることは・・・
「ライ、起きろ!まだやれるだろ!追加装備は、補給キットだ、これで!」
ライがすぐに回復した。
「すみません、隊長・・・もう一度行きます。」
「いや、もうあの戦いに俺たちの居場所はない。今やるべきは、残存兵力をまとめ、奴の後方戦力を叩くことだ、やれるな?」
「確かに、そうですね。向こうに50人ほど、強敵がいそうです。あれも止めないと・・・」
「よし、行くぞ!レイ、頼んだぞ!!」
「任せておけ!」
ライとローチと、僅かな兵士がエリザの向こうへとかけていった。エリザは、自分の兵が負けるとは全く考えなかったが、レイの挑発もかねて、適当に大きな氷塊を彼らに飛ばした。
「させない!炎砲乱舞!:
氷塊をショットガン並の数放ち、消し飛ばしたのを見て、エリザは、やはりレイさえ倒せばこの戦いは勝利できると確信したのであった。
9
「レイ1人に任せてよかったのか?」
「我々では足手まといにしかなりません。それに、奴らを止めないとレイが倒した後が厄介です。さすがにレイは力を使い切るでしょうし。」
ライとローチは40人ほどのエリザ兵に攻撃を加えようとしていた。
「ん、2人ほどエリザ様を突破してきたのがいるな?」
「命令は待機・・・だが、向かってくる雑魚を迎撃するのは構うまい?」
「では、誰が討ち取るか、早い者勝ちということで。」
明らかにエリザ兵は2人を軽く見ており、そのことは2人は了解していた。
「舐めてもらっちゃあ、困るなァ!風の二段解放!」
ローチにも二段解放が実装されていた。エリザ戦の際は完全に時間稼ぎのため長く戦う必要があることから、力量の差を考え発動がマイナスにしかならないと封じていたのだ。ローチの二段解放は2人の選考実装を基に改良されており、纏ったエナジーのオーラがやや濃く見えるだけである。
「お前たちみたいに派手なエフェクトこそないが、パワーは確実に二段解放だ!くらえ!竜穿砲!」
普段のそれよりも何倍も大きな竜巻の砲弾が放たれ、そのままエリザ兵すべてを飲み込んだ。そのようにライには見えた。
「なんて威力・・・これなら・・・!」
「奴らの鼻を明かしてやったぜ!さて、残存兵力の掃討だ、接近して薙ぎ払う!」
「数でも力でも圧倒する我々に接近戦とは、見上げた根性だが?」
「悪手の極みと言わざるを得ないな。練気弾!」
「練気弾「練気弾」「練気弾」」」
「なっ無傷・・・!?グワッ」
「雷丸・・・ダメだ、数が・・・グッ」
竜穿砲はなんと、エリザ兵にダメージを与えなかったのである。2人は練気弾に揉まれ、弾き飛ばされながら理由を探し、間もなく理解した。数人の兵士が鎧を作り、おそらく受け流したのだ。
「あれは・・・マルコ人形の仮設能力みたいなもの・・・ということは・・・」
「我々エリザ様に仕える兵は、各々エリザ様をお助けする盾の能力を習得している!お前らごときが立ち向かえる軍団ではない!」
「なんてこった・・・全員マルコ以上の戦闘力か・・・竜穿砲も効かんわけだな、マズいぞ、これは。」
ライもローチも、絶望していた。自分たちですら、後詰めのサポート兵にも及ばない。
もはや敗戦は決まった。
「どうやって最小限の被害で、撤退できるかになってきたな・・・ライ、お前の補給装備の残りは?」
「あと、二段解放1回分です・・・」
「よし、とりあえず俺にくれ。さて、不快だが撤退作戦の開始だ・・・」
ライとローチは急いで戻った。追撃はなかった。どこまでもエリザに忠実な兵である。
レイとエリザも、そろそろ決着のようであった。
10
「ライト隊長は行かせた!これで後ろの軍団は倒せる!後はお前だけだ!氷の女王!炎砲!」
「どこまでも甘い奴だ、お前は!」
あっさりと炎砲を打ち消し、嘲笑うエリザ。
「マルコなどという見習い失格ごときを倒したからといいて、図に乗るな!」
「マルコが・・・?あれで・・・?」
それはレイにとって衝撃的な発言であるのは当然だった。自分も比較にならないほどに成長したとはいえ、あれだけ苦労したマルコがエリザ軍では完全に落伍者だったなど!
「あの者は鎧の能力をついぞ習得できなかった能無しだ!その程度の奴と互角のお前らが戦えるはずはないのだよ、本来!」
「それでも、俺は強くなった。炎球!」
「まだ、格の違いを理解できないと見えるな・・・」
炎球すらも、エリザは軽く払いのけた。三段覚醒によって、ようやくエリザとまともに戦えたかのように思えたが、間違いであった。完全に押されっぱなしであった。
「ならば、見せてやろうか、格の違い。フリーズ!」
エリザがレイを指した指先から、光線が放たれた。レイの卓越した反応速度は脳天への直撃を回避させた(これにはエリザもやや驚いた)が、頭部の思考補助リングは砕かれ、更に砕けたリングが凍り付いた。
「今のは・・・マズい・・・!」
「ほう、まさか回避するとはな。誉めてやろう。だが、それ自体が必殺の威力を持ち、その上凍り付かせるこの力・・・我が奥義、格の差を理解しただろう?今や降伏など認めんがな。」
レイはエリザをじっと見ていた。絶望はしていなかった。
(アレは・・・もしかしたら・・・)
「しかも連射できる!お前はここで終わりだ!」
エリザの指先から次々とレーザーが放たれた。レイはただ躱す以外に道はなかった。しかし、片方はわずかな指の動き、もう片方は全身の大きな回避運動である。
「グッ・・・うわあああ!」
レイに直撃するのは必定であった。それでも、即死を免れたのは徐々に発達し、エリザも苛立ちを覚えるほどにまでなったレイの反応速度のおかげであった。だが、結果としてはレイは左腕と、ついで右足が撃ち抜かれ凍り付き、ついに行動不能となってしまった。
「さて、よくも動き回ってくれたが・・・これで終いだな。遺言くらいは聞いて、要塞に刻んでおいてやろう?」
レイはその言葉を聞いていなかった。補助装置が外れ、頭痛が限界になってきていたのと、自分の1つの可能性に賭けていたのである。
(集中しろ・・・右腕・・・右手・・・1本の指・・・)
「ふん、絶望して言葉もないか・・・ならば、さらばだ。」
「竜穿砲!」
ローチの竜穿砲が横から迫るのにエリザは一瞬気を取られた。本来、無傷でやり過ごせるのでで、無視できたのだが、完全な不意打ちのための隙である。そして、砲撃が迫るわずかな時間の間に、レイがレーザーを放った。が、惜しくも命中はしなかった。直後竜穿砲到着したが、これは氷の盾によって難なく処理された。エリザはこの間、最後の力を振り絞ってレーザーを放ったレイをずっと見ていた。
(この者、戦闘の間ですら恐ろしい速度で成長する!間違いなく生かしておいては脅威になる、ここで確実に仕留める!)
再びレイに向け、氷のレーザーを放とうとするも、決死の様相で突っ込んできたローチに妨げられた。煩わしげに氷剣エタニティを引き抜き、応戦したが、
「おおおおおおお!!!!!エリザぁぁぁ!覚悟!!!」
「まったく・・・」
エリザが辟易するほどの勢いで、一瞬ローチが優勢となった。この隙にライが倒れたレイを回収し、雷で氷を砕いた。レイは持てるエナジーのほとんどを消費し、気を失っているようだった
「レイ、すまない・・・ここは負けだ・・・立て直そう・・・ここは、ローチ隊長が・・・」
そこまででライは言葉を止めた。それ以上言えば、作戦を認めるような気がした。とにかく今は立ち止まる暇はない。動き出そうとしたとき、ローチが吹き飛ばされてきた。重症を負い、二段解放が解除されたようだった。剣で貫かれ、氷弾でここまで飛ばされたらしい。一方のエリザは、相変わらず無傷で小さな氷塊に乗り宙に浮いていた。
(あの炎の者のレーザー・・・掠めた頬が痛むな・・・やつらをまとめて消し飛ばすのがよいか・・・)
「ダイヤモンド・プラネット!!」
エリザが天に両手を掲げると、要塞を丸ごと飲み込まんばかりの氷塊が出現した。
「これで全て、潰してお終いにしてやろう!」
「うわああああ!」{退避!退避!}「どこに逃げろって言うんだよ!」
イーサン兵は恐慌状態だった。ライも、もはや動けなかった。
「これじゃ逃げられない・・・全滅か・・・」
ローチは、自身が殿になるつもりだったが、軽く凌駕されたことに絶望しつつ、レイとライだけなら、竜巻で飛ばせるかもしれないと思った。この2人が最後の希望である。絶やしてはならない。ゆっくりと落ちてくる氷塊を見やり、決意を固め、補給装備から二段解放を再起動させたとき、奇跡が起きた。レイが立ち上がった。
レイは意識が完全に戻っていないようだった。しかし、身体から湧き上がる炎は三段覚醒よりもさらに激しく、紅かった。明らかに三段覚醒を超えた変化を起こしていた。
「ノエル先生達は、こんな段階までレイに・・・?ライ?」
「いや、あれは、多分・・・」
そこまで言いかけたところで、レイが能力を発動した。無意識のうちに、エリザの氷塊と同じ大きさの炎の弾を作り上げた。それは氷塊とぶつかり、激しい爆発を起こして、両方とも消えた。その爆風の中、ローチはライに最後の指示をした。
「今だ!行け!あいつは任せろ!!後は・・・頼んだぞ!!!」
ローチは竜穿砲を放ち、レイとライを吹き飛ばした。威力はもちろん弱めたが、それ以上に今の進化を起こしたレイの炎がダメージを打ち消し、2人を戦場から離脱させる風へと変化させていた。
「隊長――――――――――――――――――!!!!」
ライの叫びは風と爆発に呑まれて消えていった。
ローチは2人が戦場から離脱するのを見送り、改め初めて怒りに燃えるエリザへと向かっていった。
「覚悟しろ!!!」
間もなく、ローチはエリザの銃撃によって撃ち抜かれ、生涯を終えた。
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ライとレイが研究所に飛ばされる頃には、レイの炎は消えていた。ライは眠るレイを抱きかかえながら、うまく着陸した。その音を聞きつけて、ノエルが慌て出てきた。彼女は、2人の様子を見て何があったかをおおむね察した。
「そう・・・やはり、氷の女王には・・・早く入りなさい。」
ライは、エリザの戦闘力やレイに起こったことを、全て話した。ノエルは何やらパソコンに打ち込みながら聞いていたが、レイの変化のところで、一瞬だけ動きが止まった。ライはそれを見逃さなかったが、とにかく彼も疲れていたので、気には留めなかった。
「そう、ローチ隊長はが・・・それに、その様子だと、ここも危ないわね・・・」
「はい、おそらく、すぐにでも全土への侵攻が始まるでしょう。我々には抵抗手段がありません。もはや滅亡しかないのでしょうか?」
「その話は、あとね。とりあえずあなたも休みなさい。大丈夫、そこまで急いで侵攻はしてこないわよ。」
その言葉を行くと、ライも倒れてしまった。それを見て、ノエルは微笑み、また作業に戻った。
ノエルの言うことは正しかった。エリザ部隊は、最初の氷柱で破壊した要塞をいちど完全に取り壊し、改めて建築する作業に追われていた。基本はエリザの氷塊で作ったとはいえ、一朝一夕でできる作業ではない。
しばらくして、レイは目覚めた。ライが何か、ノエルと話し合っていた。
12
「俺は、負けたんだな・・・」
レイは、起きるなりそう言った。ここにローチがいないことの意味も、察しがついていた。
「そうね。でも、あなたは生きている。まだ、機会はあるわ。」
「先生・・・でも、あいつに勝てる気がしないんです。三段覚醒でも、全くダメだった。」
「あなたには四段超越がある。」
ここでノエルは、ライの記録装置を使いながら、レイが気を失いながらも発現させた新形態について説明を始めた。ノエルによれば、封印という形で三段覚醒と同時に仕込んだものらしい。三段覚醒の時点での負荷を考えれば、四段超越はそもそも発動すらできないものとノエルは考えていた。が、レイの成長速度はエリザとの戦いにおいて、完全に予想を上回った。さらに、追加装備のうちの感覚補助装置がまだ生き残っていたため、危機を感知し、封印が破壊されて一瞬だけ発動した、のいうのが今回の四段超越のメカニズムであると、ノエルは語った。
「そして、今あなたがやるのは、四段超越を使いこなす、そのために完全に三段覚醒をものにすること。」
ライがノエルに続けて言う。
「お前の力がイーサン最大の希望だ。だから、レイ。お前にはこれから先生と一緒に、集中的に修行をしてもらう。俺は、その時間稼ぎをやる。」
「ライは一緒に来ないのか?それに時間稼ぎって言ったって、あいつらの力は・・・」
「そこで、こいつらを使うのさ。」
ライは、背後のメダルドライバーの山を指さした。
「これは量産型の・・・」
「そう、ローチ方式の簡易二段解放までを標準採用した量産型メダルドライバーさ。メダルも、用意した。要塞防衛に間に合わなかったのは残念だけど、まあ、あったところでエリザには通用しなかっただろうしな。とにかく、メダル部隊が本格的に成立したわけだ。体裁を整えるために訓練もしなくちゃいけない。とりあえず俺が経験値の差で二代目隊長ということになる。お前は部隊には所属しない特殊兵士さ。」
「ライたちには正面衝突ではなく、散発的な抵抗運動をしてもらって、侵攻を緩やかにしてもらうことを目指してもらうわ。目標としては、1年。その間にあなたは四段超越の習得をしてもらうわよ。おそらく、1年でも相当厳しいスケジュールね。三段覚醒までとは訳が違うわ。覚悟しておいてね。」
「わかりました、先生。どんな無茶でも、やってみせます。」
「それと、この地図を見て。イーサンに点在するこれらは、私の研究施設。残念だけど、抵抗作戦ではカバーできない位置にあるわ。都市や幹線道路を避けたから、当然だけれど。そこで、レイは修行しながらこれらの施設を周り、施設の破壊をお願いするわ。私は、ニルヴァから最も遠いこの海岸の研究施設に移って、遠隔であなたたちをサポートするわ。メダルドライバーに、通信機能を組み込んでおくから。レイはこの端末を使ってね。あなたのエナジーで動作するものよ。それじゃあ、ここまでで何かある?なければ、具体的な破壊スケジュールの話をするわ。」
レイは地図を眺めながら、改めてニルヴァの恐ろしさに思いをはせた。ニルヴァはイーサンとミリタンに挟まれていたのだ。それが同時に二国に宣戦布告したのだから、挟撃され、すぐに滅ぼされると、誰もが思っていた。国土比も2:1:2であったから、なおさらである。それが今、ニルヴァはミリタンを滅ぼし、国土の広さはイーサンを上回り、そのまま滅ぼそうという段階にまでなっている。人も土地も足りなかったニルヴァが島の覇者になるのも、ひとえにエナジー技術によるものだ。そのエナジー技術は、彼らはどこで手に入れたのだろう?そんなことをぼんやり考えていたが、ノエルの声に現実に引き戻された。
「それで、なぜあなたに研究施設の破壊をわざわざ頼んだのかというとね」
「はい?」
確かにそうだ。このような時に備えて自爆装置だってあったはずなのだ。
「最初の計画・・・つまりあなたの四段超越を考えなかったときに、施設を防衛拠点にしようと思って、最大防衛モードにしちゃったのよね・・・」
「そんな!?それって確か・・・」
「そう、基地の防衛装備がフル作動して、誰も近づかせないようになっているわ。しかも、あなたたちのデータを搭載した人形も複数体いるから、結構な攻撃能力あるわよ。」
「だから、遠隔で自爆もできない・・・と」
「ついでに、資料の回収もお願いね。データにしたものは持ってるけど、いくつか手書きでしか残していないものがあるから。つまり、あなたの表向きの任務は、ニルヴァより早く基地の防衛設備を突破して資料の回収をすること、になるわね。その端末に写して送ってくれたら、資料は燃やしてね?そういうことで本部には作戦を伝えてあるから。あ、そうそう、修行のやり方もその端末に送っておくから、失くさないでね?」
「了解しました。先生。任務と修行、完遂します、必ず!あ、そうだ、1つ訊いていいですか?」
「なにかしら?」
「いつ防衛モードを発動したんですか?」
「あなたたちを送り出した直後ね。」
「・・・」
こういう、冷静な計算ができるのもノエルの魅力であるとレイは理解していたが、ライはショックを受けるのみであった。
「相手が氷の女王だと知ったからには・・・ね?」
ノエルはライに諭した。
13
「それでは、ライ部隊、目的地へ向かいます!」
ライが、新たに編成した部隊を率いて抵抗作戦に向かった。これで、最低1年は会うことはないはずである。居場所が悟られないよう、直接の連絡は遮断されるためである。少なくともレイには、もう連絡の手段はない。
「では、僕も行きます。しばらくは国内を放浪しながら、施設の破壊を行います。ニルヴァ兵と遭遇するようなことがあれば、戦います。」
「お願いね、レイ。あまりニルヴァとの込み入った戦闘は避けてね。エリザはあなたの抹殺を狙っているから。あなただけが、脅威であることをあちらも知っているのよ。悟られないようにね。」
「もちろんです。せっかくフレイムメダルを多めに作って囮を作ってもらったんですから。」
「そして、あなたにはこれを・・・」
ノエルはバイクを取り出してきた。ローチの剣のように、擬似メダルをセットできるようだった。
「何個か、施設にこれに使える擬似メダルがあるわ。ついでに回収して。うまく使ってね。とりあえず、ここにあるのは起動用のメダルしかないから、いまはただの高速バイクだけれど、いろいろ機能を持たせられるから、それも頑張ってみてね。」
「ありがとうございます、先生。・・・それでは、レイ、行きます!」
バイクを起動させ、レイはまずは国境付近の施設へと向かった。これと前後して、ニルヴァの本格的な侵攻が開始された。
レイもライも、今はそれぞれの目的のために別れた。再開するときは、目的を達したときだろうか、あるいは・・・
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