第41話 冒険に行こう④

 良く晴れて、良いピクニック日和だった。

 いや冒険かな?魔石を求めに魔物と戦ったり、薬草を探して採取したりするから。

「そんなに遠くへ行かないなら大した魔物もいないから、問題ないだろう。精霊たちもこっそりついていってるしな」

 というノヴァ様のお言葉を頂いて、家を出た。

 有り難いことに精霊さんはいつもこっそりついてきて、危ないことから僕を守ろうとしてくれているらしい。


「イヅルくーん」

 ママさんの声だ。待ち合わせの時間よりまだ少し早い。

 楽しげにぶんぶんと手を振りながらこちらへ向かってくるママさん、何回見ても二人の子供の母親にも三十代にも見えないなあ。

 そして隣を歩くパパさんの貫禄もすごい。強面で筋肉隆々なので、とにかく迫力がある。

 リアル美女と野獣。今日も麗しい。そして野獣と表現しておいてなんだけど、パパさんはお髭を剃ったらダンディなイケメンの雰囲気を感じるんだけど、その辺りどうなんだろうな。

「パパさん、ママさん、今日はよろしくお願いします」

「こちらこそよ〜。嬉しいわ、将来の息子とお出掛けなんて。ねえ、あなた」

「ああ。アイネも楽しそうだしな」

 僕とアイネがお付き合いをはじめたことは、勿論知っている。改めて挨拶をした時に『でかした、娘!』と言って親指を立てる父親の姿にびっくりだった。あまり喋らないだけで、性格はだいぶとっつきやすい感じのようだ。

 まあでも僕の作った味付きポーションをいたく気に入ってくれているみたいで、しかもそのポーションの売り上げは良い。将来あのお店を継ぐのはアイネのようだから、それもあって余計に歓迎ムードなのだろう。

 あのガッチリした体格で本気で殴られたら間違いなくただでは済まないから、無事に受け入れられて良かったなあと思う。


 今日は僕の家からだと、街の中心部へ向かう方とは反対側へと行く。

 辺境の辺りは街は栄えているけど、そこから外れると山や森などの自然の宝庫だ。

 当たり前だけど、その場所によって棲みついている魔物や採れる薬草が違っている。今日行くのは初心者向けの、弱い魔物が生息している森だ。

 森といっても、子供がお小遣い稼ぎに薬草を探しに行っても迷うこともなく無事に採取して帰ってこれるくらい安全で、道もある程度整備されているようだ。


 森に入る前に、各々準備をする。

 いくら初心者向けの場所でも、魔物がいないわけではない。ここでは子供だってナイフや弓を扱えるのだから。

 ひとまず、小さい方の弓を出す。アーチェリーで使うくらいのサイズのものだ。

 これなら重くないし、持ち続けていても苦にはならない。射るまでの速度も速いから、こちらの方がまずは良いだろう。

「イヅルくんは、弓で戦うの?」

「はい。魔法も使えますけど、上手く出来るかわからないので、メインは弓でいこうかと。お二人は武器は持たないんですか?」

 パパさんとママさんは先ほどからポーションの数などの確認はしているけど、手ぶらのままだ。

 不思議に思って問い掛けると、ママさんはにっこりと笑った。

「ええ。私も旦那様も、拳が武器なのよ」

「……えっと、ママさんもですか?」

「そうよ〜」

 拳が武器、ということは二人ともゴリゴリの近接戦闘タイプじゃないか。

 というかママさん、この細さ美しさをもってしてまさかの武闘派なの?

「殴るのが一番早いからな」

「そうよねえ」

「……そうなんですか……」

 似た者夫婦、という言葉を僕は思い出していた。


 準備が済んだので森に入り、散策する。

 慣れているパパさんママさんはサクサク進み、どういうところにどんな薬草が生えているのか教えてくれる。

 採取しすぎるとなくなってしまうから、どの程度残すとか、よく似た薬草についての見分け方とか、あとはどういった魔物がこの辺りにいるのかなども。

 鑑定で自生している主な場所は書いてあるけど、こういうのはやっぱり一度現地で見てみないとわからないものだな、と思う。とてもためになる話だった。

 魔物の方は、弓スキルAのおかげか矢は狙ったところに届くようだった。

 もっとも、弓自体の性能にも左右されるから、小さい弓ではあまり遠くまでは届かない。

 弱い魔物だったら問題なく倒せることがわかったけど、倒した魔物をパパさんママさんのように解体して素材をわけて……ということは正直出来そうにない。うん。無理。

 魔石が欲しいのは山々だけど、魔物の処理が出来なければ魔石も回収出来ないし、というかそもそも血とかも得意ではないから、今後は魔物とは出来るだけ戦わずに遭遇せずにする手立てを考えよう。魔石は仕方ない、買おう。

 魔物を即座に殴って、しめて、解体するパパさんママさんの手際の良さにはびっくりだよ。

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