レイ戦記

倉羽英太

第1話序章


「はら、レイ、準備は出来てるの?大砲で戦場まで飛んでいく覚悟があるようには見えないわよ!」


「大丈夫だよノエル教授。俺・・・僕はいつでもいけます。ライだってそうさ、な?」


「俺はまあ、もうメダルの能力も発動させましたからね。レイ君もさっさとしなよ、な?」


若い男2人と女1人がリラックスした様子で話している。これから戦場に大砲で男たちが送り出されるようには見えなかった。


「わかったよ。そのバチバチするのを抑えてくれよ」


「無理だって、俺だって昂ってるんだ。このサンダーメダルの力、早く試したいってな・・・熱ッツ!いきなり発動するこたないでろ!レイ!!」


「これがフレイムメダルの力か・・・確かに実戦を前にすると、改めて力を感じますね、教授!・・・あ、ごめんライ」


「ついでか!」


「いいじゃないの、二人とも。似合ってるわよ、発動形態。それじゃ、発射するわよ。・・・無事で帰ってきなさい」


「「高価なテストタイプを失うわけにはいかないから」」


レイとライがノエルの心配を茶化し、大砲型試作長距離輸送装置に入った。それを見て、ノエルが装置を起動させながら。


「発射!!!」


二人は戦場に飛び立った。





「・・・とにかく、我々の任務はエリアGに侵入したニルヴァの敵部隊の侵攻を食い止める・・・いや時間を稼ぐことである。まもなく作戦エリアに到達する。諸君らの健闘を祈るとともに、われらがイーサン国の護持を願おう。」


 悪路で揺れる大型車内の兵士の群れの中で、ひときわ目立つ大柄の男が暗い調子で演説を終えた。車内の誰一人として向かう先にわずかばかりの希望もないことを知っていた。ひそめた話し声は、どれも敗北作戦への絶望を語っていた。


「本当に奴らは同じ人間なのか?銃弾を跳ね返して殴りかかってくる生物なんて、俺らの装備でどうすりゃいいんだ?時間稼ぎといったって、ただなぎ倒されるのを待つタイムアタックじゃないか!この前の作戦みたいに引き込んで大砲群でドン!ってやれるならやりがいもあるのによお!」


「まあな。だが、剣は効いたって話も聞くぜ、少しはやれるかもよ?」


「噂だろ?それも願望だ。」


「横から失礼するよ。その話は事実だ。どうやらニルヴァの奴らは、生気のコントロール技術を持っているようだ。俺らには技術はないが、生気、いや奴らはエナジーとか呼んでたな、とにかくそのエナジーとやらのコントロール技術はまだないが、誰しも持っているものだ。無自覚ながらも触れる範囲なら僅かばかり使えて、それで剣で斬れたってわけさ。ま、奴らも俺らも人間ってことさ。」


 二人の間に割り込んだ男は陽気に語りかけた。二人のうち、若い方は不快そうにその男を見つめた。年長の方は陽気な男に、


「お前はやたらに詳しいな。一体どこで仕入れた情報だ。確証はあるのか?」


といくらか非難するように尋ねた。上機嫌な男は笑いながら答えた。


「そりゃ俺がやったから詳しいのさ。この大剣が何よりの承認よ。ま、今回もぶったぎってやらあなあ。いいかい、」


「作戦エリア到達!出撃!」


言い終わらないうちに隊長の怒号が響き、全員が出撃をした。何人かは車ごと吹き飛ばされたようだった。既に戦場に降りていた若い兵士はそれを見ながら、時間の問題だな、と思った。





既に戦場はイーサンに不利であった。やはりニルヴァのエナジー技術は圧倒的であった。個人レベルでは斬りかかる以外にいまだイーサン兵は対抗手段を持たないが、エナジーにより活性化されたニルヴァ兵にはそうそう斬撃など当たるはずもない。銃撃はまだ命中するかもしれなかったが、兵士の重程度ではまったくお無効なことを誰もが知っていたので、撃つものはいなかった。


 大型車の爆発に自身の暗い運命を見た先ほどの若い兵士は、もはや逃げ回っていた。相棒はとうにやられていたし、ニルヴァ兵を倒したと自慢したあの大剣の兵士も死んでいるのをつい先刻発見したためだ。


「ちくしょう!やっぱり何もできないじゃないか!こんなあっさり死ぬのかよ!」


「そうだ」


見ると、ニルヴァ兵が行く手にいた。手から気弾を放つのが見えるーーー。


 だが、兵士にそれが命中することはなかった。空から炎に包まれた男が降ってきて、気弾を受け止めたためである。


「・・・?助かった?しかし、お前は??燃えてるぞ??生きているのか???」


「せっかくの初陣だし、名乗り口上っていうの、やってみるか」


そういいながら、炎の男はニルヴァ兵に向かい、炎の拳で兵士を殴りつけ吹き飛ばした。


「俺の名は、レイ!新型装備開発部隊の2人の隊員のうちの1人さ!」


よほど目立ちたいのか、興奮しているのか、異変に気付いて集まるニルヴァ兵をなぎ倒しながらも、まだ口上を続けている。


「これが俺のエナジー、炎の力だ!よーー覚えときな!!!」


そう叫びながら、レイはニルヴァ兵の一団を打ち出した炎の拳で薙ぎ払った。


「これが俺の必殺・・・んー技名はファイアフィストキャノンだな!」


満足げにつぶやくレイを見て、兵士は生き残った安堵とともに、


「今決めたのか・・・」


とつぶやいた。レイという少年に感謝せねばなるまい。少し戦場に立つには軽いようには見えるが、力は確かそうだ。


「ん、ライも終わったな・・・勝利勝利い!」


レイはそう遠くない場所での光が収まったのを見て、満足そうに頷くのであった。エリアGは防衛された。


3


「本日もご苦労であった。連日連戦であるが、問題ないようだな。おかげさまでデータも溜まりつつある。:


レオン博士があまりにも興味なさそうに喋るので、レイもライもほとんど話を聞いてはいなかった。博士は、自分の研究以外には興味を持てない人種であった。そのため、元々住んでいた平和な大陸よりも、戦争の続く島の方が、研究が進むと喜んでイーサンの招聘に喜んで応じたのであった。それに付き合わされた自分とノエルの苦労なんてわからないのだろうな、とレイは思うのであった。道中レオンがノエルを心配したことなんて無いし、今もない。それ以前に、二人は完全に隔日で生活リズムが異なっており、直接顔を合わせたこともないはずである。大陸時代から研究の引継ぎ資料でしかお互いを知らないのに、まあ大層な信頼関係だ、とレイはちょっとした嫉妬すら覚える。ライのように飲み物を飲む気にもならないので、そのまま、でもそのおかげでイーサンのエナジー技術はようやく一定の水準に達しつつある、ニルヴァとは違う、洗練された方法、つまり過酷な長期間の訓練を要さないでエナジーを使えるようになるのだ、きっとレオンよりノエルの方が貢献したに違いない、などとぼんやりと考えるのであった。


「さて今日は軍のお偉いさんが来る。お前達が使っているメダルシステムがようやく一定の形にまとまり、生産に入るのと、それに伴う簡易エナジー兵器の目途がついたためだ。ん、これまではじり貧の防衛作戦であったが、間もなく反転作戦を行うらしい。お前たちもこの実験部隊から正式な戦隊に間もなく転属となるだろう。」


転属、というところでレイは急に目が覚めた。転属?ノエルと離れ離れになるじゃないか!


「転属だって??元々俺は軍属じゃない。ライはともかく、俺はノエル先生の傍にずっといるからな!!」


「落ち着け、レイ。どうせサポートで我々二人もついていく。結局我々は4人でセット、ということだな。」


「なら、いいんです、なあ、ライ?」


「俺はついでかよ。まあ、そうは思うけどな」


そんな普段通りの談笑をしているうちに、来訪を知らせるベルが鳴った。レオンは迎えに行った。彼は興味がないだけで、きちんと社会的な行動もこなせるんだな、とレイは意外に思い、おかしくなるのであった。さて、自分たちも説明会には出席しないといけない。


4


「・・・このように、メダルシステムによって簡単に使用者からエナジーを利用可能な状態で引き出し、活性化することができます。残念ながら現状ではエナジーをそのまま取り出すことはできず、何らかの単純な属性が付与されてしまいます。」


レオン博士の講義にも似た説明が続く。将校の一人がここで質問をした。


「それによる不具合は?」


「大陸でみられるような、複雑な能力の発現、例えば、遠隔操作、物体の創造、それに治療といったことができなくなることが挙げられます。」


予期された質問であったので、博士は即答した。


「治療に転用できないのは問題だな。向こうの兵士の復帰が早いのはエナジー技術によるものだっただろう。今後戦闘力が対等になれたとして、この回転速度の差は大きなハンデだ。」


「対等に戦えたら、の話だ。結局メダルシステムも画期的ではあるが、全兵士に届けられるほどの生産力がない。レジスタンス的な意味しか持てない。いっそ降伏すべきか?」


「何を言うか!敵の将軍グレイヴはこちらの兵士の投降を一切認めないのだぞ!降伏すれば皆殺しだ!いや、その前に認めないだろう!!徹底抗戦以外の選択肢はない!!!」


「ご静粛に願います。まだ説明の途中であります。対応策があります。」


将校たちの言い争いをよそにレオンが冷たく(そう聞こえる)言い放った。驚く将校を意に介さず、レオンは話を続ける。


「この数戦は我々にメダルシステムの運用データを収集させるには十分でした。まず、ご承知の通り、システムは良好な稼働を示したことから、既にメダルシステムは生産体制に入っております。まもなくメダル戦隊が実現することでしょう。そして、つい先刻、メダルを用いないでも最低限の攻撃力を得るためのデバイスを開発しました。こちらがその、エナジーガンとソードです。メダルシステムの原理を利用し、使用者から武器の使用に必要なだけのエナジーを抽出します。これにより、訓練なしでのエナジー攻撃が可能となり、敵兵に対して有効なダメージが期待できます。」


この報告に群は色めき立った。すぐに武器セットは量産され、兵士に配給された。兵士たちはそれらを試し、確かな手ごたえを感じた。ついに組織的な反攻が可能となり、戦線を押し戻し始めた。そしてついにイーサンの大反攻作戦第一号が発動されたのである。レイたちメダル部隊はその中心として組み込まれることとなった。


5


「レイ。頑張ってね。レオンと一緒に無事を願ってるわよ。」


「はい、先生。このころは一般兵も頼れるようになってきました。負けませんよ。」


「頼もしいわね。ほら、体調が来たわよ。挨拶してらっしゃい。」


そう言うとノエルはレイを来訪者に押しやった。その人は怪訝な様子でこちらを見ていた。確かに研究者と被験者にしては仲睦まじすぎるし、親子にしては歳が近すぎるように見える。しかし、これが彼らの関係なのだ。


「ご紹介いただきまして。私がメダル部隊、といっても君たち2人を入れて5人ですがね、の隊長のローチです。どうぞよろしく。早速ですが、出発し、道中で説明と行きたいのですが」


そういうとローチはメダルを発動させ、出発してしまった。慌てて二人は追いかける。


「隊長は風のメダルだったか。しかしあの大剣を振り回せる体には見えないなあ。」


「何言ってるんだレイ。エナジー技術はそう言った見た目の制約から解放するんだったろ。パワーなんてエナジーの集中1つだって自慢して俺を吹っ飛ばしたのはお前だったろう。」


「ごめんって。で、体調、どうするんですか。」


「さすがにエナジー技術では一日の長があるな。あっという間に追いつかれてしまったわ。ガハハハッ。さて、このまま敵の拠点に突撃する。残り二人、イーとヤンは直前で合流する。二人とも水のメダルを使う、優秀なサポーターだ。頼ってくれていい。」


「了解です。俺の雷といいコンビが組めそうですね。まもなく合流地点ですが・・・ん!敵襲!読まれていた!?」


言い終わる前に気弾が飛んできた。3人ともあっさり躱したが、次の瞬間である。気団が爆発した。爆風で3人は吹き飛ばされたが、すぐに体制を整え、ライが突撃!


「ぐっこいつは今までの奴らとは訳が違いそうだな・・・このライ専用武装を試してみるか・・・ライソードど!!!」


気団爆弾を切り裂き、無力化させながらライが叫ぶ。一気に敵兵に近づき、もう1つの武装で攻撃する。


「スタンショットだ!俺の雷の力を封入した拡散爆弾、確実に足を止める!レイ、今だ!!」


「ファイアフィストキャノン!」


頭上をいつのまにかとっていたレイが必殺技を放った。経験を経て巨大化している。一一帯を吹き飛ばした。


「へっどんなもんよ・・・いや、まだ来る!」


ニルヴァ兵士の群れが3人に襲い掛かる。レイの攻撃が目立ちすぎ、集まってきたようだった。


「こいつらは今までの奴らとは違ってまともな兵士だ。この数はちょっとキツイな・・・」


「珍しく弱気だな、ライ?俺達にはノエル先生の新機能があるじゃないか、あれで一気に!」


「いやダメだ、まだ俺たちはあれにまだ慣れていない。消耗が大きすぎる。前哨戦の今使うべきではないな。」


「お二人さん、来るぞ!」


ローチが二人の前に立ち、剣で気弾の嵐を受け流す。やはり部隊長というだけあって、実力は確かなようだ。


「まったく・・・真空・かまいたち!」


ローチの振った大剣からいくつもの真空波が放たれ、敵兵を蹴散らしていった。レイはちょっとした嫉妬すら覚える。なんだ、俺にもああいう県があればこのくらい簡単に!


「まあ、俺の風と剣が相性がいいんだな、たぶん。君たちのメダルじゃこういう攻撃にはなるまい?」


ローチが軽口を叩き、ライが笑う。レイは少しむっとしたままだった。だが、これは敵に隙を見せたことになる。まだ敵兵はいたのだ。先頭集団が蹴散らされる間に、3人を取り囲んでいた。


「!!しまった!直撃する!」


「「水壁!!」」


3人の周囲に水が反り立ち、気弾をはじき、さらに殴りかかった幾人かの兵士を吹き飛ばした。


「イー、ヤンか!よく助けてくれた!」


「ノエルが」「射出装置で」「飛ばしてきました」「間に合って」「よかったです」


交互に器用に喋る2人を見てローチは微笑んだ。レイはノエルと呼び捨てたことに抗議している。ライは冷静に2人に尋ねた。


「先生に飛ばしてもらった、ということは、ここが予想以上に激しい戦場になることを本部は知っていた、ということですか?」


「はい。」「目標の要塞から兵団が出るのを観測しています。」「それでまずメダルを持ち、射出装置に耐えられる」「私たちが到着しました。」


「と、いうことは・・・まだまだ長丁場だな、これは。新機能、まだ使わなくてよかったろ?れい?」


「はいはい。ライさんの言う通りですよ。」


そういいながら、5人は戦闘態勢を整えた。要塞攻略前哨戦となった遭遇戦は、まだまだ続きそうであった。


5


イーとヤンの作った水壁は、周囲の兵士からの攻撃を完全に防いでいた。しかし、解除しない限り5人は中から攻撃することも、移動することもできないから、兵士の数は増える一方だった。だから内部には焦りが生まれつつあった、ライ以外には。


「なあ、この壁は解除するときには外に倒したりできるのか?」


「ええ」「できますが」「一時しのぎにもなりませんよ」


「いや、十分だ。俺の雷丸で「雷丸ってそのカッコイイ県の名前じゃないだろうな」うるさいぞ、レイ。名刀雷丸だ、こいつは・・・とにかく、雷丸でどうにかして見せるさ。合図でやってくれよ?」


ライには自信があるようだった。そしてそれは、間もなく正しく示された。


「じゃあ、行くぜ・・・3,2,1、今!」



「「水壁・開花!!」」


水壁が外側に展開し、接近していた兵士に倒れ掛かった。しかし、体制を大きく崩すことなく、5人に襲い掛かる。


「突撃!こいつらがイーサンのエナジー部隊の中心だ!」


「討ち取って名をあげる!イーサンを制圧する!」


「・・・そうもいかないさ!雷丸!!」


勢いづくニルヴァ兵の上に躍り出たライは、刀を一閃。辺りに雷光が迸り、ニルヴァ兵を薙ぎ払った。


「濡れていてよく雷が効くだろう?隙を作りだしてやったぜ!」


それを見てイーとヤンが続く。


「あの雷さんとコンビなら」「この数相手でも戦えるかもしれませんね」「行きましょう!」


青髪の姉弟は水の弾を乱射した。メダルの力で気弾が水弾になるのだ。それをみてライが続く。


「ありがたい・・・虎銃!」


「ぐわっ?「ぐわあああ「濡れているからあああ!!「しまったあぁぁ」」」」


ニルヴァ兵士に威力の上昇したスタンショット(虎銃というらしい)を放ち、さらに攻勢に出る。そこにローチのかまいたちの薙ぎ払いが加わり、完全に包囲網を破壊した。


「これで、少しは・・・?」


「まだ来るのか!かまいたちで・・・」


「いや俺が行く!今新技考えた!」


「あ、レイ、待て!行くんじゃない!!!分散するな!!!!!」


ローチの制止を一切聞かず、レイが飛び出していった。4人はすぐにニルヴァ兵が蹴散らされる光景を見た。ローチは仕方なく、ライに追うように命じた。敵の大戦力をもしかしたら分散でき、その方が耐えられるかもしれない。


「俺は気づいたんだ」


レイは兵士の群れの中でパンチの嵐を繰り出しながら、ほぼ無意識に口に出していた。レイの拳は直接敵を殴ってはいない。飛び出した炎の小さな拳が攻撃していた。


「てめえら雑魚に炎を集める必要はないってな!これがショットガンだ!」


今やレイの打ち出した拳は周囲一帯に撒き散らされ、それがニルヴァ兵に打ち込まれていた。ローチはこれを気弾の応用と即座に見抜いていた。


「殴りつける動作は気弾を打ち出すよりタイムロスがあるが、その分威力の上乗せと消費エナジーの低減ができているようだ。なるほど、エナジー技術は面白いな・・・かまいたち!!まったく、キリがない、完全に全面衝突じゃないのか、これは!?」


ローチは次々現れる敵に辟易していた。イーとヤンの水壁(今は攻撃のくる方向のみに巧みに展開している)のおかげで攻撃に集中できるとはいえ、エナジーには限度がある。その上、敵もローチの攻撃を理解して、直線的なかまいたち攻撃の射線に入らないようになっていた。


(このままでは支えきれんな・・・かといって、撤退して敵が伸びきった所を反撃しようにも、その前にこちらの土地が蹂躙されて終わる・・・)


「我々に敗北の選択肢は無い!!」


ローチは叫んで剣を振り下ろそうとした。だがそれは飛び込んできた大剣によって中断された。


「そうかい、勇ましいねえ・・・だがよ!」


「ぐっこいつ、できる!」


男はローチに密着し、水壁での分断を防いでいた。なおも剣劇を繰り返しつつ、確実にローチを圧倒する。


「オラオラ!動きが悪いぜ?まだバテるには早えだろうがよお!俺の能力もださせずに死のうってのかあ?:


「本格的にこれは・・・グッ!」


ライをレイの援護に向かわせたのは失敗だったか?と悔やんだが、向こうも向こうで気がかりだった。しかし、今は目の前のこいつに集中せねば!


「イー、ヤン!俺ごと水柱で叩け!!」


「しかし」「それは危険です」


「兵団がレイとライで止まっている今しか・・・ぐっ、こいつを相手にできる余裕がない!」


向こうでも何か異変が起きていた。レイが何かやったのだろう、炎が眩しかった。今が唯一のチャンスであるとローチには思えた。イーとヤンは水柱を起こした。


「このマルコ様には3人がかりってか?光栄だ!!」


ローチを軽く飛ばし、マルコは水柱を斬り、破壊した。が、それは3人の読み通りだった。水柱は意思を持ったかのようにマルコに向かって倒れたのである。


「っったく、こんなんで俺をどうにか・・・?」


「「「隙あり!!!」」」


3人の攻撃がマルコに集中した。


6


「ショットガンじゃやっぱ威力が低すぎたか?全然減らねえ!」


レイは結局体術でニルヴァ兵と戦っていた。そこにライ毛雷丸とともに割って入った。


「まったく隊長に言われて来てみれば・・・大ピンチじゃないか、これ?」


「うっせえ!!脱出路開いてくれ!」


「こいつら雷丸と虎銃をいい加減読んできてやがる、簡単には行かない・・・いまのもお前とまとめて対処するためにわざわざ開けてくれたみたいだしな。」


「マジでやべえじゃんかよ・・・おわっと!!」


レイとライには慎重だが確実な攻撃が行われていた。ニルヴァからしてみれば、厄介な5人組を分断し、各個撃破しつつある。しかも隊長と思しき方には前線基地攻撃長マルコを投入した。勝利は時間の問題であった。


「まったく、よくも俺たちの仲間をさんざんやってくれたな!」


「このまま確実に殲滅する!覚悟しろ!!」


決して接近しすぎず、気弾による攻撃が加えられた。2人はその場でじっと耐えるしか道はなかった。


(くそ・・・このままじゃやられる・・・こうなったら・・・)


「ライ、俺はやるぞ!」


「あ、おい!!!待て」


「二段開放!!!」


レイの体が輝き、エナジーの流れに沿って炎が噴き出した。その刹那、レイはノエルの言葉を反芻していた。


「これまでの戦闘データを生かして、あなたたち2人のメダルシステムに新機能を組み込んだわ。普通の訓練を受けた能力者が全力を出すのに相当するモード、まあリミッター解除モードみたいなものね。メダルの活性化能力を最大稼働させ、これによって大幅なパワー向上が期待できる・・・その分消耗も激しいけどね。二段解放モードと誇称しているわ。慣れればそのうち、ずっとこのモードでも戦えるようになると思うけど、とりあえずのところの持続時間の目安は・・・」


「30秒でケリをつける!」


レイは激しい炎を纏い、突進していった。スピードは先ほどまでとは比較にならないほど速い。


「なんだ?あの炎は?・・・うわあ!」


「さっきまでのショットガンと思うなよ!!」


レイ」は飛び上がり、兵たちの頭上からショットガンを発動した。先ほどまでとは異なり、一撃一撃が有効打となっていた。


「三連装キャノン!!!」


二段解放によってファイアフィストキャノンも連射が可能となっていた。あっという間に状況を覆し、制圧してしまった。


「はあはあ・・・これで限界か・・・う、動けない・・・ここまで消耗するとは・・・」


レイは今やメダルの発動状態すらも解除され、生身であった。ライに肩を支えられ、どうにか立つのがやっとであった。


「ちくしょう・・・まだいるのか。俺も二段解放で・・・」


「いや、お前まで倒れるとローチ隊長たちが・・」


「手がないのか!!このままじゃ!」


マルコがローチの剣を折っていた。絶体絶命のピンチ!


「くそッ二段解放!一瞬でアイツを倒してもどって来る!!」


ライも体が輝き、雷が迸る変化をした。止めを刺すつもりのマルコとローチの間に素早く割って入り、雷丸でマルコを迎え撃つ、が。


「折れた!!!」


「甘いよぉ〜、剣の腕も、剣の鍛え方も!」


「俺は剣士じゃない!」


ライが咄嗟に腕を出し、雷を放った。ライにも初めてのことであったが、とにかくマルコにダメージはあったようだ。ローチを抱えて距離を取った。


「隊長、しっかり!」


「すまない・・・撤退だ・・・」


「残念だけどお前たちはここで全滅だなあ?第三陣御到着だぁ!」


レイの向こうに部隊がまた見えた。ここまでだな、と5人は思った。だが、次の瞬間、光線が敵部隊に向かって行き、足並みが乱れるのが見えた。


「一気に制圧しろ!!俺らに防御力はない!!!」


「武器の力で一気に畳み掛けろ!」


それはエナジー対応武装の完了したイーサン軍であった。急いでいたらしく、隊列は乱れてはいるが、射撃の統率は見事であった。


「チッ雑魚がイキッて…いや、さすがに分が悪いな、とりあえず主力の足止めにはなったし、徹底だなあ?よし、全軍撤退!!!要塞に引き籠るぞ!」


マルコはさっさと身を引き、軍を戻した。あまりの早業であり、イーサン軍に追撃の余地はなかった。


その夜には野営地が建設された。野営地と言っても、本格的な基地のように見えた。レオンのもたらした技術のおかげだが、彼に言わせればハリボテである。それでも、しばらく陣を張るには十分以上であった。その中で、殴打音が響いた。レイが叱責されていたのだ。


「なぜ殴られたか分からないか?」


「分かりませんね…グッ!また殴った!」


「それは俺が仮にも隊長で、お前達を統率する身分だからだ!」


「隊長ったって、やられて死にかけたじゃないですか!」


今度はローチは殴らなかった。自身の力不足を知っていたからだ。


「そうだ!だが、俺は隊長だ!メダル以前から戦場に立ち、ニルヴァ兵の捕縛実績もあるからだ!今回お前は、一人突出した!俺がお前を見捨て、ライを送らず防御に徹したらお前はどうなった?その結果お前が斃れればそのまま、なし崩しで俺たちもやられた。ライを送った結果どうなったか?体験した通りだ!つまりお前は詰んだ行動をしたんだ!」


「・・・はい」


「だから、もう少し俺の言うことを聞いてくれ、俺も強くなる!」


「・・・了解です」


「その目は本当に分かったようだな・・・良し、今日はとにかく生き延びた、結果奴らを追い払った、まあ勝ったんだ!二人の教授がいろいろ今も手を尽くして、俺達が勝ちやすいようにしてくれている!今は休んで、攻略戦に備えるぞ!」


「・・・そうですね・・・はい、そうです!」


こうして夜は更けていった。実際に要塞攻略戦が発令されるのは、1週間ほど後の事である。レイ初の、イーサン軍初の本格攻略作戦であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る