第8話 相性や雰囲気は大切④
試飲した分も含めて、持ってきた体力ポーション十本すべてを買い取ってくれた。良い薬草も手に入ったし、万々歳だ。
パパさんは見た目どおり、ママさんは見掛けによらず、二人とも結構強いらしい。あのお店に置いている薬草でこの辺りで採取出来るものは、二人で取りに行っているそうだ。と、薬草の鮮度を褒めたら教えてもらえた。
気候的に育たないものは他から買い取っているけど、それも信頼出来るお店にお願いしているのだろう。
帰る頃にはアイネさんは「また来てね」とひらひらと手を振ってくれた。
来た時と変わらないぼさぼさ三つ編みと瓶底眼鏡だけど、口元はにっこりと、親しさを滲ませるように弧を描いていた。
うん、やっぱり流石運∞。
良いお店、良い人たちと知り合うことが出来た。
他人と関わるのは色々と面倒で、目立たないように、あまり話さないように静かに生きてきたけど、この異世界の人たちはほとんどみんな穏やかで優しい。
もちろん、運がとてつもなく良くなっているから知り合わないだけで、良くない人たちだっているだろうけど。
平和で何よりだ。
あちらの世界の両親と弟は、元気でいるだろうか。
クラスメイト全員召喚されたことが、あちらでどういう風になっているかはわからない。
死んだことになっているのか、神隠しのようになっているのか、はたまた時間は止まっていて、あちらに帰る時に訪れた時とまったく同じ時間になっているのか。
なんにせよ、悪いことになっている予感はあまりない。
うちの両親はぽやぽやしているから、「なあに、今異世界にいるの?ちゃんとご飯食べるのよ〜」くらいの軽い感じで終わりそうだ。
少し生活に余裕が出来たら、その辺りも探ってみようかな。うーん、でも、まずはポーションの味変とか色々試したいし。
あんまり焦っても良いことはないし、どうしようもないこともあるしね。
まあとりあえずこのことは後でのんびり考えるとして、今後のことだ。
ほくほくになったお財布を持って買いたかった色んな食材を入手したり、必要な買い物を済ませる。
そのうち弓のスキルを活かして、自分で薬草採取とかにも出掛けみたいけど、やっぱりまずはポーション作りかな。
「ただいま」
おっと、家に帰ってきて何となくそう言ってしまったけど一人暮らしだった。
「おかえりー」
「おかえりなさーい!」
「愛し子さま!」
「おかえりになられた」
「おかえりなさいー」
精霊さんが、いっぱいいた。
なんだか嬉しい。
「ねえ、精霊さんたちはポーション以外のお菓子も食べれる?」
「たべれるー!」
「なんでもござれ」
「愛し子さまの作ったものなら」
「たべれるよー」
「そっか、それなら良かった。体力ポーション、無事に買い取ってもらえたから、砂糖とか買ってきたんだ。ポーションじゃないお菓子を作ろうと思って」
精霊さんがいつの間にか授けてくれていた加護。そのお礼には全然足りないかもしれないけど、少しでもありがとうという気持ちは伝えたかった。
純粋に向けてくれる好意はとても嬉しいし、心強い。大好きと言ってくれるのも嬉しい。
僕は料理はそんなに頻繁にする方ではなかったけど、簡単なものや難しくないお菓子なら作れる。
「量もいっぱい出来るし、クッキーを作ろうと思うんだ。良かったら、食べてくれたら嬉しいな」
「愛し子さま……」
「しゅき……」
「クッキー!!!!」
「さくさくのやつですか?さくさくのやつですね?」
「待ちきれない」
「たのしみです」
「ありがとう、愛し子さま!」
「うん。頑張って作るね」
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて飛び回る精霊さんに、自然と頰も緩む。本当に可愛いなあ。
この日はいっぱいクッキーを作って、精霊さんとのんびり過ごした。
うんうん、スローライフ感がある。
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