第32話 やさしさに包まれたなら①
この三日間の成果を話そう。
庭づくりが大変だった。
以上だ。
本当にそれにかかりきりになってしまって、新たなポーション作りも、魔石に魔法云々も、まったくの手付かず。まさか庭づくりだけで丸々三日費やすことになるとは。
庭に関しては、少しずつ開拓出来ればいいかなあと緩く考えていたら、ノヴァ様と精霊さんがとてもノリノリで、そろそろ一旦やめようかとは言い出せなかった。
ある程度魔法を使いながら整えたしみんなも手伝ってくれたから、初心者にしては立派な庭が出来たと思うけど、いかんせん疲れた。
体力の数値上は体力ポーションで回復はする。けど、動き続けて溜まっていく疲労は無理だよ。とても解消出来ないと思う。
栄養ドリンク的なポーションがあれば違うのかな。
いや、というかそもそもスローライフをしたいんだから、こんなに頑張って働かなくても。と、ちょっと思った。
とはいえ、苦労の甲斐あって庭は完成した。
チューリップにナデシコ、スイセン、キキョウなどが咲いている花壇に、ラチカ草などの薬草が植えられた薬草畑。
ちなみにこの季節感がバラバラの花は、どれも見事に咲いている。精霊さんが花を咲かせて、そのままにしているそうだ。
薬草も小さな苗を植えたばかりだったのに、もう収穫の出来る大きさに。精霊さん曰く、枯れたりしないようにしているから好きな時に収穫すればいいらしい。
精霊さんがチートすぎてびっくりだよ。
そんなわけでもう庭は精霊さんの独壇場に。
僕的には完成した庭だったけど、元々広い敷地だったこともあって、足りないのだと言わんばかりに精霊さんは更に庭を整えるつもりのようだ。
どこからか種を持ってきてはせっせと埋めて増やしている。
僕が庭ですることは、最早何もなさそうだ。無事お役御免となった。
と、この三日間のことを考えて現実逃避していたけど、無情にも目的地に着いてしまった。
街の中心部にあるどでかいお屋敷。領主様のご自宅だ。
デデドン!という擬音がとても似合う広大なお屋敷とその敷地に、一体僕の家が何軒入ることか。
普通の格好でいいとは言われたけど、一応ちょっとだけでもちゃんとした方が良いだろうかと不安になり、結局平民にしては立派なのでは?くらいの質感の服を購入して着てきた。
収納バッグもいつも通り、ちゃんと持ってきている。一応何かあってもいいように、ポーションは持ち歩いておきたい。
バッグから先日おじいちゃん騎士さんに貰った書状を取り出して、門番さんのところへ。
ドキドキしながら門の前で待っていると、すぐに確認してくれたらしく、あまり待たずに中へと通された。
外から見ても広かったけど、中に入ってみてもとても広いなあと思う。こんなに広いのにお屋敷の中は綺麗に清掃されている。
それから、メイドさんがいた。
メイドさんはフリフリひらひらの服ではなく、紺色をベースにした落ち着いた色合いの服装をしていた。白い襟やエプロンが清潔感がある。そりゃあフリフリひらひらでは掃除とかしにくいから、そうだよね。
なんともクラシカルな感じで、これはこれで素敵だった。
そして通された客間もとても広く、ソファーはふかふか。メイドさんがいれてくれた紅茶もとても美味しい。
すごいな、領主様のお屋敷。
まったり美味しい紅茶を楽しんでリラックス……とは流石に無理だ。緊張している。
監視はつつがなく終了したとは聞いているけど、僕の立場がどう捉えられているのかもよくわからないし。
異世界人だとばれているのか、それとも隣国からの国外追放者だと思われているのか、どうなのか。
どう思われているにしても不安しかないけど、逆に言えばここさえクリアすれば恐らく僕はこの辺境の街で穏やかに過ごしていける。……はず。
アイネや街の人に聞いた話だと、領主様はとても強いお方らしい。
強い、というのは勿論戦闘面でのことだ。
まだ三十歳だというのに、その若さで辺境の街の領主を任されるだけあって、魔物をばっさばっさ薙ぎ倒していくのだという。前領主様、現領主様のお父さんにあたる人だけど、その人も強かったらしいけど、現領主様は桁違いらしい。
それなのに脳みそまで筋肉、などということはなく、街の人の声もよく聞いてくれるし、書類仕事もしっかりする、カリスマ性も兼ね備えている。
若くして出世する人って、やっぱりすごいんだなあ、という感じだ。
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