第6話 相性や雰囲気は大切②
「こんにちは、待っていてくれてありがとう。……はじめましての方?」
本に栞を挟み、こちらを見た彼女の第一声がそれだった。
こちらをしっかりと向いてくれても、分厚い眼鏡のせいで目が合っているのはどうかはよくわからない。そもそも僕の方からは彼女の瞳が何色なのかさえ見えないくらいの分厚さだ。彼女からはちゃんと見えているんだろうけど。
「こんにちは。はじめまして、イヅルと言います」
「イヅル」
「うん」
ナチュラルに呼び捨てだった。距離感がよくわからない。声音は淡々としている。
「私はアイネ。よろしく」
「よろしくお願いします」
でも別に無愛想だとか冷たい印象は不思議となかった。それよりも、素直な子なんだなとか、偽りがないから楽だなとか、そう感じる。
ポーションを作ってもしここで買い取って販売してもらえることになれば、長いお付き合いになるかもしれない。それがなくても、このお店の薬草は買いに来るだろうし。印象が良いことは、良いことだ。よしよし。
「今日はこの薬草が欲しいのと、良ければポーションを買い取ってもらえたらと思って」
「なるほど。それなら、鑑定しても良い?あと、ポーションを見せてもらっても」
「もちろん」
僕はショルダーバッグに手を入れて、収納魔法でしまっておいた中からとりあえず一本、体力回復ポーションを取り出してテーブルの上に置いた。
残り九本もテーブルに乗りそうだし、出していいかな。何本買い取って欲しいのかわかった方がいいよね。というわけで、残りも出して置いておく。
……なんだかすごく視線を感じる。と思ったら、アイネさんがすごく僕を見ている……気がする。目は合わないけど、なんだか圧が。
「ツキタチイヅル……ねえ、隠蔽してる?ステータス」
「えっ」
「スキルが何も書いてないから」
あっ、アイネさんが鑑定していいかって言ったの、ポーションだけじゃなくて僕自身もだったのか。
「どうして隠蔽してるって思ったの?」
最初に僕を鑑定した人は何にも気付かず無能と判断したけど、どうやらアイネさんは違うらしい。今後も誰かに鑑定される可能性がある以上、知っておけたら助かるので聞いてみる。
「なんとなく。直感。ポーション普通に作れるなら、鑑定のスキルは持ってる?私のステータスも鑑定していいよ」
「いいの?」
「見られて困るものはないから」
「それなら、ありがたく」
正直、現地人の同じ年頃の子のステータスがどのくらいなのか、ものすごく気になってはいた。
クラスメイトは異世界人扱いだから、恐らくほとんどが異常な数値だろう。あまり参考にならない。
けれど他人のステータスを勝手に盗み見るのは明らかにマナー違反だろうと思ったから、アイネさんの提案はまさに渡りに船。ありがたく確認させてもらう。
アイネ クライド
十六歳 女
体力 215/256
魔力 40/420
スキル 鑑定A
水魔法C
風魔法D
直感B
料理S
「え、S?」
見間違い、ではない。何回見ても料理がSだ。Sってあるんだ……。それに鑑定もA。
隠蔽は見破ったわけじゃなくて、直感Bのスキルが何かしらの違和を伝えたということだろう。
しかしこれ、クラスメイトよりすごい。
「これで、おあいこ」
ふん、と満足げにアイネさんは息を吐いた。
いや、ほとんど事後報告めいた感じだったけどね。まあいいけど。悪い子じゃなさそうだし。
「ポーションを作れるなら、錬金術か調合か、そっち系のスキルは持ってるのよね?もしSとかAとかランクが高すぎて隠したいなら、そのあたりも隠蔽のスキルでどこまで見せるかも調節出来るはずよ。スキルがなくてもポーションは作れるけど、売値が変わってくるから」
「そうなんだ。ありがとう、教えてくれて」
「どういたしまして。それじゃあ、私はポーションの鑑定をするね」
「お願いします。あ、良かったら試飲もどうぞ」
よし、じゃあ鑑定してもらっている間に、ステータスの隠蔽をいじろう。
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