第10話 初めてのお仕事
ハチャメチャにキャラが濃い人が出てきてしまったぞ……。
金払いがいいっていうか、もはや存在が金じゃん。
どこで作るんだあんな服。
呆気にとられる私に気付いて、金ピカさんが近付いてくる。
圧が、圧がすごいよ。
「アナタがトリキの錬金術師様かしらん? 思ってたよりもだーいぶチャアミングねっ! ワタシは商業ギルドのトップを務めさせてもらってるロゴルドよ。ロルちゃんって呼んでね」
ロルちゃんが投げキッスをしてくれた。
つやっつやの真っ赤な唇から、弾丸のように放たれる。強い。
こっちの世界にも付けまつげがあるのだろうか。
バッサバサのまつげが、バチコーンとウインクをかましてくる。
これまた強い。
「ご丁寧にありがとうございます。トリキの錬金術師こと、フローリアと申します。よろしくお願いします、ロ、ロルちゃん!」
「アーン! カ・ワ・イ・イ! 打ち合わせまでまだあるわよね? フローリアちゃんのお仕事、見たいわ」
一緒に入ってきていた、これまた長身のお兄さんが、大丈夫ですと返事をする。
秘書なのだろうか。
きっちりと撫で付けられたブロンドに、細身の眼鏡、そして切れ長の瞳。
選び抜かれたロルちゃん好みの美形、って感じがするな。
私も大丈夫だと返事をし、金庫へ向かうことになった。
金庫のある場所は秘密なので、セリはお留守番。
私もまずは、誓約書を交わした。
情報を漏らさないという誓約だが、これは商業ギルド側にも当てはまる。
つまり、私の描いた魔法陣を他者に渡さないということである。
効果を確認するためにロルちゃんだけには見せるが、確認が済んだら隠匿する魔法陣を重ねがけするつもりだ。
魔法陣は、錬金術師であれば読み解き、理解することによって己のものとすることができる。
そして構造を理解するということは、相殺するための術式が生み出せるようになるということ。作れるかどうかは別として、だけど。
私が金庫に施す予定の魔法陣はオリジナルのもので、私とおじいちゃん以外知らない。
それはイコール、私とおじいちゃん以外には金庫破りが不可能ということだ。
私のカバンにも同じものが組み込まれているから、私としては絶対にこの魔法陣は誰にも見られたくない。
その旨を理解してもらい、私とロルちゃん両者の魔力を混ぜながら誓約の文言を書き記していく。
ロルちゃんの魔力操作は驚くほど繊細だった。
「驚いた? ワタシ、これでも結構腕のいい魔術師なのよん。お金大好きだからこの仕事に就いたけど」
「ふふ、素晴らしい魔力操作でした。私はちょっと雑なので、見習います」
「ヤダ嬉しい! フローリアちゃんも、若いのにすっごく素敵な魔力操作だったわよん? さて、それじゃあ案内するわね。一時的に色々制限させてもらうけど、一瞬だから我慢してね」
ロルちゃんが私の腕を握ると、一瞬五感が完全に奪われ、そしてすぐに戻ってくる。
目の前には大きな金庫。
私では回せそうもないハンドルの付いた、金庫があった。
金庫のある部屋には、私とロルちゃんの他に、この出張所の代表をしているというおじさんがいた。
ロルちゃん曰く、彼にも金庫が開けられるようにしてもらいたいから連れてきたけど、視覚と聴覚はなくしてあるから安心してね、とのこと。
は、早く終わらせよう!
私は要望を聞きながら、金庫にいくつも魔法陣を刻んでいった。
その作業を、ロルちゃんは目を輝かせながら見守っている。
恥ずかしい……。
登録した人間しか金庫を開けられないようにして、ロルちゃんと代表さんに登録してもらう。
もし他にも誰か登録したい人が増えたら、その度に私を呼んでもらうことにした。
最後に全部の魔法陣を見えないようにして、完了だ。
ロルちゃんは私の仕事に満足してくれて、私の都合の良い時に、全部の金庫に同じことをしてもらいたいと言ってくれた。
ロルちゃんが立ち合わないといけないこともあって、連絡手段として小ぶりの水晶をくれる。
水晶が光った時は、ロルちゃんが魔力を通している印で、私も魔力を通すことで繋がると。
逆に、私から呼び出すこともできるから、お仕事したくなったら連絡ちょうだいねと言われる。
え、そんなゆるい感じでいいの?
超ありがたいけど。
今回の依頼は術師ギルドに通したから、報酬は術師ギルドからもらうことになるのだけど、今後はロルちゃんが直接お支払いしてくれるらしい。
一回の付与で銀貨五十枚。
王都内に商業ギルドは出張所を含めて全部で三十二ヶ所あるらしいので、それだけで金貨十六枚……。
更に各色のギルドそれぞれのコンプリート報酬で金貨一枚ずつ追加してくれるとのことで、全部の金庫に付与が終わったら、トータル金貨二十枚がもらえることになった。
やったー!
これでしばらくはお金の心配をしなくて済みそう。
喜んだ私だったが、これ以降ロルちゃんからの仕事関係なしの女子トーク鬼電に悩むことになるとは思いもしなかったのだった。
(でも結果的に美容関係のポーションとかクリームの商売に繋がったのでよしとする)
ロルちゃんに任務完了の書類をもらい、商業ギルドを後にする。
報酬を受け取りに行こう。
大通りを歩いていると、路地の方からゴリラの怒鳴り声が聞こえてきた。
ゴリラに興味はないのでスルーしようとしたのだが、聞こえてきた話がどうも私たちに関係ありそうだったので、セリに目配せをして、建物の影から様子を伺うことにする。
どうやら、サビが兵士さんに追い掛けられていたのは、ゴリラたちのせいだったらしいのだ。
一人でウロウロしてるサビを見つけたから、不審者だってことにして兵士に連れて行かせようとしたみたい。
「なんでよりによってホックの野郎に言ったんだよ、馬鹿が! 他にもたくさんいるだろうが!」
「だ、だって……ほ、他のやつらはおれの話なんか聞いてくれないんだよ……みんな忙しそうで」
「ああくそっ、あの小娘!」
っていうかそんなことしたってどうにもならないと思うんだけど。
でもこのまま好き放題やられるのも腹立つし、ちょっと仕返ししとこうかな。
ゴリラは怒りが収まらないらしく、まだ怒鳴り続けるみたいなので、そっと彼らのお店の裏側に行く。
裏口があったので中を伺うと、ラッキーなことにお目当ての台所だった。
ゴリラと、怒られているお兄ちゃんはまだ外にいる。
他にも数人の気配がするが、全員奴隷の世話に行っているらしく台所は無人だ。
セリに見張りを頼み、私は台所に侵入する。
思っていたより清潔な台所だが、奴隷用のご飯に使うのだろう野菜は床に適当に転がっていて、自分たちが使う野菜はちゃんと棚にしまわれている。
一応、私が言った通りキュロロッカは選別したらしく、ゴミ箱の近くにまとめてあったので、それを
棚の中の野菜を確認するとキャロリアがあったので、二つの見た目を交換する。
毒性のあるキャロリアの完成である。
でも、このままだと死んじゃうかもしれないから毒性を弱めておく。
せいぜいトイレから出られなくなる程度に。
この建物内にトイレが何個あるかは知らないけどね!
私が何かしたって分かった方がいいかなぁ。
こう、私に逆らうとどうなるか分かってるんだろうな的な。
明日トイレの紙持って挨拶に来ればいいか。
この世界のトイレの紙って固くて、お尻が痛くなっちゃうんだよね〜。
コーリリアの家にだけ頑張ってウォシュレット実装しようかな……。
私たちは今度こそ、術師ギルドに向かった。
受付で書類を渡し、報酬をもらう。
お姉さんに様子を聞かれたので、かくかくしかじかすると、我が事のように喜んでくれた。
でもギルドに来てくれなくなるのは寂しいですなんて言ってくれたので、我ながらちょろいなと思いつつ、また来ますと答えた。
お家に帰ると、コーリリアが庭に苗を植えてくれていた。
ありがたや。
上手く育ってくださいね枝豆ちゃん。
ビールも欲しくなるな……。
ああそうだ、食材探しと一緒に、お酒も探さねばなのだった。
サビに買ってきてもらった食材をふんだんに使って適当に作った料理の中で、味がイケてるやつだけをみんなの夜ご飯にする。
まずかったやつは私が責任を持って食べます。
使えそうな食材が見付からなかった悲しみが、いいスパイスだぜ……。
夜ご飯を食べながらサビに冒険者について聞く。
冒険者には誰でもなれるらしい。
ギルドに行って、受付をすれば、もうそれで冒険者なのだとか。
ただし、級分けがなされていて、最初は銅級から始まる。
銅、銀、金、白金、魔鉄、魔鋼、金剛、水晶、八つの級があって、水晶級の冒険者はここ数年新しく増えていないらしい。
依頼をこなすことで級が上がることもあるし、何か大きな活躍をしたことで上がったりもするそうだ。
冒険者の級分けはほとんどの国で共通で、金剛級になってくると、いくつもの国から推薦してもらわないとなれないみたい。
商業ギルドは国の色が濃く出るらしいが、冒険者ギルドと術師ギルドはどこも大体同じ感じらしい。
通貨も共通らしいし、何気にこの世界、進んでるな。
どれだけの広さがあるか分からないけど、一般に流通してる世界地図に載っている国については、どこに行っても同じ通貨って、やば。
魔物の肉も食べてみたいし、冒険もしてみたいから、そうなってくると一番楽なのはやっぱり冒険者になっちゃうことだよね。
冒険者の知り合いも増えるだろうし、そしたら情報も色々入ってくるかもしれないし!
「じゃあサビ、セリ、明日から冒険者ね!」
「やはりそうなるか……」
「え、オレも?」
「全魔物の肉も食べたいから、頑張ろうね!」
「フ、フフフローリアちゃんのしょ、食に対する熱意が、す、すごい……」
できることからコツコツと!
頑張っていきましょ〜〜。
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