第2話要塞攻略戦

1


「ひーーーーーまーーーーーーーだーーーーーーーーー!!!」


レイが手持ち無沙汰にショットガンを虚空に放った。


「作戦発令から、もう1月もたっているんだぜ?俺たちは最初の陽動作戦にちょっと出撃しただけで、そのあとはずっと野営地の造営じゃないか、戦わせろよ!!」


「はいはい」「いちちち水壁で」「打ち消すこっちのことも」「考えて」「「くださ!!」」


「ぐへっ・・・水弾を撃つな、水弾を!」


「はいはい、そこまで。ちゃんと訓練の成果は出ているんじゃないか、レイ?」


「ライは何とも思わないのかよ!この状況!」


「俺とお前は特に基礎訓練が足りない・・・基地造営と訓練をセットにするのもなかなか冴えたアイデアじゃないか?ショットガンも足でも撃てるし、だいぶ威力も射程も伸びた」


「まあそうだけどよ・・・」


レイはいまや、直接的な打撃は必要なくなっている、と感じた。ただ、実戦ではまだ試していないので、個人的な意見ではある。


「直接殴るなんてあいつらニルヴァの低俗がやってりゃいいのさ。それに、あんな雑魚の群れに二段解放まで使って勝てないなんてやらかして、これ以上先生を悲しませたくないしな!」


レイは愚痴を垂れながらも、だれよりも訓練に積極的であった。ノエルへの親愛の情が為せる業であるように、ライにも、他の4人にも見えた。


「さて、手合わせと行きますかね、ライさん?」


「喜んで、レイ閣下?」


2人はにやりと笑うとすぐさま二段解放を発動し、激しい模擬戦に入った。とにかく、このモードを完全に習得するのも彼らの任務の1つだからである。


「おーやってるな、お前ら。俺にもそのモード欲しいんだけどなあ・・・早いとこお前たちが完成させてくれよ!」


「隊長!申し訳ありません!!」


「ライはかしこまりすぎなんだよ・・・もう少しで完成だと感じています、ご辛抱を」


「ん、そういうことにしておこう。sて、レイくん、出撃がないのがご不満のようだね?」


「またそのお説教ですか・・・?」


「まあ、そうだが・・・まずは整理だ。敵要塞には3つほど衛星吉があって、目下これを通常部隊が攻略中だ。我々は初期に数度すべての基地に姿見せ程度の攻撃を行った。これは、我々の装備が整っていないことが主な原因だが、あと1つ、マルコを呼ばないためでもある。まあ、牽制だな?」


「はいはい、何度ですかね=?これ」


「さて、この度」


ここまで来て、4人の姿勢が改まった。新情報だからだ。


「基地攻略が完了した。つまり、これから要塞攻略に入る。」


「ついに出番ですね!」


「お前も結局退屈だったんじゃないか、ライ!」


レイが4嬉しそうに茶々を入れるのを微笑ましく眺めながら、ローチはつづけた。彼自身、退屈ではあったのだ。


「ただ、この状況は向こうも想定済みだろう。こちらが洗練されたエナジー装備を持った時点で、ある程度の反抗が起きることは見えていたはずだ。要塞に引きこもって戦力を固め、叩き潰そうという魂胆だろう。基地攻略班からの報告で、戦力が少なかった、とあることからも裏付けられる。わが軍は、敢えてこれに乗ろうというわけだ」


「だとすると、何か策があるんですか?例えば巨大なエナジー砲で要塞ごと吹き飛ばすとか?」


「ライはいろいろと考えているな?それも考えたらしいが、そんな大砲は作れないのと、あの要塞は奪取してこちらで使いたいという戦略から、普通に乗り込む作戦を採る。まあ、ここまではどちらかというと向こうのシナリオに乗っているな」


「おいおい、それじゃ俺たちは敵の作戦に乗って、それで死にに行けっていうのか?」


「熱くなるな、レイ。イレギュラーがきちんと用意されているさ・・・それが俺たちエナジー部隊、セイバーズだろ?」


要塞攻略作戦に伴って、レイの所属部隊も正式に、セイバーズと定まったのであった。


「確かにそうかもしれませんが・・・」


「自身な下げだな、珍しいこただ。俺達は確かに強くなったし、いけるさ・・・それに今回の隠し玉は、俺ということで、考えはあるのさ」


そういうと、ローチは建物に向かっていった。


「さあ、戦闘準備だ。出撃だぞ!」


ローチには自信があった。


2


「これが」「要塞」「かなりの戦力を水球が感知してます」「厳しいかも」


「便利だなあ、それ。1月でよく習得できたもんだ」


レイは、イーとヤンが囲んでいる小さな水球を見やった。2人は水球の様子からエナジー量を検知できるらしい。


「ま、俺にはわからんけどね。とりあえず、ファイアフィストキャノン改め、炎砲で・・・」


「いや、ここは隊長の俺に先駆けの華を持たせてもらおう。そのためのこいつだ」


ローチは剣と、メダルを取り出した。レイたちの使う金色のメダルではなく、銀色の、しかも少々分厚いメダルだ。


「なんですか?それ?どうも野暮ったいですね?」


「そう言うなよ、レイ。これは回転の力を付与したメダルだ。人に使うには確かに検討不足というわけだが、こうやってな・・・」


言いながら、ローチは剣にメダルを装着した。


「真・竜殺しに開店の力を与え、そして俺のウインドメダルの力と共鳴させれば・・・!」


竜殺しが激しく回転し始めた。


「竜穿砲!!」


回転した県から竜巻のような回転気流が放たれた!それは地面を穿ちながら、要塞へ命中し、直撃部を粉砕した!ライは純粋に驚愕していた。


「なんて威力・・・これがメダルの相乗効果・・・いや、ローチ隊長の実力か・・・しかし、いいんですか?要塞にあんなダメージを与えてしまって。あれはうちで使いたいんじゃ?」


「まあ、あの程度なら許容範囲だとよ。こっちの野営地と組み合わせればいいとは、教授の弁だ。さて、突入するぞ!ここからが本番だ!」


5人は竜穿砲で抉れた地面に沿って突撃を開始した。レイが炎砲を放ち、追い打ちをかけようとしたが、これは防がれた。敵は浮足立っていたが、マルコがいち早く対応したためである。


「よおーしぃ、やつらは行儀よく攻撃痕に沿ってきたぞ、落ち着け、確実に隊列を組み、迎撃に入るぞ!」


「敵の主力はあの5人だ!」


「後の雑魚はマルコ攻撃長にかかればいないも同然!


「倒すぞ!!!」


ニルヴァ軍は急速に持ち直し、5人を迎え撃つ。



「やはりマルコはこちらに主戦力を向けてきたな。ここで奴らを止められれば勝ちだ!護衛の銃隊、援護射撃は頼むぞ!乱戦では竜穿砲なんざ撃てないからな!」


まずはローチが飛び込んでいった。回転する真・竜殺しは手に持てる竜巻の様相を呈していた。ニルヴァ兵を薙ぎ払っていく。その後をレイがショットガンで確実に処理していく。ライはイーとヤンの2人の水柱コンボで広範囲の電撃を行い、進路を確保していた。


「いけます」「このまま主力を分断して」


「そうはいかないよなあ?練気弾乱舞!」


マルコが割り込んできた。曲線的な動きができる上位気弾を複数打ち込んできた。


「やはりこいつだけ周囲とレベルがダンチだな、しかし、ショットガン!」


レイが確実に舞う弾を撃墜していく。


「足でも、撃てる!」


全てのマルコの砲撃をやり過ごしたと思った。しかし、甘かった。


「ぐっ」「うわあっ」


振り返ると、イーとヤンが倒れていた。


「まず、壁2人・・・のろい気弾は弾けても、速いレーザーはねえ?」


「イー!ヤン!返事しろって!おい、ライ!」


「あいつを倒せばどのみち勝ちだ!唸れ雷丸!二段解放!!」


「ライ!!」


「レイも行け!今奴を倒さないといけない!」


「了解、二段解放!ショットガン!!!」


レイとライは二段解放を使い、一気にマルコに迫った。サポート役が倒れた今、短期決戦に賭けるしかなかった。ローチは、まだ二段解放が搭載されていない自分を恨めしく思いながらも、露払いを続け、二人の路を拓き、勝利を願った。


4


「おお、おれが!」「マルコ様の寝気砲!!」「俺は初めて見たぜ・・・」


ニルヴァ兵も感嘆するそれは、マルコの秘技であった。両手がふさがるため、そう簡単には撃てないが、通常とは比較にならない速度で気弾が放てる。威力も当然、大幅に高く、事実イーとヤンはこの一撃で命を絶たれたのであった。


「よし、一気にいくぞ・・・うおお!?」


ニルヴァに流れが完全に傾くことはなかった。すぐさまレイのショットガンが襲い掛かり、兵を焼いたからである。その中からライが飛び出てきた。マルコは自分に飛んできたショットガンを軽く弾き、けだるそうに言った。


「まあ、俺が勝つか奴らが勝つか・・・それが全てだよねぇ。本気出すかぁ?」


ライがすぐに飛びかかる。


「許さん!雷丸!」


しかし、ライの斬撃はマルコの短剣に止められた。


「そんなオモチャで!」


「止められる気分はどうだぃ?」


「ふざ、けるなあ!」


短剣を折ったが、マルコはさっさと回避しており、有効打にはならなかった。


「おっと、やるねえ・・・乱舞弾!」


「二度も通じるかあっ!」


ライは雷丸から四方に雷撃を放ち、気弾を吹き飛ばした。動かないで処理したため、直後のレーザー弾も剣で弾くことができた。


「まあ、そうか、じゃあ本気で行こうかなあ?」


「なんだ・・・うわっ?」


マルコの体に纏われたエナジーが明らかに変質していて、ライは吹き飛ばされてしまった。明らかな隙である。


「じゃあ、お望み通り大剣で斬るねぇ!」


「ぐっ・・・」


だが、二人の間にレイの巨大な炎の拳が割り込み、マルコの追撃は中断された。


「ん~~~デカパンチかぁ」


「炎砲!二連撃!」


レイの炎砲はしかし、あっさりとマルコに切り裂かれた。


「ん~イキッたガキが2人・・・まあ、相手にはちょうどいいかぁ?」


レイとライはマルコに突撃していった。


5


ローチは、やや絶望的な表情で戦いを見ていた。


「あの2人で攻めてもうまく躱されるのか・・・援護してやりたいが、竜穿砲では全員巻き込んでしまう・・・しかし、マルコのあれは、何だ?二段解放だとでもいうのか?」


マルコは、レイとライの攻撃を大剣でうまくいなしていた。もともと、ローチと同じような大剣を使うのに、体は細身であったから、あたかも曲芸師ののような動きに見えた。2人は、二段解放がこのような実力者の、いわゆる「変調」を機構的に模したものであることを知っていたから、マルコのパワーアップ自体には驚きはなかった。しかし。


「ん~~~また剣で押し合うかい??」


「くそっ、どうしてもパワー負けしている!この雷丸だって改良したというのに!!」


ライの二段解放はパワーよりの強化である。レイのように素早さで翻弄とはいかないが、雷のパワーでの突破が持ち味であると1月の訓練でライは理解していた。しかし、それがこうも正面から力負けするとは!


「クッソ!ショットガンがこうも当たらねえ!」


「当たらないじゃなくて、ちゃんと弾いてるのさぁ・・・練気弾っと」


「しまっ・・グハッ」


「レイ!」


「まだまだあ!」


練気弾が直撃し、吹き飛ばされてもすぐに復帰し、マルコに向かうレイ。レイにしても、攻撃が見切られ切っていることへの焦りが増しつつあった。このままでは時間切れでこちらが倒れる。向こうの変調とは違い、こちらには明確なタイムリミットによるパワー「切れ」があるのだ。


「レイ!」


ライは叫び、一気に雷丸・改にエナジーを集中させた。


「ライ!?それをやるとお前は!」


「どちらにしろ時間がない!一気に勝負をかける!!」


「んーーいいのが来るかな・・・?いいよぉ」


「その間抜けな余裕面のまま吹き飛べ!!雷一閃!!!」


雷丸はいまや光り輝く大きな槍となり、マルコに襲い掛かった。マルコの剣とぶつかり合ったとき、激しい光が2人を包んだ。


「ライーーー!!」


レイの叫びが光の渦に消えていった。


1


激しい光が落ち着いたとき、レイは、ライが倒れているのを見た。


「ライッ・・・」


「まったく・・・剣が砕けちゃったじゃないかぁ・・・さて、こんな死にかけのとどめよりは」


マルコはライを蹴飛ばし、こちらにレーザー弾を放った。


「そっちの残りが先だよねえ!」


「ぐっ俺の残り時間も無いってのに!炎ほ・・・グッ!」


マルコのレーザー弾と曲がる気弾のコンボはレイに反撃の隙を与えなかった、が、彼は完全に敵がもう1人いることを忘れていた。ローチである。


「2人から離れてくれたな!これが最後の!竜穿砲!!」


ローチの竜殺しが激しく回転し、竜巻の砲弾がマルコに放たれた。剣が回転を終え、エナジーを使い果たした回転の擬似メダルが砕け散ったとき、要塞には穴が開いて日が差し込み、マルコの姿は消えていた。


「これで真・竜殺しはただの竜殺しだ・・・しかし、マルコは・・・」


「跡形もなく消し飛ばないよぉぉ」


{!!!ぐわあっ!!!}


瓦礫からマルコが飛び出し、ローチに攻撃をした。だが。


「もはやレーザー弾はおろか、練気弾すらも撃てないまでにはやられたな!後はレイ、お前が・・・」


言いかけてローチも倒れた。


「隊長!!今のがそんなにダメージを!?」


「ふふふふ!さあ後はお前だけだねぇ!」


レイに向かって放たれた気弾は、もはや二段解放状態のレイにはダメージとはならなかった。マルコは変調も維持できなくなっていた。ローチが倒れたのは、竜穿砲が回転のメダルの力も自身の風のエナジーも大量に消費する大技であったことが原因だが、これを知るのは帰還後のことである。もはやマルコは、本来なら戦闘継続ができないほどに弱っていた。彼を動かすのは、戦闘欲そのものであった。レイは恐怖した。


「そんな姿で、なぜ来る!もう俺にもこんなに殴り飛ばされるのに!!!」


「まだだよおぉぉ」


「くそっ・・・残り時間も無い・・・」


レイは意を決し、マルコを討ち果たすことに決めた。自分1人で倒せなかったことがやや不服で、逃げてくれれば再戦で今度こそは、とも思ったのだが、このような危険人物を残すわけにはいかなかった。


「ここまで来るのに、イーとヤンは死んじまったし、ほとんどはライと隊長の手柄だ・・・でも、俺が決めるよ、ごめん!」


レイは高速で飛び上がり、マルコを蹴りでねじ伏せた。


「イーとヤンに悪いかな、この技・・・炎柱!!」


レイが手をかざすと、マルコがいる場所に炎の柱が立った。マルコはその中で焼かれていたが、


「負けだねえ・・・」


自分の戦闘欲が満たせる中で死ねることに満足していて、そのまま消えていった。



 マルコが打倒されたことにより、ニルヴァ軍は戦意を失っていた。レイも二段解放をどうにか時間切れのギリギリで解除し(解除できるとは効いていなかったので、驚いた)、倒れたローチの代理として指揮をとりつつ、無理やり戦闘した。


「マルコは死んだ!今こそ一気に突き崩す時だ!俺もまだまだ戦える!見ろ、ショットガン!」


「うおおお!突撃、突撃!1」


ニルヴァは完全に崩れ、要塞から急いで逃げ出したが、その道中でも混乱が続き、必要以上の損害を出した。今や要塞は完全に陥落した。要塞内はイーサン軍の歓呼の声で埋め尽くされた。初めての反攻作戦で勝利を収めたためである。


「さて、これで俺の役目もとりあえず終わったか・・・ライト隊長を拾ってこないと・・・」


そう言いながら、レイも倒れてしまった。うるさい歓呼の声は、眠りに落ちていくレイにとっては、とても心地よい導眠剤であった。


3


ニルヴァ軍が国境付近イーサン側要塞から追い出されたという報告は、速やかにニルヴァ軍団長のもとへ届けられた。将軍府には3人がいるのみである。将軍グレイヴは、戦闘服である黒い鎧を常に装着しているが、今は、兜はつけておらず、表情がうかがえた。そのため、敗北報告を持ってきた連絡兵はおびえていたが、グレイヴはリラックスした表情を崩さずにそのまま報告を聞き終え、連絡兵を返した。3人だけになったところで、グレイヴは2人にに意見を求めた。明らかに面白がっていた。


「やはりマルコ程度では足止めもきちんとできなかったか・・・いかがいたしましょう、グレイヴ閣下。私が出向き、奴らが無駄に勢いづく前に殲滅してしまった方がよいのではないでしょうか?エナジー技術の一端を手にした今、訓練兵主体のイーサン攻撃軍では少々厳しいかと考えます。」


長身で細身の、やや神経質そうに見える男、グレイヴ直属の護衛双璧のうちの1人のカナタ、が将軍たるグレイヴに尋ねた。しかし、もう1人の双璧である、いかにもな大男のグスタフは、やはり大男らしく笑いながら否定した。


「わっはっは・・・いや、その必要はあるまい。目下、ミリタン国の攻略戦が大詰めだ。こちらに注力せねばならん。イーサンとは違ってまともなエナジー技術がある。侮れなかっただろ?その分有望とみて優先的に調査させていたわけだが・・・結果が届くな、そろそろ・・・まあとにかく、調査団を送り込んでもいないイーサンは、とりあえずよいでしょう?閣下?」


「グスタフの言う通りだな。イーサンなど、我々3人が行けば3時間もかかるまい。それに、奴らは改めて侵攻するほどの戦力も気力も、持ち合わせてはいない。まずはミリタンだ。さて、お前たちお待ちかねの調査報告が届いている・・・まだ俺も開けてはいない、3人で共に見ようではないか!こっちに来いよ2人とも・・・さて、我々の求めるものは、ありや?なしや?・・・っと」


後ろで見ていたカナタが真っ先に反応した。


「!!これは!!」


あまりの興奮に感極まり、泣き出してしまった。それを見て苦笑しながら、


「さて、3人での出撃ですね、これは」


とグスタフがのんびり言った。グレイヴは笑いながら頷いた。ミリタン国は数時間のうちに地図から名前が消え、ニルヴァの国土がおよそ2倍になることが決まった運命の瞬間は、このようによそから見れば、あまりにも軽い談笑であった。


4


 先ほどの会議から数時間後、ニルヴァ軍中枢の3人はミリタン国首都跡地に立っていた。本当に数時間でたった3人で一国を落としてしまったのである。彼らの破壊は凄まじく、険しい山々(このためニルヴァ軍の侵攻が遅かった)を吹き飛ばし、広大な平野に変えてしまった。今やカナタと同じくらいにまで痩せたグスタフが呑気そうに言う。


「地下鉱山が全てで良かったですねえ。おかげさまでスムーズに侵攻できた。いやしかし、最初からわかっていればなあ。」


「調査は慎重に、また秘密裏に行わなければならない。奴らに我々がニルヴァを建てた意味を気取られてはいけない。そうでしょう、閣下?」


「その通りだ、カナタ。お前の心配性も、こういう調査作戦のためにあるのだな。さて、気持ちのいい夕日を眺めながら、今後のイーサンの調査作戦と、当面の侵攻作戦を考えるか。もはや悩みの種もないし、カナタを送ってもいいが・・・」


「いえ、我々は今度はミリタンの回収資源を基に、大陸回帰の計画と、前段階の交易に出ねばなりません。その準備でわれら3人、暇がありますまい。」


「カナタはさすがだなあ。さて将軍、私には推薦したい人物がおります。例の氷の女王の異名を取る・・・」


「エリザか。ちょうどよかろう。彼女を筆頭にしておけばスムーズに侵攻もできるな。調査団を潜り込ませる必要もなくなるかもな・・・イーサンは無駄に広いし、隠密調査では時間がいくらあっても足りない。それに望み薄の地域にあまり手間もかけたくないな。よし、グスタフ」


「いえ、こういうのはカナタの領分です。後は頼むぜ?」


「まったく都合のいい・・・私が調査団とエリザ部隊の調整をいたします。よろしいでしょうか。」


「よいよい、全て任せる。間違ったことも一度としてないものな?」


イーサンに史上最大の危機が迫ろうとしていた。ミリタン跡地は清々しい青空が広がっていた。

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