第19話 フェンリルの長
悪い力では無く、安心したのと、おじい様に背中をポンポンしてもらったのと、おばあ様の大丈夫だと言われた事により、涙は落ち着いてきた。
「エイミー、本当ごめんなさい……。不安にさせるつもりは無かったのよ……」
「エイミー、ごめんな……」
「お母様、お父様も、もう大丈夫です! いきなり泣いてごめんなさい……」
「いや! エイミーは悪くないよ」
「じゃあこれでおあいこだな!」
「はい!」
いや~いっぱい泣いちゃった。ちょっと恥ずかしいな……。そんな事を思っているとおばあ様が考えた顔になった。
「お母様どうしたのです?」
「いや、誰か来るな……」
「本当だな……。 うん? フェンリルか?」
「ま、まさか!」
そう言った途端に『ドン!』と大きな音をし、びっくりした。
「今の音は?」
「はぁ、あやつ……」
「フェンリルの長が来た」
「フェンリルさん!」
「エイミーは嬉しそうね♪ でも、面倒くさいわね……」
えっ?なんかノア兄以外面倒くさそうな顔をしている……。なんで??
すると、何かドドドドっと走ってくる音が聞こえて『アリア様ー! コースマス様ー! エマリーバ様ー! オーディン様ー!』って聴こえてくる。その声はどんどん大きくなっていく……。
「うるさいな……」
おじい様が顔をしかめて嫌そうな顔をします。迫力満点のお顔です。
「もう白虎の子の事を聞いたのか?」
「さすがに早いな……」
「どこから聞いてくるんだ?」
「分からないわ~」
そんな話をしてると、扉がバタンっと大きな音を上げながら開いた。そして、ひときわ大きな声でおばあ様達の名前を呼ぶ声も聞こえた。
「アリア様! コースマス様! エマリーバ様! オーディン様! あんまりじゃないですか!?」
「ええい! うるさいわ!」
そう大声を出して入って来たのはすごく、すごーく、大きい狼さん。話からするとフェンリルの長なんだよね……?
大きな狼さんは黒い毛並みに綺麗なブルーの瞳だ。ただ、大き過ぎて近くに来られると首が痛い。
「しかし、なんで、なんで……、我一族より先に白虎の子が新しい姫君に使えているのですか!? 我一族は、一族は!」
「だから! うるさいわ!」
2回もおばあ様に怒られるフェンリル……。フェンリルの巨体がしょんぼりする。
見た目、黒狼でカッコいいのに……、うん、残念だ。
しかも迫力だけは満点だからルアルが怖がっておじい様とソファーの間に入って隠れている。
「ルアル、大丈夫?」
(あるじさま、こわいよ……)
これは当分怯えるな……。もうちょっとおじい様に隠しててもらおう。
(おじい様、おじい様)
(なんだ? エイミー)
(ルアルがすごく怖がっているから隠しててあげてね?)
(っ! ああ、ちゃんと隠しておくよ)
私とおじい様はフェンリルに聞こえない様に小声で話した。しかし、フェンリルは耳が良くコソコソ話も聞こえてしまう。それで、おじい様がエイミーが小声で呼びかけた瞬間に実は結界を張った事などエイミーには知るよしもなかった。
コースマスの方はエイミーにコソコソ話しかけられたのが嬉しくて、お願いされた事も嬉しすぎて頬が緩むのを防ぐ事に必死だった。
「お前が何に嘆いている事は分かっておる!」
「アスワド、まずは落ち着いてね?」
「本当だよ、子供達が驚いているだろう」
うん、本当驚いたよ。ノア兄も驚いてお父様の服を掴んでいるしね。
フェンリルはハッとした様にこっちを見た。なんかびっくりしている?
「も、もしかして、コースマス様が抱っこしている子が新しい姫君ですか……?」
「そうよ、エイミーって言うの」
「なんと愛らしい!!」
「そんな事は当たり前の事だ」
フェンリルさん褒めてくれてありがとう。そしておじい様、当たり前とは??
「エイミー様。私はフェンリル族の長、アスワドと申します。以後お見知り置きを……」
「よろしくです! アスワドさん」
「さんは要りません。 アスワドと呼び捨てで構いません。エイミー様」
「分かった、アスワド」
「ああ! なんて幸せなのでしょう!」
うわぁー大袈裟だ……。お母様達が面倒くさいと言っていたのがちょっとだけ分かる気がする……。
でも、触ってみたいな~。大っきいモフモフ……。あと、背中に乗ってみたい!
エイミーがアスワドを見て目がキラキラし始めるとアスワドはちょっと反応に困った。
「あ、あの、エイミー様、何故そんな目で見てくるのですか?」
「あの、アスワドを困らせるなんてさすがだな、エイミー」
おばあ様なんか褒めているところズレていますが……。
「エイミーは狼が好きらしいのよ」
「昨日も目をキラキラさせてたな」
「なんと! それは嬉しいですな~」
アスワドは嬉しさが爆発する様に尻尾をブンブン振る。大きいから風圧が凄い。
「わぁっ! 風が!」
「アスワド! 落ち着け!」
「おっと失礼しました」
おばあ様がまた注意すると風は治った。
「アスワド! あの、触ってもいいですか?」
「おお! いいですぞ!」
そう言うとアスワドはずいっと顔を寄せてくれた。目の前に大きな狼の顔いっぱいになる。普通だったら怖いけど、おじい様に抱っこされてるし何より話せるから怖くないよね!
さて、アスワドがいいと言ったので触ってみる。ルアルとは違いしっかりとした毛質だ。でもこれはこれで病みつきになる手触りだ。
そして、アスワドはエイミーに触られている間大人しくしていてくれた。ゆっくりと尻尾は振っていたが……。すると、隠れていたルアルが出てきた。
「ニー!」(あるじさまーぼくも、なでてー!)
「ルアル」
ルアルがお願いしてきたので撫でようとしたところ、唸り声が聞こえて来た。
「グルルルゥ、そいつがエイミー様に1番に使えたやつか?」
あっ……!これ、やばいやつ?
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