第20話 勘違いでした

 アスワドがルアルを見てグルルルゥと歯を剥き出しにして威嚇している。


 これは、やばい……。しかもめっちゃ怖っ!!迫力あり過ぎ!


 怖くておじい様にしがみつく。ルアルもおじい様にピッタリくっつき、耳をペタンと下げ、尻尾は股の間に引っ込んでいる。しかも凄い震えてる。


「おい、私の威圧で何も喋れないのか? 小僧よ……、なんとか言ったらどうだ? グルルルゥ!」


「……!」


 ルアルはそう言われて、またビクッとなった。しかもアスワドの大きな顔が私の目の前にもあるから私にも威嚇されているみたいですごく怖いです……。


 でも、ルアルはもっと怖いよね……。よし!


 エイミーは気合を入れて、一瞬でルアルを引き寄せ、自分とおじい様の間にルアルを入れた。ルアルを抱きしめておじい様に引っ付いた。


「アスワド、怖い……」


「……!」


 私の言葉にアスワドは驚いた。そしておじい様はルアルを抱っこしている私をぎゅっと抱きしめてくれた。


「おい、アスワド。お前、エイミーを怖がらせたな?」


「え、エイミー様、も、申し訳ありません!」


 アスワドはエイミーを怖がらせたという事に気づき、謝った。しかし、エイミーもルアルもおじい様に引っ付き離れないし、顔も隠している。


「アスワド、さっきから妾は落ち着けと言っておるだろう? 自業自得だな」


「本当だ。 エイミーを怖がらせるなんてどうしてくれようか……?」


 おばあ様とおじい様がアスワドに怒っている。ちらっと見ると、あんなに歯をむき出しにして威嚇していたアスワドは今度はルアルみたいに耳と尻尾を下げている。


「申し訳ございません……」


「アスワド、お前とりあえずデカイわ。人化しろ」


「……畏まりました」


 アスワドはしゅんっとしながらも人化した。


 わぁお、人化も出来るんだ~。


 エイミーは顔を隠すのも忘れ、アスワドの人化するところを見ていた。


 大きな狼の身体が光に包まれると、その光はどんどん小さくなり、人の形になった。人の身体に耳とふさふさの尻尾が生えた感じだ。獣人みたいな感じ。人の見た目はおじい様と同じ位の身長で、髪は黒髪のロング、瞳は綺麗なブルー。狼の時と同じだ。それにしても見た目はイケオジだ……。


「やっと話せるわ~」


「暴走が止まらないからね~」


「はい、僕もびっくりしました……」


「……皆様、申し訳ございません」


 すっかりアスワドは大人しくなった。それでもルアルは怯えたままだが。


「それじゃあ、話すわね。アスワド、エイミーがルアルと出会ったのはセレネに引っ付いて来たから。偶然ね。そこで私はエイミーの遊び相手として友達としてどうかと思ったのよ」


「だけど、お前達フェンリル族の事も忘れてないぞ? 昨日はルアルだけだったがフェンリル族の同じ位の子ともエイミーを会わせるつもりだったんだ」


「エイミーはその子に会えるのを楽しみにしてたわ~。それにルチアーノがその子とその親に伝えて連れて来るって言ってたわよ?」


「そうだったのですか……。私はてっきり我々を忘れて白虎族の子だけを側に置くのかと勘違いを……」


 お母様とお父様の話をやっと聞いたアスワドは更にしゅんっとした。


「お前は誰に聞いたのだ?」


「白虎の長トニトルスでございます……」


「「「「……」」」」


 白虎の長トニトルスと聞いて、おばあ様、おじい様、お母様、お父様がなんとも言えない様な顔になる。


「はぁ……、これは遊ばれたな」


「それしか考えられないですね」


「面倒な事をしてくれたわ」


「恐らく、悪戯と自慢が入っておるのだろう」


「大方、昨日セレネがルアルの親に言いに言ったのでしょう。そして、ルアルの両親が長に話したと」


「そして今日、この騒動って訳だ」



 大人達は納得した様な感じだ。ノアとエイミーだけは、いまいち理解出来ていない……。


「アスワド、勘違いならルアルに謝りなさい。いい大人が赤ん坊に近い子に威嚇するなんて……」


「うぅ。ルアルという白虎の幼な子よ、威嚇して申し訳なかった……。すまない、許しておくれ……」


 アスワドはできるだけ優しく、ルアルに謝った。すると、エイミーに抱っこされていたルアルは恐る恐る顔だけ出した。


「ニー……」(もう、いかくしない?)


「ルアルがもう、威嚇しない?って聞いてます」


 私はアスワドにルアルの言葉を通訳します。


「ああ、もうしない」


「ニーニー」(じゃあ、まだちょっとおじさんのことこわいけど、ゆるしてあげるよ)


「ルアルが許すって!」


「ありがとう」


 なんか、ルアルがちょっと余計な事を言ってたがそれはあえて通訳しない。丸く収まりそうだもんね。


「これでもう大丈夫ね!」


「はい! お母様、フェンリルの子とはいつ会えるのですか?」


 なんか、アスワドを見ていたら早く会ってみたくなった。ルアルと仲良く出来る子だといいな~。


「うーん、ルチアーノ次第ね。ルチアーノが早く伝えて連れて来てくれれば早く会えるわ」


「そうですか……」


 ルチアお姉様次第か……。


「エイミー、これはお父様の予想だけどね。ルチアーノは多分もう来ると思うよ?」


「えっ!? なんで?」


「エマもノアも昨日帰る時の事を憶えているだろう?」


「憶えています!」


「ああ、そうね! あの様子からしてすぐに会いに来るわね!」


「そういう事だよ!」


 どういう事ですか!?お父様!!と心の中で叫ぶ。


「エイミー、昨日エイミーが寝てからみんなエイミーの側にいたいって言って騒いでね、エマに怒られたんだよ。また、明日会いに来なさいって言われてたし、ルチアーノはエイミーとちょっとだけしか居れなかったからね。何がなんでも今日、会いに来ると思うんだ」


 そうだ!ノア兄も言ってた。昨日の事。それじゃあルチアお姉様にも会えるし、フェンリルの子とも会えるのかな?


 お父様の言う通りになったらいいなとワクワクしながらエイミーは思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る