第40話 冒険に行こう③
明日は魔物とも出会うだろうけど、慣れた人たちと一緒だし、あまり遠くへ行くわけでもない。
足手まといではとか、役に立たなければとかごちゃごちゃ思ったけど、うん。出来ることしか出来ないんだから、焦ったところで仕方がないよね。出来ることを頑張ろう。
「明日の分も今日、いっぱい遊ぼう。でも明日の準備もちゃんとしたいから、夕方までね」
「はーい」
「わかったの」
「かしこまりまりー」
「やったあ!」
精霊さんのおねだりを了承すると、飛び回って喜んでいる。そんな姿を見ていると、僕も嬉しくなる。
明日の準備はまあ、夕方からはじめても間に合うだろう。質の良い体力ポーションと魔力ポーションは改めて作らなくても在庫があるし、選んでバッグに詰めるだけだ。
魔物と戦う時に便利なポーションは今は作れないから仕方ない。それはまた今度、時間のある時にやろう。
パパさんの好きな醤油ラーメン味や、ママさんの好きなラタトゥイユ味のポーションを多めに入れておいて、使うことは勿論だけどお礼に渡そうと思う。
昼食は持ってきているかもしれないけど、二人の分も作って持っていこう。収納バッグに入れておけば時間が経過しないから、温かいまま食べられる。そうだ、果物も持っていこうかな。
うん。ざっくり準備の内容も決まったから大丈夫。
それにしても、何をして精霊さんと遊ぼうかな。
「あ、そうだ。かくれんぼはどうかな」
「かくれんぼ?」
「かくれるやつー?」
「愛し子さまに見つけてもらうの?」
「そうだよ。庭にはいっぱい花があるから、精霊さんが隠れるところはたくさんあるよ」
花の中に隠れる精霊さん……プライスレスな可愛さでは?
精霊さんはほぼみんな同じサイズで、手のひらに乗るくらいの小ささだ。空も飛んでいるから、木の枝や花の影にも余裕で隠れることが出来るだろう。
僕は隠れられるようなところは限られてくるから、鬼になって探す方が適任だと思う。
「するー!」
「あのね、あのね、十人隠れるから」
「めーつぶってー」
「さんじゅうびょう!」
精霊さんはとても乗り気なようだ。
「うん。じゃあ数えるから隠れてね。家の中で数えるから、ラベンダーを飾ってくるね」
僕の両手はすっかりラベンダーを抱きかかえて塞がっている。
精霊さんの元気な返事を聞いてから一旦家に入り、寝室のベッドの側にラベンダーを飾った。勿論、状態保存の魔法をかけておくことも忘れない。出来るだけ長く飾って、眺めたいな。
それが終わってから、庭にいる精霊さんに聞こえるように大きな声で数を数えた。
ちなみに、 精霊さんは隠れるのがとびきり下手だった。
どのくらい下手かというと、最早これは隠れていないのでは?かくれんぼという遊びとはなんぞや?というレベルだ。
そわそわとした様子で僕の方をじっと見つめてくるし、花の影にいても頭が完全に見えている。そもそも目が合っているし。
「見つけた」
と言うと、嬉しそうにきゃあきゃあはしゃいで僕の体のどこかにくっつく。
頭の上に乗ったり、肩の上にいたり、背中に張り付いていたり。
精霊さんは軽いというか、重さを全然感じないから体に乗ってくるのはいいんだけど、後半になるとむしろ見つかりたがって自分から出てくるほどだった。
精霊さんが入れ替わりながら何度かかくれんぼをしたけど、どの回でもそんな感じでかくれんぼにならなかったから、途中から鬼ごっこをすることにした。
これもまた僕が鬼になって、飛び回る精霊さんを捕まえるという至極単純なものだけど、こちらは逆に盛り上がりすぎてノヴァ様のお昼寝を邪魔してしまうことになったのだった。
結果、ノヴァ様献上品のおやつを新鮮な果物を使って精霊さんとわちゃわちゃしながら作ることになって。結局何やかんや忙しく遊んで動いたなあ。
何にせよ、とても充実した時間だったことは確かだ。
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