第4話 ドン引きサビくんと、とんでもな人たち
結局王都への道半ばで野宿することになった。
また食材探しも兼ねてその辺をウロチョロしていた小動物や爬虫類、虫なんかを食べてみたりしていると、サビがものすごい顔で私を見ていた。
「お前……あまりにも雑食すぎやしないか……?」
「サビ、これは大事なことなの。私の求める食感や味かどうかは、実際に食べてみないと分からないんだから。それに、前世の頃は昆虫食とか無理……ってなってたけど、こっちだとなんかそんなに抵抗ないみたい。このコオロギみたいなやつとかアーモンド、あ、アルルンドみたいな味がして美味しいよ」
おじいちゃんも意外と色々なものを食べていたし、多分私が前世を思い出すまでの十数年でゲテモノを食べることに抵抗がなくなったんだと思う。
自分ではあんまり意識していなかったけれど、よくよく考えてみれば昔ではあり得なかったことも平気でやれている。
異世界版・新しい私って感じ?
あ、でもなんかこっち独特の宗教とかで食べちゃいけないものがあったりするかもしれないんだな。
新しい土地に行ったらまずはその辺も知っておかないとね。
捕まって処刑とかには絶対なりたくないし。
「俺も色々なものを食べた方だと思うが、それは命の危機に迫られてのことで……ささみわさび焼きみたいなものが作れるのに、わざわざそんな嬉々として目につくもの全て口に入れるとは……」
「え? なに? 食べたい?」
「いらん。あと、歯に虫の足が挟まってる」
「あらヤダ」
そんなこんなで夜は更けて、次の日もまたひたすらに歩く。
道からそんなに外れないところに時々湧き水があって、そのおかげでなんとか歩き続けていられるが、しんどい。
タクシー乗りたいよー!
ヒッチハイクをしてみようにも、馬車のスピードは想像以上に早く、しかも先頭が馬だからなのか御者の人は道を歩く私たちのことなど気付いてもいないような素振りで通り過ぎていく。
自転車はちょっと作れそうにないし……あ、キックボードくらいなら作れるかな……いやでも前世持ちってバレない方がいいなら迂闊に変なものを作らない方がいいのか。
焼き鳥は変なものではないのかというおじいちゃんの声が聞こえてきた気がするが、焼き鳥は変なものではない。
だって鳥を焼いただけだから。うん。
あああ、ねぎま食べたい。
苦しむ私をよそに、サビは余裕だ。
こうなったらサビに運んでもらおう。
私は近くに生えていた木に魔法陣を刻み、木の板をいくつも作り出す。
それから組み木の要領で、めちゃくちゃ簡易的な手押し車のようなものを作った。
いそいそと乗り込み、サビに押してもらう。
うん、ベビーカーっぽい。
大五郎にでもなった気分だ。
でも当たり前だが超楽チンだ。
しばらくごろごろ運ばれていると、お尻が痛くなってきた。
クッション、必要だわ……。
◆
だいぶお城が近付いてきたので、手押し車から降りる。
手押し車は一応木片にしてしまうことにした。
ばらばらにして、土の上に放置。
王都は高い塀に囲まれていて、お城の全景は見えなかった。
人が列を作っている先に大きなアーチがあって、そこがどうやら入り口らしい。
夜になると閉まるのだろうか、格子状の扉が見える。
槍を持って鎧を着た人たちが、列に並ぶ人に何か見せてもらったり、会話をしたりしてから中へと案内していた。
あの見せているカードみたいなやつはなんなのだろう。
免許証みたいなものだろうか。
そういえば私は自己を証明するようなものを何も持っていない。
大丈夫かな……。
それにしても、やはり服装は中世っぽい感じだ。
地味めな色の布や革でできた簡素な服を着た人たちが多い。
女の人は控えめな色のワンピースみたいなのを着てる人がちらほら。
ただ、脇にある別の門から、馬車に乗ったまま王都へ入っていく人たちもいる。
彼らは貴族なのだろうか?
小さな窓からちらりと見えるくらいだが、色鮮やかなジャケットやドレスを身に付けているように思う。
王都に入れたら、まずは洋服屋さんに行きたい。
あ、違うサビの値段を聞かなくちゃ。
私たちも列に並び、順番が回ってくる。
担当の兵士は怪訝な顔をして私たちを見た。
「ギルドカードや、身分証のようなものはあるか?」
「ありません」
兵士はサビの方へ話しかけたが、私が返事をする。
驚いたように私を見たものの、すぐに私に対して話してくれるようになった。
しかも目線を合わせるように少しかがんでくれる。いい人だ。
「どこから来たんだ?」
「キュロレイの森です」
「あ? あんなとこに人なんか住んでたのか! ふむ……王都へは何をしに?」
「焼きと……コホン。私、トリキの錬金術師と申します。修行に明け暮れ世間知らずで、見聞を広めるために旅をしておりまして、ここが初めての街になります」
いけないいけない、とりあえず錬金術師として入り込んで、そこから徐々に焼き鳥布教よね。
新興宗教とかに間違えられたらヤバいかもしれないんだから本音と建前よ私!
「錬金術……」
「疑っておいでですか? では、こちらのポーションを。私の作ったものです」
「うーん、少々お待ちを。おーい、トリスの錬金術師殿を呼んでくれ! すまないが、案内するので部屋でうちの国の錬金術師殿と話してくれるか」
「承知いたしました」
トリス!?
え、ハイボールとか作ってくれちゃうかな!?
……ないか。
確か麻酔薬の一つにトリスという名の付いたものがあったはずだ。
きっとその薬を生み出した人なのだろう。
「連れの兄ちゃんは何者だ?」
「奴隷です」
「奴隷!?」
「王都に荷馬車で運ばれる最中に事故に遭い、死にかけていたのを助けました。売り手の方が王都内におられましたら、正式に購入しようと考えております」
「じょ、嬢ちゃん……若く見えるのにとんでもないな……。奴隷売買は第七地区でやってるよ」
「ありがとうございます」
深々と礼をし、とりあえずは大丈夫だったかと密かに胸を撫で下ろす。
おじいちゃんは礼儀作法なんか教えてくれなかったから、前世の感じでいっちゃったけど、問題ないみたいだ。
別の兵士に案内され、外壁内部に作られた小部屋に通される。
少しして、不機嫌そうに眉間にしわを刻んだ老人が部屋に入ってきた。
おじいちゃんより少し若いように見えるけど、どうだろう。
「お前が錬金術師か。師は誰だ、魔法陣を見せろ」
「はい。トリキの錬金術師と申します。師はフィヴ、フィビリュ、フィヴィリュハサードゥ。陣はこちらです」
噛んだ。
おじいちゃんの名前が難しすぎるせいだ。
私は恥ずかしさのあまり視線をさまよわせながら、カバンに刻んだ自分の魔法陣を見せた。
トリスの錬金術師さんは、ぱくぱくと口を動かし、お化けでも見たような顔で私を見た。
「フィ、フィヴィリュハサードゥだと!? う、嘘だ、あいつが弟子を!? というかあいつに付いていける人間が存在したのか……!? こんな若い女が!? というより生きていたのか……」
なんか、すごい驚かれてる。
おじいちゃん何してたの……?
「生きてますよ」
「いや、死んだことにしておいてくれ。もしくは今どこにいるかは知らないことに」
よく分からないが、頷いておく。
もしかしたらおじいちゃんはこの国に敵が多いのかもしれない。
食い入るように私の魔法陣を見て、それからポーションを一滴指に垂らしうんうんと唸った後、トリスの錬金術師さんは死んだ魚のような目で私を見た。
「確かに。お前の身元は了承した。どこへなりとも行くがよい。それと……このポーション、買い取らせてもらっても……?」
「ご入用ですか? よかったら差し上げますけれど」
「いや! 払わせてくれ……これは、素晴らしいものだ……ああ、私は未だ道半ば……」
ぶつぶつと何事か呟きながら私に金貨を一枚手渡すと、トリスの錬金術師さんは部屋から出て行ってしまった。
え、待って金貨!?
いくらなんでも多すぎるだろうと慌てて追い掛けたが、すでに姿は見えなくなっていた。
取り残された私たちは顔を見合わせ、もと来た道を戻ることにする。
聞きそびれちゃったけど、あの感じは確実に転生者じゃないな。
ほーんの少しだけ期待していたのだけれど。
あーん、ハイボール飲みたかった!
それにしても金貨……嘘でしょ。
銅貨百枚で銀貨になって、銀貨百枚で金貨になって、銅貨が一枚百円だとしたら金貨一枚で百万円じゃん!
いやいやいやこれ初級ポーションですけど!?
やっぱりどう考えてももらいすぎである。
っていうか金貨なんてほいほい持ち歩かないでほしい。
持ち歩きたくない。
落ち着いたら上級ポーションか、なにかちょっと作るの面倒くさい薬でも作って渡しに行こう。
あと王都に銀行とかあるんだろうか。
スリとかいたらやばいよー!
私はもらった金貨を、カバンの奥深くにしまいこみ、思いつく限りの防犯性能をカバンに付けまくった。
「よく分からないままに大金を手にしてしまったけど、これで確実にサビは私のものだね。いぇーい」
「錬金術師というのはみんなどこかおかしいのだな。納得した」
「失礼な!」
入り口まで戻ると、私たちに気付いた兵士が王都へようこそと笑いかけてくれる。
開かれた門の先。
活気に溢れる城下町が広がっていた。
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「子連れ狼」
原作:小池一夫、画:小島剛夕の日本の時代劇漫画作品
全28巻
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