第6話 念願の洋服選びと術師ギルド

「おい、一体どうなってるんだ、なんで奴隷が増えた」


「サビ、それは私にも分からないわ。なんか成り行きでそうなっちゃったの。とりあえず名前を考えないとね。それに焼き鳥を食べさせないと」


「ま、待ってください、全然付いていけないのですが……」


「ああ、そうね自己紹介もまだだった。私はトリキの錬金術師、フローリアよ。敬語はいらないから、せっかく知り合ったんだし仲良くしてね! こっちはサビ。私が助けた……って、私奴隷助けすぎじゃない?」


「錬金術師……あと、そのヤキトリ? ってなん……なに?」


「焼き鳥はこの世の真理よ」

「ささみわさび焼きは最高に美味しいものだ」


「は、はぁ……」



 本当だったら何か焼き鳥をご馳走して、好きになった焼き鳥から名前を付けてあげたいところだけど、街中で料理をするわけにもいかないし、とりあえず勝手に好きそうなやつから名前付けるか。


 まず、私はサビにやったのと同じように彼のことも綺麗にした。

 泥だらけだった長い髪は綺麗な薄い水色になり、瞳も青い。



「え、あなたもしかしてウォーララ水に愛されし一族?」


「なんで分かったの? って、ああ! 染めてたのに!」


「あー、再現の術式が、あなたの元々の髪の色を拾っちゃったのね。何色がいい? 染めてあげる」


「……フローリア様は、オレを他の人に使わせない?」


「え!? 私は使ってもいいの!? うわぁ〜〜これからは好きなだけ使えるのね、やったわおじいちゃん、これで水中呼吸薬の研究がやり放題! あ、でも髪の毛じゃなくてもいいから、体毛を毎日少しくれるだけでいいからね!?」


「わぁぁ、こわいこわい、何この子!?」


「諦めろ。あと焼き鳥に関することだと今より凄いことになるから覚悟しておけ」


「これより!?」



 はっ、いけない。

 何だかんだで錬金術も楽しいのよね。

 っていうか成人した生きてるウォーララなんて、本当だったらとんでもない高値で売買されるのでは?

 私ってば最強にラッキーだ。

 このラッキーついでに食材も飛び込んできてくれないだろうか。無理か。

 


「ごめん、つい興奮して。色んな人から狙われるから染めてたけど、私が守るなら染めなくてもいいってこと?」


「うん」


「よし! じゃあそのままで! 綺麗な色だもん。守るのはサビがやるね、私はサポートということで」


「おい」

 


 いやいや錬金術師なんてよわよわですよ。

 罠を仕掛けておびき出すとかならまだしも、突然襲われたら速攻で死ぬ自信がある。

 おじいちゃんに言われて心臓の位置は変えてあるし、出血しても皮膚から吸収できるようにしてあるけど、魔法陣が壊されたらそこで終わりだ。


 それでなんだっけ、好きそうな焼き鳥か。

 うーーーーーん、せせり!



「あなたは今からセリよ!」


「セリ? 分かった」


「せせりを今食べさせてあげることはできないんだけど、いつか完璧なせせり串を食べさせてあげるから! そしたら好きに死んでいいからね!」


「は? え、死、え?」


「え? だって死にたいんでしょ? あ、でも死んだら体は私が使うね。灰にしちゃうのも埋めちゃうのも勿体なさすぎるから! 絶対に有効活用するからそこんとこよろしく!」


「今までの会話の流れでそうなるの!?」


「君が俺に似た感覚の持ち主なようで安心した。二人で彼女の暴走を食い止めよう」



 サビがセリの手を握ってウンウンと頷いている。

 なんだ暴走って。


 名前も決めたし、次は洋服!

 やっと可愛い服が着れる!


 セリも別の街から連れられてきたらしく、王都のことはよく分からないらしい。

 三人で大通りまで戻り、第六地区まで歩いてみる。

 洋服屋さんを見付けるついでに、術師ギルドに登録しようと思って。


 第八地区はよそから来たお客さん向けの地区。

 第七地区は貧困層が暮らす地区。

 第六地区はそれより少し、生活のランクが上がっているみたいだった。

 まぁ、そういうことなんだろうね。


 第六地区の青い区画で、洋服屋さんを見付けたので入ってみる。

 店内にはいくつも棚があり、きれいに畳まれた服がたくさん並んでいた。

 私は目に付いたシンプルなワンピースを手に取り、体に当てて二人に感想を求めてみる。



「これとか、どう?」


「似合ってるよ」


「下には何を履くんだ? その格好で食材探しをするつもりなら、木にも登ったりするのだし、きちんとズボンを履け」


「え、木に登るの」


「そういうことする時は、もっと動きやすい服にする! これは街をうろうろする時用!」


「それならいいんじゃないか?」


「よし」



 シャツとズボンや、ブラウス、スカート、目に止まった服を片っ端から試した結果、今の私なら何を着ても似合うということが判明した。

 見た目がいいって素晴らしいな!

 なので、気に入った服を適当に見繕い、お店のお姉さんに一旦預ける。

 その時にお姉さんがうずうずしていたので、声を掛けて、サビたちの洋服を一緒に選んでもらうことにした。

 ゴリラと違って私たちの格好には何も触れずに接客してくれる。

 これよ、これ!

 ゴリラのばーか!



「顔がいいと何着ても似合うわ……うちの店、この地区の中だったら結構品揃えは豊富な方なんだけど、あああ許されるなら王室御用達の店でフルオーダーとかしてもらいたい……ッ!」



 どうあがいてもそれは無理なので、お姉さんの欲望のままに二人にはそれぞれ三パターンのコーディネートを考えてもらって、全部買った。

 試着室を貸してくれたので、みんなで買ったばかりの洋服に着替えさせてもらう。


 お姉さんが靴屋さんを紹介してくれたので、次はそこに行こうと店を出ると、まさかのお姉さんも付いてきた。

 開店中の札をひっくり返し、太陽がまだ高い位置にあるというのに閉店したお姉さんは、嬉々として私たちを先導する。

 靴屋のお姉さんも一緒になって全力で靴を選んでくれた。

 値引きもしてくれようとしたんだけど、そこは接客への感謝も込めてきちんとお支払いした。


 それから術師ギルドへ。

 第六支店と書かれた青い建物に入ると、右手が冒険者ギルド、左手が術師ギルドになっていた。

 二つの窓口に挟まれるように大きな掲示板があって、そこには色々な依頼書が貼り付けてあった。


 私は術師ギルドの窓口に行き、トリキの錬金術師ですと名乗る。

 話を聞いていたのだろうお姉さんは、入会申込書と共に依頼書を差し出した。



「初めまして、お話は伺っております。まず術師ギルドへ登録して頂きたいのですが、王都での滞在先はお決まりですか?」


「あ、まだ決めてないです。オススメとかありますか?」


「この辺りでいいのでしたら、ここを出て左に行ったら見えてくる“とりとり亭” が値段の割に部屋が綺麗で広いと評判ですよ」


「そこにします。何が何でも」


「ひぇ」



 何て素敵な名前の宿なのだ。

 拠点にするには最高じゃないか。

 王都に店を構えることになるかはまだ分からないし、しばらくは宿屋暮らしになるだろう。

 とりとり亭……鳥、好きなのかしら……鳥の美味しさに気付いているかしら……。



「えーと、話を進めますね。ここの、王都に特定の居住地を持たないというところに丸を書いて頂いて、お名前と、年齢、それとご自身の魔法陣をご記入ください」


「はい!」



 全部書き終わってお姉さんに渡すと、お姉さんの口が開いたまま塞がらなくなった。

 見開かれた目は、まっすぐに私の魔法陣に注がれている。



「あ、あの……どうかしまし「フィ、フィ、フィヴィリュハサードゥ様のお弟子様でいらっしゃられますかぁぁぁぁぁ!?」



 お姉さんの絶叫に近い声を聞いたギルド内の人たちが、一気にざわめく。

 珍獣でも見るような目で私を見る人、恐ろしいものを見るような目で私を見る人、そして、めちゃくちゃ尊敬の眼差しで私を見る人など反応は様々だ。


 おじいちゃん、有名人かよ!

 っていうかなんでみんなスリャーナの錬金術師って呼ばないの!?



「フィブ、フィヴィリュハサードゥは確かに私の師匠ですが……それが何か……?」



 ほらまた噛んだー!

 もうやだー!



「何かも何も、ご存知ないのですか!? あの方はとんでもない功績を残しながらも誰一人として弟子になれなかったお方なのです! 王城務めの錬金術師たちでさえ、弟子になるために課された試練を乗り越えることができなかったと!」


「は、はぁ」


「失われた腕を取り戻すための薬の作り方をフィヴィリュハサードゥ様に伝え、フィヴィリュハサードゥ様がその通りに作った薬を自らの身をもって試すという第一試練! その時点でほとんどの者が脱落し、以降も己の精神と肉体の強さを試されるような試練ばかりが続くという噂で……」


「ああ……」



 やりましたね。

 元々おじいちゃんの実験台にでもなれればいいと思っていたから、全然抵抗なくやってたけど、やっぱ当たり前というわけではなかったんだな。



「王都へようこそフローリア様。できればずっといらっしゃってください。なんならフィヴィリュハサードゥ様とご一緒に王都に住まわれるのはいかがですか」


「あ、はい、ありがとうございます、ははは」


「こちらは商業ギルドからの依頼で、金庫への防犯機能強化付与ですね。一応今回依頼されているのはオレンジの第八出張所のみですが、その際の付与をギルド長が視察し、腕がよければ他の場所の金庫も付与もお願いすることになるかもしれないらしいです。フィヴィリュハサードゥ様のお弟子様なら確実に追加依頼きますね。商業ギルドは金払いがいいですから、どんどん吹っ掛けたらいいと思いますよ!」


「は、はい」


「では、こちらが術師ギルドの発行するギルド証になります。魔力を流すと魔法陣が浮かび上がります。初回に流された魔力を記録して、以降はその魔力でしか反応しなくなりますので、本人証明にお使いください」


「ありがとうございます」



 大勢の視線を受けながら、術師ギルドを出ようとした時だった。



「あーーーーーーーーーー!!」



 扉を開けて入ってきたローブ姿の女性が、私たちの方を指差して叫んだのである。

 ま、まだ何もしてませんけどー!?

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