巨乳妹の愛が重すぎる

下垣

ウチの妹が重すぎる

「私、城戸きど君のことが好きなの」


 俺は今、同じクラスの高宮たかみや 彩乃あやのに告白されていた。俺が小学生の頃から思い続けていた片思いの女の子。


 笑顔が素敵で笑った時に見せる八重歯が特徴的な子だ。誰とも隔てなく接する高宮さんは、クラスでも目立たない存在でもある俺にも明るく声をかけてくれた。


 成績優秀な彼女と同じ高校にいくために、一生懸命勉強した中学時代。嫌いな勉強を死ぬ気が頑張って、俺は無事に高宮さんと同じ高校に行くことができたのだ。


 今日は人生で最高の日だ。普通の男子高校生の俺とは釣り合わないと思っていた子から告白されるなんて。これは夢じゃないからしら。そう思っていた矢先の出来事だった。


 体が妙に重い。妹一人分の体重が乗っている。そんな気がしてならない。おかしい。俺の上には誰も乗っていないはずだ。なのにこのリアルに感じられる重さはなんなんだ。


 ただ、重いだけではない。むにゅっとした柔らかい感触が俺の体全体に広がっている。この感触は男なら誰でも本能で求めてしまうような感触だ。俺はこの感触の正体を知っている。本能では求めていても、理性では拒まなければならないものだ。これは。


「う、うぅ……」


 俺が目を覚ますと、妹の夏芽なつめが俺に覆いかぶさっていた。妙に顔が近い。なんだこいつ……


「あ、お兄ちゃん起きたんだ。えへへー」


「起きたんじゃなくて起こされたんだよ。どっかの誰かさんにな」


 こいつが俺のベッドに潜り込むのは一度や二度のことではない。ほぼ毎日と言ってもいい程、こいつは俺より先に起きて俺のベッドに潜り込む。


 覆いかぶさって起こされるなら、まだマシな方だった。こいつは時折、俺にキスをかまして起こしてくることがある。もちろん口と口でするキスだ。俺のファーストキスは妹に奪われてしまったのだ。


 ハッキリ言って、夏芽の俺に対する愛情は異常だと思う。普通の兄妹のスキンスップを超えている。


 俺も夏芽のことは嫌いではない。ただ、兄妹の枠組みを超えて好きかと言われるとノーを突きつけたい。俺は夏芽とは普通の兄妹関係を築きたいだけなのだ。それなのに、夏芽は俺に兄以上の感情を抱いているようにしか思えない。


「ちぇ。後少し起きるのが遅かったら、お兄ちゃんにキスしてたのにな」


「うるさい。早くどけ」


 口を尖らせて拗ねる夏芽に俺は冷淡に命じた。正直言って重い。人一人の体重というのは想像以上に重いものだ。一般的な女子でも50キロ前後の重さは持ち合わせている。それが、身長もそこそこ高くて、豊満なものを持っているウチの妹なら……もっと重いと推測されるだろう。


「えー。学年一大きいおっぱいをお兄ちゃんに当てているのにその冷たさはなんなのー?」


「妹のおっぱいなんてありがたみもないもない」


「とか言いつつ、下はこんなことに……いた!」


 夏芽が俺の股間に手を伸ばして来たので、手の甲を抓ってそれを阻止した。股間を触るのはいくらなんでも兄妹のスキンシップの範疇を超えている。やらせるわけにはいかない。それに朝は男性機能が元気になっているのだ。余計に触らせたくない。


「ひどい……どうして! どうしてお兄ちゃんは私にひどいことするの! お兄ちゃんは前までは優しかったのに! どうして冷たくなったの?」


 夏芽が非難してきた。しかし、それを無視して俺は起き上がろうとする。しかし、夏芽が俺を抑え込んでベッドに押し付けてくる。


「私にひどいことするお兄ちゃんにはお仕置きしないといけないね」


 このままではまずい。俺はなんとかして、ここから抜け出さなければならない。というか、そうしないと遅刻してしまう。今日は普通に平日だし、学校に行かないと。


 夏芽の弱点は兄である俺が一番よく知っている。俺は夏芽の脇腹をくすぐった。すると夏芽はけらけらと笑い出して力なくへなへなとへばった。


「ちょ、お兄ちゃん。それ反則……うきゃきゃ」


 サルのようにはしゃぐ夏芽。俺は夏芽を部屋から追い出して、急いで制服に着替えて身支度を整えて弁当を持って家から出た。



「はあ……」


 俺は教室につくなりため息をついた。どうして、俺にはあんな妹がいるんだろうか。あの妹さえいなければ、俺はもっとまともな人生を歩めたんじゃないんだろうか。そう思わざるを得ない。夏芽さえいなければ、俺は夢の中で高宮さんとイチャコラできたのに。


「よお。聖司せいじ。どうした。お前。朝っぱらからため息ついて」


 俺の親友の隼人はやとが声をかけてきてくれた。


「はあ……女兄弟がいないお前にはわからないだろうな」


「なんだ。また妹さんのことで悩んでいるのか?」


「そうなんだよ。あいつ。俺に対して過剰にスキンシップしすぎなんだよ。拒絶しても、余計に悪化するし。どうすればいいんだ」


「いっそのこと受け入れちゃえば? 俺の持っているラブコメラノベでもそういう展開は腐るほどあるぞ」


 こいつ頭がおかしいのだろうか。女兄弟がいないやつは気楽にこういうことを言ってくる。妹とそういう関係になるのなんて想像しただけで吐き気を催すからな。


「お前に相談しようとした俺がバカだったよ」


「やーいバーカバーカ」


「死ね」


 そんなやりとりをしている内にあっという間に授業時間になり、昼食の時間となった。


 昼食は隼人と一緒に弁当を食うことにしている。今日は両親が旅行に出かけてて不在なので夏芽が弁当をつくってくれた。どんな弁当だろうか。


 俺はわくわくしながら、弁当箱を開けた。すると中にあった弁当は……


 思いっきりご飯にピンクのハートが描かれたこってこての愛妻弁当……いや、愛妹弁当か。


「うわ。なんだそのハートの弁当は?」


「やめろ。見るな。殺すぞ」


 こんな弁当を食べるなんて羞恥プレイにも程がある。なんでこういう弁当を兄に向けて作るの? 愛が重いとかそういう次元じゃないんですけど。


「わー。城戸君のお弁当可愛いー。ハートのマークが描いてあるんだね。彼女の手作りなの?」


 最悪。高宮さんに弁当を見られた。しかも、彼女がいるって誤解されてる。死にたい。


「違う違う。こいつの妹の弁当なんだよ。ぷぷ……」


 なにがぷぷ……だ殺すぞ


「城戸君って妹さんと仲がいいんだね。きっと城戸君が素敵なお兄さんだから、妹さんもいい子に育ったんだよ」


「え。あ。そ、そんなことないよ。俺は全然素敵なお兄さんとかそういうんじゃなくて……」


 あれ? なんか知らないけど高宮さんの好感度が上がっている? ありがとう夏芽。



 学校を終えて俺は家に帰った。家に帰るとリビングには誰もいなかった。両親は旅行で出かけてていないし、夏芽がいる様子もない。おかしいな。普段なら夏芽はリビングでテレビを見ている頃なのに。玄関に靴があったから夏芽は帰っているはずだ。なのに、姿が全く見えない。


 夏芽は自分の部屋にいるのかなと思い、俺は自室に行った。すると俺の部屋に夏芽の姿があった。


「おい! 夏芽! お前なに勝手に人の部屋に入ってるんだ」


「お兄ちゃん……」


 夏芽は俺に近づいてくる。なんだこの圧は……俺は思わず後ろに後ずさった。そして壁際に追い込まれて、俺は夏芽に壁ドンされてしまった。


「ねえ、お兄ちゃん。昼休みにクラスメイトの女子と仲良く話していたよね? あれなに?」


「な、なんのことだ」


「とぼけないで!」


 耳をつんざく夏芽の声。声のボリュームが大きいんじゃ。夏芽の様子がおかしい。このまま追い込まれた体勢だとまずい。俺はなんとか隙間を縫って夏芽の壁ドンから逃げ出した。


「お兄ちゃん! どうして、他の女と会話するの! お兄ちゃんは夏芽のことだけ考えて生きていればいいの! ねえ、私がいるのにどうして浮気なんてするの? なんでなんでなんでなんで!」


 夏芽が半狂乱になり、自身の髪の毛を掻きむしっている。これは完全に精神が乱れている。気が狂ってやがる。


 前々から兄に対する愛が重いやつだと思っていたけれど、まさかここまでとは。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」


 夏芽はその言葉をなんども連呼して俺ににじり寄ってくる。まずい。後ろはベッドだ。逃げ場がない。


 夏芽は俺に覆いかぶさってきた。そして、俺は夏芽にベッドに押し倒される形になった。


「や、やめろ夏芽」


「やめない。お兄ちゃんが私を女として見てくれないなら、強硬手段に出るしかない。こうすれば、お兄ちゃんは私を女として意識せざるを得ない」


 夏芽が俺のワイシャツのボタンに手をかけようとする。


「ダメだ! 夏芽! 俺たちは兄妹なんだ。こんなことしたらいけない」


「なんでいけないの? ねえ? なんで? なんで?」


 夏芽はぎこちない手つきながらも俺のワイシャツを脱がした。俺の上半身が露わになる。そして次に夏芽は俺のズボンのベルトに手をかけようとする。


「や、やめてくれ夏芽! それ以上は本当にまずい!」


 俺は必死に抵抗した。しかし、夏芽は強い力で俺を思いきり押さえつけた。その衝撃が加わり、俺のベッドがバキっと音がした。


「あ」


 俺のベッドが壊れた。木製だった俺のベッドはもうバッキバキに折れている。夏芽は申し訳なさそうな顔をしている。


 そりゃそうか。ウチの妹は重い。体重160キログラムもあるからな。それが一気に押さえつける力を加えたら木製のベッドはひとたまりもないだろう。


 ウチの妹が愛も体重も重いという話でしたとさ。おしまい。

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