第11話 ワイン!ビール!そして変態!
サビとセリが冒険者ギルドに入るのを見送り、私はゴリラの様子を見に行くことにした。
私からの贈り物はしっかり食べてくれただろうか。
ゴリラの奴隷商店は、入口に明かりも灯っておらず、店先に誰もいなかった。
店の奥から泣き声のような唸り声のようなものが聞こえてきて、朝ご飯に偽キャロリアを食べてくれたのだなと分かる。
私は近くの店でトイレ紙を買い、そこにメモを載せて奴隷商店の店先に置いた。
『お大事にどうぞ。キャロリアには気を付けて 小娘より』
これで色々察してくれるといいのだけど。
頼むぞ、ゴリラ!
そこまで馬鹿じゃないだろ!
それから、お酒を探しに行くことにした。
サビが昨日食材探しにうろついた感じだと、王都内には酒屋さんも点在しているらしい。
まだ緑とピンクのエリアに行ったこともないし、とりあえず最初は第六地区をぐるっと歩いてみることにしよう。
オレンジと緑の境界の大通りに出てから第六地区に向かう。
緑の区画は、その色のせいだろうか、オレンジの区画よりもなんだか落ち着いた感じの街並みに見える。
青の区画も落ち着いてはいるんだけど、それともまた違う感じ。
路地を曲がると少しして、一軒目の酒屋さんを発見した。
酒瓶と酒樽が所狭しと並んでいて、期待大!
どうやら試飲もできるらしいので、片っ端から飲んでみることにした。
と、その前に、アルコール分をどんどん分解していくように、薬草をむしゃむしゃ。
何を食べているのか店主のおじさんに聞かれたので答えると、爆笑された。なんでや。
さすがに完璧なザルになった状態で試飲しまくるというのも気が引けたので、おじさんと相談してお金を支払うことにした。
おじさんは店で扱っている全てのお酒を、自分用にキープしているらしく、そこから私に一口ずつ飲ませてくれることになった。
コップに注がれた酒が、わんこそばのごとく目の前に出されていく。
私は銘柄を聞いて飲んではメモを取ることを延々と繰り返した。
ワニュタは、原材料の産地が異なると全然味が違ってしまうそうで、様々な色をしたものがあった。
確かに味は全然違う。
赤と白だけかと思ったら、七色以上あって少し楽しかった。
レインボーワニュタとかいって、グラスを並べて飲み比べとか作ったら綺麗かも。
ビビドワもいくつか種類があったが、そっちは産地というより、作った人が違うだけらしく、そこまで味の差は見られなかった。
地ビール的な感じかと思ったのに、残念。
でも、ちゃんとしゅわしゅわしてるし、これはビールだ。
何が何でもキンキンに冷やして、焼き鳥と食べなくては。
ああ、今すぐ食べたい!
「おじさん! チーコックの肉ある? あと台所!」
「は!? 何だいきなり! チーコックの肉なら、確か足のとこがちょっと残ってたかな……台所は奥にあるぜ。ここは俺の家でもあるからな」
「よしきた手羽先!」
「嬢ちゃん!?」
「あ、いけない、興奮しすぎましたわ、オホホホホ。チーコックのお肉と、
「……無理しなくていいぞ」
「はーい! お肉くーださい!」
私は手羽先をもらうと、台所で火を起こした。
塩を擦り込んで少し置いてから、一回塩を落として焼いていく。
外がカリカリになったら中まで火が通ってるかチェックして、仕上げに塩を適当に。
おじさんに手羽先を一旦預け、素早くビビドワ準備!
瓶のビビドワを一本購入させてもらって、それを冷やす!
そして一度凍らせたグラスに勢いよくビビドワを注いでいく!
そこまできめ細かくはないけれど、合格点はあげられそうな泡である。
冷やしたり凍らせたりできる人間でよかった〜。
おじさんから手羽先を一本返してもらい、代わりにグラスを渡した。
「カンパーイ!」
「か、かんぱい?」
「何かみんなでご飯食べたりお酒飲んだりするときに、グラスとグラスを、こうやって軽くぶつけて、気分を盛り上げるのよ!」
「おお、よし、カンパイ!」
「いぇーい! ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……ぷっはぁぁぁぁ最高か〜〜〜! そしてそこに……手羽先……ああああああああ美味い、美味すぎるぅぅ……!」
未だ納得のいっていない肉ではあるものの、美味いもんは美味い。
そしていい具合に冷えたビビドワも、美味い!
おじさんは一言も発しないまま、ビビドワを飲み干し、手羽先を骨までしゃぶり尽くしていた。
「じょ、嬢ちゃん! なんだこりゃ最高だ!」
「そうでしょう! これは、焼き鳥の一種。手羽先よ。また私の追い求める味にはなっていないのだけど、それでも美味しいことには変わりないわよね!」
「えぇ? これより美味くなるってのかい? そりゃすげぇ! 嬢ちゃんは店出したりするのか? こりゃ売れるぞ!」
「売れると思う!? でも、まだちょっと自分の中で折り合いが付いてないのよね……」
「折り合い?」
「そう。私の中では、まだ完成じゃないの。確かに焼き鳥の美味しさを早くみんなに知ってもらいたい気持ちはあるけど、自分が満足いっていない物を、お客様に提供するのは違うんじゃないかと思って」
「そりゃもう答えが出てるじゃねぇか。嬢ちゃんの満足いく味になってから、是非この都で店を出してくれ。もし出店の時に推薦が必要だったら、ここいらの酒屋連中全員で推薦してやるよ」
「推薦?」
おじさんが説明してくれたところによると、王都で店を出すには商業ギルドの許可がいるらしい。
信用があれば何事もなく出店できるが、そうでなかった場合はすでに店を構えている者からの推薦と、ある程度の寄付が必要になるのだと。
私がギルド長と知り合いだと言うと、ものすごく驚いていた。
ロルちゃんは、思ってたよりずっとずっと凄い人だったらしい。
それなら何の問題もないなと、おじさんは笑った。
それからおじさんが教えてくれた酒屋さんを回ることにする。
おじさんが私のことをよろしく頼むと書いた手紙を持たせてくれて、どこへ行っても手紙を見せると大歓迎で試飲させてくれた。
どこの酒屋さんでもチーコックの肉があったので、お礼に焼き鳥と冷やしたビビドワを振る舞った。
よし、今日だけで相当数の焼き鳥好きを生み出したぞ!
結局ビビドワを十数本購入し、お家に帰る途中で思い出した。
トリスの錬金術師さんに追加納入しなきゃと。
何故思い出したかといえば、それはご本人が街中を歩いていたからである。
思わず後を付けてしまっている、なう。
こ、これは違うから!
別にストーカーとかそういうのじゃなくて、ただお礼をしに行くのにお家とかいつもいる場所が分かってたら便利だってだけで!!!
とか思っていたら、トリスの錬金術師さん、どんどん城に近付いていく。
え、まさか貴族様!?
もし貴族なのだとしたら、金貨を持ち歩いていたのも、まぁ納得はできる。
ただ、貴族があんな王都の門で身元不明の錬金術師を見極めるために駆り出されるか?
うーん、分からん。
分からん内に、錬金術師さんは貴族の居住地区へ入っていってしまった。
これ以上は追い掛けられない。
とりあえず姿が見えなくなるまで動向を伺おうと目を凝らしていると、オレンジの第二地区、大通りに面した家に入っていった。
あそこがお家なのかな?
とりあえず脳内地図に書き込んでおき、帰ろうと振り返った私は、めっちゃくちゃに驚いて死にそうになった。
いつの間にか、誰かに背後に立たれていた。
振り返った瞬間に銀の胸当てが目の前に飛び込んできたのだ。
「ひっ!?」
ヤバい!お巡りさん!?
私は不審者ではありませんと全力で主張しようとして、目の前の人がこの間サビを追い掛けていた人だと気付く。
ゴリラの言ってた、ホックって人だ、たぶん。
なんだ、ビックリした。
この人は私が怪しくないと知っているはずだから、大丈夫。
っていうか何故、背後に?
何故、無言のまま?
ホックさんは真っ赤な顔で、私にパンパンに膨らんだ袋を差し出した。
私が抱えたら前が見えなくなりそうなくらい大きな袋だ。
「? えっと……いただいていいんですか?」
「は、はいっ! 貴方様のために集めました!」
「あ、あなたさま……?」
とりあえず受け取って、中身を確認する。
見たことのない食材が、ぎゅうぎゅうに詰まっていた。
昨日サビが買っていた食材とは違うものばかりだ。
「えっ、すごい! 見たことないのばっかり! え、本当にいいんですか?」
「は、はいっ! もちろんであります!」
「うわぁ〜、嬉しい! ありがとうございますホックさん!」
「ひぅッ……!」
ホックさんはそのまま、鼻血を吹き出し、白目を向いて倒れてしまった。
「えええええっ!? ちょ、待って待って、ホックさん!???!!?!」
私は慌ててホックさんの脈を確認する。
尋常じゃないスピードで脈打っていて、精神安定に効く薬草をカバンから取り出した。
一部始終を見ていたらしい飯屋のおかみさんが、何事かと駆け付けた兵士さんに説明してくれてた、ありがたい。
すぐに目覚めると思いますと兵士さんに告げ、休ませていると、少ししてホックさんは目を覚ました。
「た、たたた大変失礼致しました!! これからも頑張りますのでお許しください!!」
「あ、あの、大丈夫ですよ? むしろこちらが申し訳ないくらいで……」
「い、いえ! あ、その、ボク、ボク……」
「あああ深呼吸! 深呼吸してください!」
「すぅーーーー、はぁーーーー」
「落ち着きました?」
「は、は、は、はい! ボクを奴隷にしてください!」
「大混乱中ですね?」
「いえ! 混乱しておりません! ボクは、貴方様に、命じられたい!」
「!?」
「理想の食材を見付けるために魔物討伐に行くのでしたら、是非ボクを盾にお使いください! このボクに命じてください! 私のために死ねと!!!!!」
ひ、ひぇぇぇぇ、なになになに、何なのこの人ーーーーー!???!!!?!
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