第43話 冒険に行こう⑥

 それにしても、こんな手のひらにころんと乗る小さな魔石一つ作るだけで、こんなに魔力が取られるとは。

 結界の魔法はそれ自体に、水球の魔法とは比べものにならないくらいに魔力を消費する。

 となると、水球の魔法でこの小ささとこの魔力消費量なら、結界の魔法の魔石はゼロから作るのは難しい。現状、ほぼ無理だ。

 何もないところから作り出すことは、どんなことであれ難しいもの。やっぱり相性の良い魔石を探して見つけて、結界の魔法を入れる……というのが現実的だ。


「この小さい石一つ作るだけで魔力が尽きました。なので、結界の魔法の魔石を作るのは難しそうですね」

 心配そうに僕を見ていたパパさんにそう伝える。

「いや、魔石を作れる時点でオレはびっくりだぞ」

「イヅルくんはすごいのね〜」

 ちなみにこの水色の魔石は水が出てくるだけのものだったけど、ママさんが欲しがったのでプレゼントすることになった。




 しばらくゆっくりお昼休憩をしてから、午後は帰りがてら薬草などを採取していく。

 魔物は解体するのも手間だし、必要な魔石が手に入らない以上、倒してもあまり意味がないから、帰りは弓で足下を狙って威嚇して逃す。

 本当にスキルが弓で良かった。近接戦闘型だとちょっときついな。そうしみじみ思う。

 魔物も増えすぎると街の方まで行ってしまうこともあるけど、領主様指示の定期的な見回りのお陰で、出会ったら絶対に倒さないといけないなんてことはない。逃げても見逃してもいいし、気になるようなことがあれば報告だけすればいいようだ。

「しかしイヅルは弓が上手いな。実戦は今日がはじめてだろ?」

「実戦ははじめてですけど、弓は三年くらい習っていたんですよ」

 まあ、その時は上手いか下手かで言えば微妙な実力だったけれど。それは言わなくてもいいことだからね。

 でもこうしていざ弓を使ってみると、当時のことを色々思い出してくる。

 弓道をする時は袴を着ていたのだけど、袴を着ると背筋が自然と伸びるし、弓を持つと空気が凛とする。

 弓道には細かな作法や型があって、それらを丁寧に行うことがとても好きだった。そう。上手くなくても、ただ好きだったんだ。

 アーチェリーの方はまったく経験がないけど、弓スキルAの補正かどこをどう狙って矢を放てばいいのかなんとなくわかった。

 とはいえ、やっぱり弓スキルを使うことはあまりないだろうな。

 自分一人で出掛ける時は、もうずっと結界魔法使用でいいと思う。さっきみたいに変なことをしてやたら魔力を減らさない限りは、常時結界にしていても大した問題ではない。


 ゆっくり探索しながら戻ってきても、夕方になる前には帰ってこれた。

 パパさんママさんの家より手前にある僕の家で、今回回収したものを振り分ける。

 僕は結局魔物には一回攻撃しただけで、あとは威嚇射撃しかしていない。解体もしていないし、魔石の回収に関しては成果は皆無だ。

 どうしたものかと思ったけど、魔石が欲しいと言って今日出掛けたわけだから、それならお互い欲しいものを分け合いましょうというママさんの提案に有り難く乗らせてもらった。小さくても色が悪くても、練習するにはもってこいだ。

 というわけで、パパさんママさんから要らない魔石を譲り受けて、その代金として採取した薬草をいくつか渡す。

 薬草も使うものだけど、欲しいものは買えばいいし、今のところ間に合っている。それよりも魔石の方が今は欲しい。

 パパさんママさんにしても、魔石はお店で取り扱っていない。専門のところに売ってしまうらしい。だから少し高く売れそうな形や色のもの以外は、僕が引き取ることになった。

 薬草の方がお店で売れるから、お互いに利のある取引だね。


 それから僕が作ったあの魔石のお礼に、明後日お洒落をしたアイネと丸一日デート出来ることになった。

 本人がいないところで勝手に決めていいのだろうかと思いつつ、お洒落をしたアイネの姿は正直かなり楽しみだ。

 たぶんママさんに整えられてくるんだろうなあ。

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