セックスレス・あたしと教授の7日間

第8話 ひみつの過去

教授と別れた月曜日、

罪悪感の一欠片をあたしは捨てた。

別れ際、教授は駅の改札口であたしを呼び止めた。

「なに？」

振り返ると、教授の真っ直ぐな瞳があたしを捉えていた。

しばらくの沈黙は、冬空のグレイみたいにぼやけた感覚で、突き刺さる視線はお日様みたいな温もりを与えてくれた。

教授はすこしだけ笑って。

「ううん。なんでもない」

と言って手を振った。

あたしも手を振って。

「ばいばい」

と笑ってみせた。

あれから半年が過ぎて、あたしは今働いている。

朝の満員電車に揺られて、有明にあるコールセンターでアルバイトをしながら生計を立てている。

夫とは別れた。

案外すんなりと話は進んだ。

夫も色々考えていたのだろうか、最後までお互いに本音でぶつからないままに結婚生活は終わってしまった。

教授とは会っていない。

会わないでいる方が幸せになれる気がしたから、メールも消してSNSも退会した。

あたしの中で、ひとつだけ変わった事がある。

恋をしたいと思うようになったのだ。

そこにはセックスがつきまとうだろう。

でも、自分をさらけ出せる恋が出来たなら、何にも問題はないと思えるようになった。

時間はかかるかも知れないけど。

もうすぐ梅雨が訪れる。

新居のマンションの花壇には、色鮮やかな紫陽花が咲いている。

『でんでん虫』を探す心の余裕が出来た。

ハクセキレイが現れる頃には、素敵な恋をしていたいなと思う。

だって、あたしの人生はこれからなんだから。

おしまい。