第21話 精霊の愛し子①
現在家にある薬草とにらめっこをする。
購入したものは最良のものでも品質B。精霊さんに貰ったものは最良のもので品質Aまである。
コストパフォーマンスを考えると、出来れば品質B以下の薬草で美味しいポーションを作りたいところだ。
精霊さんから貰った薬草は言ってしまえば原価はほぼゼロだけど、品質Aのポーションを安売りするわけにはいかないし。
「うん。でも無理だ。アイネの料理は品質Bの薬草では無理だ」
前回の実験で、この直感に関してはおおよそ間違いがないことはわかっている。
試しにやってみてもいいけど、味のないポーションばかりが出来ても困る。前回作ったものもまだ売り切っていないのに。それに、薬草にだって限りはある。やめておこう。
それにしても、どうして出来ないんだろう。やっぱり再現しようとしている味が料理スキルSのものだからかな。
日本で食べてきた料理については、そもそもスキルという明確なものがあそこにはなかったから、品質Dの薬草でも作れたんじゃないかと思う。
そうでなければ、あの美味しいパンケーキやこだわりのラーメンがさくさく完成するわけがない。
とりあえず、出来そうなものから作ろう。というか、確実に出来るだろうというものが一つある。
リクマ草の、品質Aだ。これが手元にある。
正直どのくらいレアものなのかは考えたくない。
リクマ草の品質Bでは、以前いちごのショートケーキ味を作っている。甘めの味がする薬草だから、これはまず間違いなく、パンケーキのベリーソース味はいける。
魔力回復ポーションによく使われる薬草だけど、お菓子だし、体力回復ポーションにこだわらなくてもいいだろう。
というわけで、いつもの流れだ。
リクマ草をよく洗い、乾燥させ、アイネが作ってくれたパンケーキのベリーソースがけを細部まで思い浮かべながら魔力を注いで煮詰めて、こす。最早慣れたものだ。
こしたばかりでまだ熱々のポーションを精霊さんが待ちきれずに冷ましているのも、もう見慣れた光景である。
そして試飲の前にはまず鑑定だ。
魔力回復ポーション
品質 A
とても魔力が回復するポーション
パンケーキのベリーソースがけ味
「うん、出来てる!」
香りもばっちり。味もばっちり。極上の美味しさだ。
そしていつもの流れで精霊さんのぶんも取り分ける。
「こ、これは!」
「なん……だと……」
試飲していた精霊さんが、かつてない反応を見せる。
あ、そういえば精霊さんはアイネの手料理を食べていないからこれがはじめてなのか。
なんといっても料理スキルSの代物だし、そりゃあ只事じゃないよね。
「こんなにおいしいものが……」
「あっていいのか……」
「お花畑がみえる」
「もはやわけがわからない」
「たべたりないのである」
「おかわりください」
「うん。美味しいよね。これ、アイネっていう女の子が作ってくれたパンケーキの味なんだよ」
精霊さんにおかわりを渡しながら、嬉しくなってそう伝える。
僕ではこの味は作れないし、想像もうまく出来なかったから、このポーションはアイネのおかげで出来上がった逸品だ。
「これは……」
「うん」
「あれですね」
「おうとも」
「いかねばですね」
なんだか精霊さんがざわざわしている。
これまでは散り散りになって各々ポーションを楽しんでいたのに、急にひとかたまりになってこそこそと密談をしている。
どうしたのかな、珍しい。
「愛し子さま!」
しばらくあと、代表らしき精霊さんがかたまりの中から一人出てきた。どうやらまとまったらしい。
「なにかな」
何を相談していたのかは謎だけど、まとまったのなら何よりだ。
「ちょっと、いってきます!」
「いってきま〜」
「いってくるのー」
「まっててね!」
「え?うん、いってらっしゃい」
なんというか、とりあえずどこかへ出掛けるらしい。
挨拶をするとみんな一斉に飛び立っていく。いつもなら出来上がったポーションをいっぱい持って帰るのに、手ぶらだ。
ポーションが口に合わなかった、というわけではないだろう。むしろ普段より飲むペースも早かったし、お花畑が見えるくらい美味しかったらしいし。
謎だ。
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