第9話 食材発見!そして変態が目覚める

 セリはキャスケットみたいな帽子をユーフィさんに選んでもらったみたいで、それを持って私のところに来た。

 触り心地のいい生地で、黒色なのだけど見方によっては紺色にも紫にも見える。

 私はお会計を済ませ、コーリリアを待った。


 待っている間、店主のパキュイさんとお話をする。

 焼き鳥モチーフの何かを考えてみるとの言葉に泣きそうになった。

 私、頑張ってお仕事見つけてお金稼ぎますので……!


 かなり長いこと悩んだ結果、コーリリアも会計を済ませてやってくる。

 私たちはせーので買った物を見せ合った。



「うわー! 可愛い!」


「こ、ここここの色は……!」



 コーリリアが私に選んでくれたのは、ダイヤモンドみたいな石が全体に散りばめられた、銀ベースのバンスクリップだった。

 私は天然パーマでほわほわの髪をハーフアップにして、キラキラのクリップでぎゅっと挟む。

 それからコーリリアの髪を一度解き、編み込みしながら私と同じハーフアップにする。

 仕上げにプレゼントしたバレッタを留めて、はいプチお揃い〜。


 そんな私たちを、ユーフィはニコニコと眺めている。

 柔らかな表情とは反対に、その手はものすごい勢いでメモ帳にデザインラフを描き散らかしている。

 創作意欲を掻き立てられたようで何よりです。


 セリも買ったばかりの帽子をかぶり、ご満悦だ。

 それから私たちは、手芸屋さんに向かった。


 道すがら、コーリリアに好きな動物を尋ねると、予想通り、半魚人だった。

 半魚人は動物なのか?と思わないでもなかったが、まあそこは気にしないことにする。


 私の中の半魚人は、ハンギョ◯ンと、葛餅質感の肌を持つ斗流血法・シナトベ使いと、デルトロ監督の彼だから、なんとなく水色とか、薄いグリーンのイメージがあるのだが、コーリリア的には何色なのだろう。

 半魚人っぽい布を選んで!と言ったら、少しツヤのある薄水色の布を選んでいた。合ってた。


 ああ……まだ完結してない漫画が死ぬほどあったのに……コミック派だったから超絶売れてた鬼殺隊の最後も知らないまま……前世を思い出すのはいいけど、こんな気持ちまで思い出したくなかったな……。

 ええい、もう忘れろ!


 半魚人っぽい布と一緒に綿と、黒い布も買った。

 目に付いたので、セリの買った帽子と似た色のリボンも買う。

 路地裏にしゃがみ込んでこっそり魔法陣を描くと、そこに綿とコーリリアの選んだ布を置いて魔力を流した。



「ふ、ふわぁぁぁぁぁ」


「じゃじゃーん、半魚パペット〜」



 私はできあがったばかりのそれを右手にはめて、口をパクパクさせながらそう言った。

 どうせなら本当に半魚人の皮を使えばよかったのかもしれないが、パペットはかなりデフォルメされた可愛い感じのヤツなので、ぬいぐるみっぽい方がいいのだと納得する。

 リアルすぎると、呪物みたいになっちゃうもんね。



「これを付けてさ、はんぎょさんに話してもらうところからスタートしてみたらいいんじゃないかな!」


「は、はんぎょさん……」


「あ、いや、ごめん名前は好きに付けてあげて」


「う、ううん、いい、か、可愛いはんぎょさん……」



 コーリリアは左手にはんぎょさんをはめると、自分に向かって何回か口をパクパクさせてから、こっちを見た。



『ぼく、はんぎょさん。よろしくね!』


「よろしく!」


『ぼくなら、うまく、おしゃべりできそうだよ』


「すごいすごい!」



 コーリリアは、本当に嬉しそうに微笑んだ。

 こっちまで嬉しくなってくる笑顔だ。

 これをきっかけに、コーリリアの世界がもっと広がればいいんだけど。

 でもまあ、上手くしゃべれないままでも、裏方業務はできるしね。

 問題ないない。


 それからセリにしゃがんでもらい、長いサラサラの髪をゆるく三つ編みする。

 さっき買ったリボンも一緒に編み込んで、先端で髪をまとめてちょうちょ結びをした。

 リボンの見える範囲をそれなりに多くして、ちょっとでも見え方の印象が変わらないかと思ったのだ。

 セリの顔色を伺うと、結構気に入ってくれたっぽいので安心する。


 ユーフィさんへの案内のお礼を兼ねて、みんなで昼ご飯を食べることにする。

 奢ってもらえるならあそこがいいとユーフィさんがリクエストしたお店に来たのだが、店頭に出ていた立て看板にチラっと見えた値段が、第八地区で見た値段に近かったような……。

 いまいちこの世界の物価が分からないからなんとも言えないが、自分で払うなら来ないというのなら、やはりそれなりに高級な店ということなのだろう。


 というかお店で食べるの初めてだ!

 メニューが席にあるわけではなく、壁に紙が貼ってあるタイプ。

 定食屋さんみたいな雰囲気をかもし出している。

 どの品にも馴染みがなくてピンとこなかったから、他のみんなが頼まなかった品を頼むことにした。


 ホロークの煮込み。

 モツ煮みたいのが出てくるのかと思ったら、まさかのお魚だった。

 サバ味噌煮的な感じ。

 パンが付いてきたのだけど、これはどう考えても白米案件である。

 あああ白米探しは急務かもしれない。

 みんなが頼んだ料理も、一口ずつもらう。

 セリとコーリリアは私の行動を知っているから普通に対応してくれるんだけど、ユーフィさんにはちょっと可哀想な子を見る目で見られた。


 違います!

 これは食材探しなんです!

 もぐもぐ食べていると、私の味覚に引っ掛かる物があった。


 コーリリアが頼んだサラダに入っていた豆なのだが、これ、枝豆では?



「今食べた豆、なに!?」


「こ、これ? たた、た多分みどり豆だと思う……」



 ご飯中ははんぎょさんを外していたので、コーリリアは焦りながら答える。

 ユーフィも合ってるわよと頷いてくれた。

 みどり豆。

 みどり豆!



「これ、庭で栽培とかできる?」


「苗売ってるわよ、買ってく?」


「お願いします! ちなみにこれって、さやに入ってる?」


「さ、さ、さや?」


「あー、えっと、袋みたいな。何個かの豆が並んで袋に入ってたりする?」


「あ、は、入ってる、よ」


「よっしゃあぁぁぁぁ!!」


「フローリア様、声が大きいです」


「あ、すいません……つい……」



 興奮しすぎた……。

 っていうか奴隷に注意される主人ってどうなの?

 なーんかセリもサビも私よりよっぽどしっかりしてるんだよな。

 二人ともなんで奴隷になっちゃったんだろう。

 話したくないこともあるよなと思って、私から聞くことはしないけど、いつか話してくれたら嬉しいな。

 そんなことを思いつつも、私は周囲の他のお客さんたちに向かって頭を下げつつ謝罪した。


 みんなの分のご飯代を払い、店を出る。

 それからみどり豆の苗を買いにいく。

 色々な植物の種や苗を扱うお店で、コーリリアもいくつか新しい薬草の種を買っていた。

 私はコーリリアと相談しつつ、苗を四つほど買ってみることにした。

 それほど大きくなるわけではなく、一本の木から収穫できるみどり豆の数も多くはないが、上手く育てば何回もみどり豆が収穫できるらしい。


 それから、私は商業ギルドに行くつもりだと話した。

 コーリリアは家に帰ると言い、セリは私についていくと。

 コーリリア一人で家に帰れるのかと不安になったが、ユーフィが家まで送ってくれることになった。

 ありがとうユーフィ、今のコーリリアはナンパの危険性があるからね。



 お店の前で別れ、私とセリは大通りに向かって歩き出す。

 オレンジの第八出張所までは結構歩くのだ……お腹いっぱい食べ過ぎて、ちょっと苦しい。


 大通りを歩いていると、遠くからサビの声が聞こえた気がした。

 気のせいかと思ったけど、気のせいじゃなかった。

 両腕に山盛りの肉や野菜や魚、果物なんかを抱えた状態で、猛ダッシュしている。

 なにごと!?



「あっ、フローリア、いいところに! すまないがこいつに説明してくれないか」


「説明?」



 サビの後ろを見ると、門兵と同じデザインの胸当てを着けた若い兵士が、こちらへ走ってくる。

 彼は真っ赤な顔をして肩で息をしながら、がっしとサビの腕を掴んだ。



「そ、そ、そんなに、大量に、しょ、食材をど、どうするつもりだ……ッ!」


「あの、私、彼の主人のフローリアと申します。食材の大量購入は、私が彼に命じたことでして。不審がらせてしまって大変申し訳ありません」


「えっ…………あ、そ、そうでありましたか! ん? 彼が主人ではなく、彼の、主人、ですか?」


「はい。彼も、後ろの彼も、私の奴隷です」


「んっ…………そ、そうでありますか! し、しかしそれだけの食材、いかがなさるおつもりなのでしょうか」


「もちろん食べます。私は、理想の食材を見つけ出さねばなりませんので」


「理想の、食材」


「はい。あの、彼の嫌疑は晴れましたでしょうか?」


「は、はいっ! 大変失礼いたしました!」



 相変わらず真っ赤な顔をしたまま、彼はふらふらと門の方に去って行ってしまった。

 門兵見習いさんみたいな感じなのかな?

 パトロール担当とかなのかもしれない。

 まあ、サビが捕まらなくてよかった。


 サビとセリは、二人ともものすごい微妙な顔をして目を合わせている。



「どうかした?」


「いや……なんか、今……」


「うん、ちょっと、ぞわっとしたっていうか」


「え、なんだろ、風邪ひきそうだったりしたら言ってね」


「あー、そういうのじゃないから大丈夫だ。俺は食材を持って帰るな」


「ならいいんだけど。お願いね! 私たちは商業ギルドに行ってみる。もしすぐにお仕事しても大丈夫そうだったらしてきちゃうつもり」


「分かった。何かやっておくことはあるか?」


「うーん、……あ、じゃあ、冒険者ギルドに行って、冒険者のなり方とか、依頼の仕方とか、その辺のこと聞いてきてくれる?」


「了解」



 今度こそ、商業ギルドへゴー!

 受付には昨日のお姉さんがいて、私を見ると嬉しそうに笑ってお辞儀をしてくれた。

 ギルド長はちょうど打ち合わせで第八地区に来る用事があるそうで、もう少しでここに到着するそう。

 とりあえずご挨拶をして、それからスケジュール調整かな?

 それとも、すぐにやれ!みたいな感じだろうか。

 すぐやれちゃう方が楽だな〜などと考えていると、入り口の扉が勢いよく開けられた。



「キタわよ、ワタシが!」



 そこには、金色のドレスを身に付け、金色のファーを首に巻いたスキンヘッドの長身男性が、ジョジョ立ちよろしく立っていた。





-{}@{}@{}-【MEMO】-{}@{}@{}-

「血界戦線」

内藤泰弘による日本の漫画作品

ちなみに半魚人なのはツェッド・オブライエン


「シェイプ・オブ・ウォーター」

2017年のアメリカ合衆国の映画

ギレルモ・デル・トロ監督作品


「鬼滅の刃」

吾峠呼世晴による日本の漫画作品


「ジョジョシリーズ」

荒木飛呂彦による日本の漫画作品

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