第7話 相性や雰囲気は大切③

 とりあえず、スキルの錬金術はAにしておけば間違いないかな。どう考えても∞のままではやばそうだし。Aにしていれば、多少変なものを作ったとしても、言い訳出来るだろう。

 魔力が少なすぎても怪しまれるかもしれないし、それはアイネさんより少し多いくらいにしたらいいかな。

 他のスキルもランクを下げて見せておけば、いざそれを使っていても不自然にはならないよね。

 ただ、全魔法だけはなんとなくそのスキル自体がレアそうな気がするから、そうだな……水と風はあると便利そうだし、その二つを使えるようにしておこうかな。

 こんなものだろうか。

 出来上がった隠蔽状態のステータスは、こういう仕上がりになった。




月立 壱弦  ツキタチ イヅル

十七歳 男

体力 95/108

魔力 500/500

スキル (隠蔽状態)

    鑑定B

    水魔法D

    風魔法C

    錬金術A

    弓C

    運B




 ちなみに、本来のステータスはこうなっている。




月立 壱弦  ツキタチ イヅル

十七歳 男

体力 95/108

魔力 11520/11520

スキル 隠蔽∞

    鑑定∞

    全魔法∞

    無詠唱∞

    錬金術∞

    弓A

    運∞

固有スキル

    精霊の愛し子

    異世界人(全言語自動翻訳)

    精霊の加護(みんなイヅルが大好きだよ!)




 体力の少なさが悲しい。なんならアイネさんよりも余裕で低い数値だし、伸びしろも良くない。

 家の外の掃除や中を作ったり掃除するのにばんばん魔法を使ったからか、魔力の伸びは著しい。体力は最初に比べて8しか増えていないのに、魔力は1520も増えてるって本気でびっくりだ。

 それから、固有スキルが一つ増えている。

 精霊の加護。

 最早説明文はまったく説明にはなっていないけど、とりあえず精霊さんたちは可愛いので嬉しい。

 でもこの固有スキルもまず間違いなく他人に見せたらやばそうなやつなので、隠蔽しておいた。

 うん、こんなものだろう。そろそろポーションの鑑定と試飲も終わったかな。


「パンケーキ……ふかふか……」

 ぼそぼそとそう呟くアイネさんと、一瓶まるまる空になった体力ポーション。

 いつの間にか試飲どころの量じゃないほど飲んでるし、なんだかカルチャーショックを受けたようなご様子。やっぱり、パンケーキなポーションって相当変なんだろうな。

「あのー……アイネさん?どうかな、その体力ポーション」

 一応聞いてみる。変わり種すぎて売れなかったら、少し困るし。

「どうもこうもないわ!」

 あっ、やっぱり駄目か。

「ベリーソース味はないの!?」

「あっそっちかあ」

「チョコレートソースとバナナ味と、メイプル掛け味もなんなら欲しいわ!」

 アイネさん、めっちゃグイグイくる。既に椅子からは立ち上がり、テーブルからも身を乗り出して、興奮した様子で迫ってくる。

 僕の顔のすぐ目の前に、アイネさんの顔がある。鼻先が触れそうなくらいに距離が近い。

 分厚い眼鏡で相変わらず目は全然見えないけど、近付くときめ細かい白磁の肌とか、ほんのり桜色の唇とか、あとなんかすごく良い匂いがする。

 か、可愛い……!


 次の瞬間、ゴッツンというすごい音がした。同時に、アイネさんの声にならない悲鳴も。

「……ッ!!い、……いたい……」

「アイネちゃん?お客様になんてことしてるのかしら」

 アイネさんは両手で頭を押さえてぷるぷると震えている。本当に痛いときは声が出ないものだよね。わかる。

 ゴッツン、という音は、親指を中に入れた状態での本気ゲンコツだったので、恐らくものすごく痛いのだろう。

 ゲンコツをしたのは、金髪ロングヘアのものすごい美人のお姉さんだった。

「お、お母さん……」

「えっ!?若すぎません!?」

 どう見てもお姉さんとしか思えないほどの若さと美貌だった。

 アイネさんが十六歳だから、単純計算でも三十歳は既に越えているわけで……。

「まあまあ、可愛いお客様ね。うちの娘がごめんなさいね。少し出掛けている間、店番をお願いしていたの」

 にっこりと微笑みを向けられる。すごいなあ、この人に会う為だけにこのお店に通っている人とかいそうだ。

「はじめまして、イヅルといいます。今日は買い物と、体力回復ポーションの買い取りのお願いに来ました」

「あら、丁寧にありがとう。私はアイネの母のアメリア・クライドよ。気軽にママって呼んでね」

 どういうことだろう。

「で、こっちは私の愛しの旦那様」

「アイネの父のジーク・クライドだ。気軽にパパと呼んでくれ」

 こっちもか。異世界の人ってみんなフレンドリーなんだろうか。

 というか、パパさんいたの?全然気配がなかったよね。紹介された時も突然ママさんの後ろからぬっと出てきた感覚だ。

 パパさんは筋肉隆々のだいぶ強面で、一度こうして認識してしまうとものすごい存在感だ。ママさんと並ぶと、まさに美女と野獣。

 あと、アイネさんの髪色はパパさん似なんだね。ママさんは金髪碧眼で、パパさんが白金の髪に目は薄紫色、だろうか。本当、色んな色の人がいるなあと思う。


 そしてアイネさんはというと、興奮した様子でご両親にポーションのことを身振り手振り交えながら伝えている。ゲンコツの痛みは消えたらしい。

「ふふふ、アイネちゃんのテンションがあんなに高いの、久しぶりに見るわ〜」

「おお、本当にパンケーキの味だな。どうなってんだ、このポーション。まあでも体力の回復量は普通のポーションと変わらねえな」

 ママさんはひたすらアイネさんの頭を撫でていて、パパさんはポーションを試飲して解析している。

「こいつをお前が作ったんだな?」

「はい」

「おし。なら体力ポーションの一般取引価格の、二割増しでどうだ?味は珍しいが、回復量は普通だからな」

「二割も増してもらえるんですか?」

「おうよ。ちなみにコレ、他の味もあるか?」

「はい、一応。まだ色々、試作しようとしている最中ですけど」

 いちごのショートケーキ味は精霊さんにすべてあげたけど、あれが作れるということは他の味も出来るだろうと思う。要検証だけど。

「じゃあ今度、作ったら持ってこいよ。オレはしょうゆラーメン味がいい」

「まあ、それなら私はアップルパイがいいわ」

「私はパンケーキの他の味と、シフォンケーキとチーズケーキとフレンチトーストとシュガーラスクとフォンダンショコラと……」

 すごい、アイネさんのリクエストが止まらない。

「ええっと、出来るかはわかりませんが……頑張ります」

 なんというか、仲の良い家族だなあ。

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