第30話 愛し子さんと精霊王様のぶらり辺境街歩き③

 ようやく街の中心部まで辿り着く。が、ここからがむしろ本番とも言える。

 何故ならノヴァ様を誘惑するお店が必然的に増えるからだ。

 ちょっとお洒落なパン屋さん、女の子に人気のお菓子屋さん、華やかなカフェ、レトロな隠れ家的喫茶店……などなど、兎にも角にもノヴァ様の興味をそそるものばかり。

「ノヴァ様」

 僕は、すっとお金を取り出す。

「別行動して、一時間後に集合しませんか?これで自由に、好きなものを食べてください」

 子供のお小遣いにしては多い金額をノヴァ様に差し出す。流石に僕はお腹がいっぱいだ。でも恐らくこの中心部においても、ノヴァ様は食に走る。

「こんなに……いいのか!?」

 この子本当に精霊王様なのか、不思議に思う。目をキラキラと輝かせてお金を受け取る姿はもう、うん。威厳とかはまずない。

 とはいえ、中身は立派な大人のはず。別行動を取っても大丈夫だろう。悪意ははじく、とも言っていたしね。

「はい。一時間後に、ここに戻ってきてくださいね」

「わかった!」

 ノヴァ様はたいへんご機嫌に、駆け出していった。


 さて、僕は僕でお礼の品を探しに行かなくては。

 使い勝手の良い、有用性のあるものがいいだろうか。結界の魔法が入った魔石があれば、まず間違いない。とはいえ、そう簡単に見つかるようなものでもない。

 魔石を売っているお店を何店舗か巡ってみたけれど、結界の魔石はなかった。

 というか、おまじない程度の魔石はそんなに高価ではないけど、役に立つものと考えるとびっくりなお値段のものばかり。その上、中々ピンとくるものは見つからない。

 生活雑貨とか……でも掃除グッズとかキッチングッズとか、好みがあるだろうし難しい。何を持っているかもわからないし。

 お菓子、ってまた食べ物にいってる。ポーションがそもそも食べ物のようなものだから、被るしなあ。

 心の中でうんうん唸りながら歩いて探すけど、めぼしいものがない。

 どうしたものかな。


 ふと、紫色が目に留まった。

「キキョウ……」

 足を止めて見てみると、それは本物の花ではなく髪飾りのようだった。

 キキョウだけではなく、桜やバラ、ひまわりなど、本物そっくりの花が置いてある。どれもとても繊細に作られている。

「髪飾りか……」

 アイネはいつも、二つに分けた三つ編みだ。緩く三つ編みにした髪を束ねているのは、シンプルで飾り気のない髪ゴムだったはず。

 キキョウの髪飾りを手に取って見てみると、かなり細部まで作り込まれているようで、まじまじと見ても綺麗だった。何でどうやって作っているんだろう?いや、でも僕には作るのは無理だなあ。そもそもそこまで花に詳しくないし、手先が器用なわけでもないし。

 アイネの白金の髪に、キキョウの凛とした紫色は合うだろうか。……似合うな。想像しただけでもとても可愛い。

 けれど色違いで、白の中に紫色が混じった、変わった色のキキョウのものもある。こちらも似合いそうだ。

「…………」

 両方買えばいいのでは?

 うん、それがいい。名案じゃないか。気に入ってもらえたら、アイネのその日の気分で使い分けてもらったらいいんじゃないかな。

 というわけで、キキョウの花を模した髪ゴムの、紫色、白と紫色を二個ずつ買って包んでもらった。


 結構悩み歩いて購入したけど、ノヴァ様との約束の一時間にはまだ余裕だった。

 ついでにお菓子とかも買って帰ろうかと思って、近くのお店をぶらぶらと見て回る。

「イヅルさんですかな?」

「はい?」

 声を掛けられて振り向くと、おじいちゃん騎士さんがいた。

 この辺境の街に来てから度々、僕の監視をしていた人だ。今日も仕事中のようで、騎士服をきっちり着ている。

 相変わらず人の良い笑顔を浮かべている。白髪や白い髭に年齢を感じさせるのに、しゃんと背筋は伸びていて、穏やかながらしっかり騎士という役割をまだまだ現役でやっているのだなあと思わされる。実際、何歳なのかは聞いたことはないけれど。

「いや、良かった。ちょうどイヅルさんのお宅へ行くところだったんですよ」

「そうなんですか?何かありましたか?」

「領主様が王都からお戻りになりましてな。以前お話しした通り、一度お会いになってほしいんですよ。三日後はお時間取れますかな?」

 ああ、前に話していた、一度は領主様と面会してもらうとか言っていたあれか。

 気が重いけど、いいえと言うわけにはいかないやつだよね。

「はい、大丈夫です。ただ、あの、服装とかは……」

「そのままで結構ですよ」

 そのまま、ということは普通の平民の着ている服でいいのか。本当に大丈夫かな。不安しかない。

「三日後なら、何時でも構わないとのことです。領主様のお屋敷はわかりますね?そこの門番に、この書状を渡してください」

「わかりました」

 おじいちゃん騎士さんに、書状を渡される。

 くるくると丸められた紙が、やたら立派な紐で留められている。これなんだっけ、組み紐って言うんだっけ。綺麗な形をしている。

 三日後についに領主様と面会か……。

 穏やかに何とかなってくれればいいなあ。

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