第31話 愛し子さんと精霊王様のぶらり辺境街歩き④
無事、ノヴァ様と合流出来た。
ずいぶんたくさん食べてきたようで、ほくほく顔だった。でもお土産は別腹らしいので、追加で購入する運びとなった。
まあお土産はね。精霊さんもいるからね。
ノヴァ様と合流したところで本日のもう一つの目的、お庭を整える為の野菜や花の種や苗を売っているお店に来た。
精霊さんは草木や花が好きらしく、時々花や種を持ってきて僕にくれる。けれど品種もバラバラだし、量もまちまち。それだけで庭を整えるのは難しい。
このお店へ来たのはノヴァ様の一声だけど、庭もそのうち整えたいとは思っていた。
自分で育てた薬草でポーションを作ったり、してみたいよね。
それに花などが好きだろう精霊さんは、綺麗な庭が出来たら喜んでくれると思う。
とはいえ、僕は花には詳しくない、全力で初心者だ。ここは見た目も大事だけど、まずは育てやすい花や薬草がいい。
ノヴァ様の助言を聞きながら、種と苗をいくつか購入した。
あとやることといえば、帰りがてら食材の買い出しをして、それからアイネのいるお店に寄るだけだ。髪飾りとポーションを渡したい。
「そういえば、ノヴァ様は妖精とは関わりはあるんですか?」
アイネとの会話を思い出して、聞いてみる。
僕はあの後も妖精を見たり、感じたりすることはなかったから、どういう姿をしているのかさえも想像がつかないのが現状だ。
「妖精だと?ふん。あいつらは生意気だ!見た目だけは愛らしいがな」
どうやら仲良くはないようだ。けれど、嫌っているわけでもなさそうだな。
ノヴァ様はむちむちのほっぺたを不機嫌そうに膨らませてみせる。なんてあざとい。そして可愛い。
「妖精はどうして人間を攫うんですか?」
「あいつらは綺麗なものが好きなんだ。すぐ自分たちのものにしたがる。カラスと一緒だ」
アイネが言っていた内容と同じ感じだ。精霊から見てもそうなら、妖精という種族の性質がもうそれなのかな。
しかし、カラスか……カラスと妖精か……。ちょっと紐付けが難しいな。
妖精に攫われそうになった幼い頃のアイネも、さぞかし可愛かったことだろう。今もすごい美人さんだし、攫いたくなる気持ちはわからないでもない。
「妖精に攫われるのを防ぐ方法って、やっぱり結界だけなんですか?」
「印を隠す以外ではそうだろうな。あとは妖精と直接交渉するしかないが、あいつらは話を聞かん。まず無理だ」
「そうですか……」
そうなると、今アイネがしている対策が現状の最善策なのだろう。
普段は目の色さえわからないほどの分厚い眼鏡で印を隠して、それを外す時は必ず結界の魔法を使う、という。
やっぱりどうにか、魔石に僕の結界魔法を入れられないか試してみよう。
今日探し回って改めて思ったけど、結界魔法の魔石は貴重だし高価だ。予め注文しておけばこの辺境の街でも買えるものだけど、使い続ければ魔石に入れた魔法は消費されて尽きてしまう。
そうなると、結界魔法を魔石に入れることが出来る人に依頼して補充してもらうか、また新しいものを手に入れなければならなくなる。
そう考えると、近くに結界の魔法を魔石に入れることが出来る人がいればいいんだけど、結界魔法を使える人自体が少数らしいから、簡単に見つからないのは仕方ないことだ。
「ところでイヅルはこれから逢い引きか?」
「逢い引き……いや、うん、まあ行くからそうですけど」
なんだかその言われ方は照れる。
アイネが今日いるかどうかはわからない。いや、いそうな気はするけど。
もしいなくても明日でも明後日でもいいし、作りためたポーションを買い取ってもらいたいという別の目的もある。
アイネがもしいれば、お礼の髪飾りとポーションを渡すつもりだ。
「なら、オレは先に帰っていよう。ゆっくりしてくると良い」
そう言うなり、ノヴァ様はぱっといなくなった。まさに一瞬。何これ、転移かな。
「はあ……」
便利そう。実に規格外な人だなあ。あ、精霊か。しかも王様だ。
本当に、ずいぶん馴染んだものだなあ。
ノヴァ様も今日一日で、とても馴染んでいた。子供の姿をしていることもあって、買い物をしているとお菓子のおまけを貰ったり、やたら頭を撫でられたり。そしてたいへんご満悦なご様子。
こういうおまけがあるから子供の姿をしているわけでは……ないよね。うん。
「こんにちは」
最早慣れ親しんだお店に入る。
「こんにちは、イヅル」
今日もとても可愛らしい声がした。どうやらアイネは店番中のようだ。
この後お礼の品を渡すわけだけど、少々照れくさいのでその辺りは割愛することにする。
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