第8話 ざっくりしすぎなやることリスト
みんなでチーコックを食べ、コーリリアも無事、焼き鳥が好きだと言ってくれるようになった。
よし。
あまりに丸々していたので、さすがに全部食べきることはできなくて、残った焼き鳥は専用容器(時の流れを止める術式を刻み込んだタッパー的な容器。ニニリスの肉もここに入れてたよ)の中にホカホカのまま突っ込んだ。
だいぶ陽も傾いてきたので、お風呂の準備をすることにする。
全身の浄化だけで済ませようとした私に、お風呂があるから使いなよとお声が掛かったのである。
お風呂あるんだ!と思って嬉々として風呂場に行くと、思ってたのとちょっと違った。
まず、シャワーはない。
お湯が出ないからだ。
浴槽みたいなところに水を貯めて、その水をお湯にして、それで頭や体を洗うらしい。
浴槽に水の魔石が埋まっていて、そこに魔力を流すと水が出る。
それから浴槽の下に入れ込んであるらしい湯を沸かす魔道具を使って、お湯にするのだと。
魔道具の仕組みってどうなってるんだろうな〜。
おじいちゃんの家にも何個か魔道具があったのだが、使い方は簡単なのに、仕組みは全く分からなかった。
魔道具師は偉大だ。
でもどうせなら、水の魔石から直接お湯が出るような魔道具を作ってくれよ!
魔道具師の知り合いができたら提案してみよう。
せっかくなので、セリに水を出してもらうことにした。
水に関する事象に於いて、ウォーララは常人の数倍の結果を引き起こせるのだ。
同じ魔力量で、同じレベルの水の魔術を唱えても、効果は段違い。
ただ、争いの道具にされることを避けるため、そのことはあまり世間には知られていないらしい。
なぜ私が知っているかというと、おじいちゃんに聞いたからである。
コーリリアも知っていた。
さすがウォーララ狂いの弟子である。
「私たちの前でなら力を披露してくれても問題ないということで! よろしくお願いします!」
「はーい」
セリからは、ものすごく濃い諦めのオーラが漂っている。
セリが魔石に触れると、勢いよく水が出てきた。
試しに私がやってみると、全然違う。
すごい。
セリに満タンまで水を貯めてもらって、お風呂にした。
コーリリアの次に、私が入る。
風呂場の中で、自分の体をチェック。
服を着ていれば見えない位置に刻まれたいくつもの魔法陣の状態を、体を洗いながら確認する。
背中の魔法陣はもはや確認を諦めているけれど、まあ大丈夫だろう。
今では自分でも刻めるが、これはおじいちゃんが私にくれたものだ。
今思えばたぶん転生したことが理由なんだろうけど、とにかく不安定だった私の体と魂を固定するために、必死で編み出してくれたもの。
これを見る度、気が引き締まる思いがする。
おじいちゃん、私、頑張るよ!
焼き鳥と錬金術で、世界を平和にしてみせるからね!
私がもらった部屋に入り、荷物を整理する。
そういえば渡していなかったので、男性陣の服を渡しに行った。
それから部屋で、これからどうするかリストを作ることにする。
小ぶりの机に向かって、お手製のメモ帳にガリガリ。
□食材探し
□食材調達ルートの確保(ギルドに依頼?)
□野菜の栽培(農家と提携?)
□メニュー再現
□水中呼吸薬の研究
□トリスの錬金術師さんに追加のなにか
□金庫の防犯機能付与
□仕事を見つける
まずやらねばならないこと。
それは食材探しである。
これの何が大変って、正解が私の中にしかないということ。
最終的な味付けに関しては、こっちの世界の人の口に合うように変えていかなければならないと思うけど。
私の他にも日本人いないのかな〜。
私はリストに、他の転生者に会う、を追加した。
お城には何人かの転生者が囲われているみたいだから、その人たちにも一回会ってみたいかも。
でも貴族様の暮らすエリアですら勝手に入っちゃいけないとなると、お城になんてどうやっても入れないんじゃないかしら。
いや、焼き鳥が評判になれば、王族も食べてみたいわとか……ならんな。
庶民の生活に興味ないだろうな、きっと。
まあとりあえず、王都内で買える食材は片っ端から食べて、そこで見付からなかったら外に出てみよう。
外が危なそうだったら、何人か冒険者を雇って護衛してもらう。
報酬の他に食事も出しますってことにして、焼き鳥を食べてもらえば一石二鳥だ。
それから……。
リストにしたことについて色々と考えている内に、私はいつの間にか寝落ちていた。
次の日、机に突っ伏したまま寝ていた私は目を覚ます。
すでに他のみんなは起きているようで、下の階からいい匂いがしてきた。
目玉焼きとソーセージに、パン。
四人分の朝ご飯が並んだテーブルの前で、コーリリアがそわそわと立っている。
昨日やってあげた髪型を再現しようとして諦めた形跡があったので、私は昨日より緩めの編み込みで髪をまとめてあげた。
「お、おお、おはよう!」
「おはよ〜。これコーリリアが作ったの? 理想の朝ご飯すぎる〜」
「よ、よかった」
「いただきます!」
私がそう言うと、コーリリアとセリが不思議な顔をして私を見た。
サビにはすでに教えていたのだが、二人にも教えることにする。
ついでに前世の記憶持ちなのだということも。
サビは微妙な顔をしていたが、この二人に隠し続けるのは無理だ。
「前世持ちって聞いて色々と納得できたよ。教えてくれてありがとう」
「す、すごいね! で、でも、あ、あんまり、む、無茶はしないでね……」
コーリリアまじ天使。
朝ご飯を食べてから、私とコーリリアはお出掛けをすることにした。
セリにも帽子を買ってあげようかと思うので、一緒に来てもらう。
サビには、コーリリアにもらった布で作ったミニカバンをあげる。
まだ収納量拡大の術式は覚えられてないから、見た目通りの量しか入れられないが、防犯性能はめちゃくちゃ高い。
銀貨を二十枚ほど渡し、王都で買える食材を買えるだけ買うことをお願いした。
サビと別れ、三人で昨日お世話になった洋服屋さんにやってくる。
コーリリアに髪飾りや帽子が買える店を聞いたところ、家とギルドの往復しかしてなかったから分からないと言われたのだ。
なので、喜んで教えてくれそうなお姉さんに会いに来た。
「あら! 今日はどうしたの? 可愛い子が増えてるじゃない」
かくかくしかじか。
お姉さんがまた閉店中に札をひっくり返そうとしているので、慌てて止めた。
「商売よりも大事なことがあるのよ。それは、新しい刺激! 昨日あなたたちであそ……買い物してもらったあと、行き詰まってた新作のデザインが湯水のように溢れ出したの。だから、これは決して仕事を放棄しているわけではないの。いい仕事をするための必要な時間なのよ!」
あー、分かるなぁ、その感じ。
私はお姉さんと固い握手を交わした。
お姉さんはユーフィという名前で、このお店はおばあちゃんから継いだのだそう。
うーん、親近感。
私たちも自己紹介をすると、可愛い子がコーリリアだと知って驚いていた。
「そういえば、どうして名前を言うの? 私いつもトリキの錬金術師ですって名乗ってるんだけど、実はよくないことだったりする?」
「う、ううん、別に、だ、大丈夫。フィ、フィヴィリュハサードゥ様っていう、す、すごい錬金術師様が、『私は錬金術師としてはもちろんだが、ただの一個人としても認められたいのだ』 って、ほ、褒賞授与の時に、い、言ったらしくて、そそそそれ以来、名前を名乗るれ、錬金術師も増えたんだ。あ、あアタシは、う、生まれが田舎で、ば、バカにされるかもっておお思って……」
「それもおじいちゃんのせいなんかい!」
っていうかトリスの錬金術師さんはなんなんだ、おじいちゃんのことが嫌いとかそういう感じなのか。
「え? おじいちゃん?」
「うん、フィヴィなんちゃらさんは私の師匠兼育てのおじいちゃんなの」
「えええええええええ」
「っていうかコーリリア、おじいちゃんの真似する時はするっとしゃべれてたね」
「えっ、あ、た、確かに」
「あ、私いいこと思い付いたかも! ユーフィさん、あとで布とか綿とか売ってるところにも行きたいです!」
「おっけー」
ユーフィさんが連れてきてくれたお店は、帽子と髪飾りだけじゃなく、アクセサリーなんかも色々扱っているお店だった。
キラキラした物も多いが、本物の宝石を使っているわけじゃないのかお値段はそれほど高くない。
みんなで店内を見て回っていると、ラムネみたいな色をした石が中央にあしらわれた大ぶりのバレッタが目に付いた。
ああ……ラムネ飲みたい……じゃなくて、これコーリリアに似合いそう。
色もウォーララを思わせる青だし、周りの金細工部分もそこまでゴテゴテしていなくて控えめな可愛らしさだ。
これにしよっと。
まだコーリリアは悩んでいるようだったので、セリの髪をまとめられる物も探すことにする。
髪をくくるゴムはないんだよなあ。
布と伸び縮みする素材で無理やり作れないかな。
もしそれができたら、小さなペンダントヘッドにでもくっ付けてみようか。
今コーリリアに選んだ物と同じような石が、パールくらいの大きさで連なっているネックレスがあったので、それも買うことにする。
この石は何の石なんだろう。
もし店員デビューしたセリにファンができたら、この石を使った物を売ったら儲かる気がする。
こっちの世界にはピアスはないのかと思っていたが、そんなことはないらしく、ピアスもそれなりに並んでいた。
その中の一つに、視線が吸い寄せられる。
小さな金の鳥が、茶色の王冠を付けている。
小指の爪の先くらいの大きさだが、潰れることなく、見事な造形だった。
ペアで売っているわけではなく、バラ売り。
五個並んでいたので、全部手に持った。
店主らしきお兄さんに駆け寄り、そのピアスの作者を聞いた。
「え? この店の物はぜぇんぶ、ボクの手作りだよぉ」
「神か……っ!」
「わぁ、なになに? だいじょおぶぅ?」
「あのあのあの、これ! これ最高です。私、鳥で天下取ろうと思っているのでこれ本当に最高っていうかもうこれしかないっていうか、ああ語彙力! 好きです!」
「わぁ〜、熱意しか伝わらなかったよぉ?」
「いつか私がビックになったら、必ず発注しますので、それまで絶対に腕を磨き続けてくださいね……! あ、これ、昨日作った焼き鳥ですがホカホカなのでよかったらどうぞ!」
「えぇ〜、わかったよぉ。そんなに言ってもらえると嬉しいなぁ。やきとり?もいい匂いだねぇ」
せっかくなのでユーフィさんにもあげた。
ハツ串しか残ってなかったけど、二人とも美味しそうに食べてくれてよかった。
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