第46話 音を立てて、動き出す③

「壱弦」

「はい、ノヴァ様」

 呼ばれたので返事をすると、ノヴァ様が側に来ておもむろにテーブルの上に手をかざした。

 すると、下向きにした手のひらからテーブルへ、じゃらじゃらと色とりどりの石が落ちていく。何だこれ。

「これはオレからの家賃だ。精霊たちからは薬草を貰ったようだからな」

 自慢気にノヴァ様は語る。

 このテーブルの上の石。これはもしや、というかもしかしなくても魔石では?

「あの……ノヴァ様。これはその、貴重なものなのでは?」

 大小様々……とはいっても、小さいものでも先ほどまで僕が使っていた魔石の倍以上の大きさはある。その上、どれもやたらと色が綺麗だ。澄んだ色合いをしていて、高級な宝石と遜色ないほどに。

 そんなどこからどう見ても貴重なものが、おざなりに出された上に、こんもりと山を作っている。

 精霊王様の価値観、やばい。

「薬草その他を家賃にやると言っただろう」

 ご本人は何てことのない、きょとん顔だ。やたら美少年だから少し首を傾げただけで神がかって可愛い。だが、出したものはえげつない。

「こんなに、いただけません」

 本当に、僕の心の安寧の為にも。今すぐその手の中に戻していただきたい。

「大したものでもないのに」

 いえいえ、大したものですよ。多分一生働かずに遊んで暮らせるレベルの価値だと思いますよ。……と、声には出さずにそっと思う。

「じゃあ、この中から十個選べ。やる」

 だがしかし、ノヴァ様はそのまま片付けることはしなかった。

 これはどうやら、貰うまで粘られるやつかな。

「一つで十分です」

「お前……いいだろ、十個くらい」

「嫌ですよ。こんなどう見ても高価なもの」

「じゃあ五個だ、五個ならどうだ」

「一つで十分ですよ」

「五個くらいいいだろ!」

 何だろう、この値切る時とまったく逆のやりとりは。

「じゃあ二個だ!選べ!」

 不毛なやりとりの末、二個いただくことになった。

 それでも絶対に家賃としては貰いすぎだと思う。ポーションや食事代よりも断然、というか考えたくないくらいに、この魔石一つの方が高価だろうと思う。


 一つは、結界魔法を入れたいと考えている。だからそれと相性の良さそうな石を選びたい。

 鑑定をすると、どの石も『精霊王の魔石』としか出てこない。どの大きさ、色でも同じだ。

 何となくだけど、透明なものが良いかな。

 小ぶりだけど、とても澄んでいて綺麗な魔石を見つけた。これにしよう。


 もう一つは、直感で真っ白な魔石にした。

 こちらも透明な魔石と同じくらいの小ぶりさだ。

 使う用途は今のところ浮かんでいないけど、雪みたいで綺麗だし、もし透明な魔石の方で結界魔法を入れるのに失敗した時、この魔石ならリカバリーに使えるかなと。失敗については、なるべく考えたくないけれど。


「ありがとうございます、ノヴァ様」

「うむ。またそのうちやろう」

「……しばらくは大丈夫です」

 そしてふと思い出したけど、先日ノヴァ様と一緒に街に出掛けた時に魔石を貰った気がする。

 あの時は他のことを考えていてぼんやりしていたから、よく色も見なかったし鑑定もしないままとりあえず収納バッグに突っ込んだ記憶しかない。でも今回貰ったものより大きかったような気が……。

 改めて見るのも怖いし、今更返せないし、うん。放置しよう。

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