───運命。バレンタインデー…


 2月14日、世の男子たちには分かるだろう。自分自身の価値を確かめる運命の日───その名もバレンタインデー!

 布石は打った、あとは待つのみだ。


「…で?私に何を求めてるの?」

「この曇りなき目を見てくれよ。俺に渡すものあるんじゃないか?」

「なにもないわよ。ばか言ってないで席に戻れば?」

 毎年、風花からは貰えていたから安心しきっていたがこれは不覚。

0組には絶対にならないと思っていたからこそこればかりは痛手すぎる!

「ほ…本当にない?俺、不安になってきたんだけど…」

「しつこいと嫌われるわよ?」

「悪い。じゃあ…」

 どうなっている!?今朝はミオからも貰えないだけで心が折れかかっていると言うのに!?

そうだ…きっと今日はバレンタインじゃないんだな。俺のドジめ…あははっ…はぁ…

 最後の希望を持ちスマホの電源を付けるとハッキリと2月14日の日付が映し出されていた。さようなら、一生来ない俺のモテ期。


**


「お兄ちゃーん!ご飯食べま…しょう…ってどうしたんですか!?」

「ルカ…俺もうダメかもしれない…」

「えぇ!?理由は分からないですけどとりあえずお弁当召し上がれ!」

「いつもの場所でな」

 2人はいつもの空き教室に移動すると暖房を付けて温い空間で弁当を広げる。


「聞いてくれよ!俺、朝からチョコが一個も貰えないんだよ!」

「ミオも風花も酷くないか!?」

「お兄ちゃんは貰えなくていいんです!」

「ルカまで…辛辣すぎないか!?いつから俺の人生はハードモードに切り替わったんだよ!」

「違いますよ!今日は紛れもないバレンタインです」

「お兄ちゃんがチョコを貰えないのは当たり前じゃないですか!」

「お兄ちゃんが貰えたら笑っちゃいますよ?」


「え…ちょっ…ルカ?」

「諦めて一生独身でいてください!」

 おかしいぞ、いつものルカなら「私があげるので手を出してください!」とか言うはずなのに……。

「それか…私のペットになりましょうね?」

 ルカがにこりと笑うと俺の腹部に激痛が走る。内臓を深くまでえぐる痛み、滴り落ちる大量の血。分からない…俺が一体なにをしたんだ……薄れていく意識の中うっとりと笑うルカの姿だけが目に映っていた。




**


「…ぃ…ん!」

「お兄ちゃん!起きてくださいよ!」

「落ち着けぇ!ナイフを置くんだ!話し合えばわかる…って夢か…」

「もう放課後ですよー、お兄ちゃんケッキングにでもなったのですか?」

「寝起きの心にギガインパクト!?良かった、いつものルカだ」

「一体どんな夢見てたんですか?私の胸で泣きますか!」

「あぁ…実はな────」

 俺は夢で見た光景をルカに話す。思い出すだけでも恐ろしくなるし血の気が引いていく。

あり得ないと分かっているから余計に恐怖が駆られるのだ。


「お兄ちゃん、現実ですよ?」

「は…?ルカ、待ってくれよ」

 嘘だろ…正夢とでも言うのか!?予知夢にしても何がきっかけなんだよ。

「グサー!!」

「なんちゃってです!ビックリしましたか?」

「バレンタインにトラウマ植え付けられるなんて初めてだぞ…泣きたい」

「ごめんなさい!やりすぎましたって、お兄ちゃん涙流れてますよ!?」

 ルカは慌てた素振りで俺の顔を覗き込む。我ながら情けなすぎる…サイヤ人なら超サイヤ人に覚醒できないで死ぬレベル。

フリーザ様怖すぎて部下になるわ、理想の上司だしね!


 ルカは何かを閃いたように俺に近づいてくる。椅子に座る俺を抱きしめ始め…抱きしめはじめ!?

「大丈夫ですか?調子に乗りすぎました…ごめんなさい…」

「大丈夫だから!誰かに見られたら勘違いされるって!」

 首元から凄く甘い匂いがする。息を吸い込むたびに心臓の音が加速していくのがわかる、まるで燃料を入れられた蒸気機関車だ。

 小さな手は俺の背中に添えられ、耳元で懺悔の言葉が囁かれる。


「お兄ちゃん、大丈夫ですか?」

「もう大丈夫だ。帰るか!」

「あっ…!待ってください!」

「これ、受け取ってくれませんか!」

 ルカは鞄から綺麗に包装されたモノを俺の前に差し出す。

「今日ってバレンタインですよね…私の頑張って作りました!」

「いいのか?俺がもらっても」

「お兄ちゃんのために作りました!ルカちゃんの愛情と血と汗と涙がたっぷり入った渾身の出来栄えです!」

「最後の三つは怖いから入れないでくれよ!」

「ありがとな!受け取らせてもらうよ」


「ちなみにぃ〜本命ですよ?」

 ルカは人差し指を口の近くへ持っていき前かがみのポーズで言う。

 ずっと誤魔化しながらルカの気持ちに見てみぬふりをしてきた──風花の後押し、俺の気持ち…


「俺も同じ気持ちだ」

「ふぇっ!?お兄ちゃん…今のって…」

「どうだろうな?ほら、早く帰ろうぜ」

「ルカ、顔真っ赤だけど熱でもあるんじゃないか?」

「うるさいです!ばーか!ばーか!お兄ちゃんのばーか!」

「なっ…!?ばかって言った方がばかだろ!」

「うるさいです!不意打ちなんて卑怯ですよ!本気にしちゃいますから!」


「ははっ…本気になって欲しくていったんだからな?」

「もう!今日のお兄ちゃんは主人公みたいで変です!」

 さっきから心臓がバクバクして耳がうるさいよ…お兄ちゃんの馬鹿!

私の気持ち本当に伝わったのかな?


「いつまでも自分の気持ちに見て見ぬふりしてるわけには行かないからな」

「お兄ちゃん、私の好きは結婚したい好きですから!」

「だから…その…!私とっ…!」

「待ってくれ!それ以上先は待ってくれないか?」

「俺に言わせてくれ。ワガママを言っていいならもう少し待っていてくれないか?」


「雰囲気が台無しですよ!お兄ちゃん、信じてますからね!」

「わ…悪い。ギャルゲーはやってるつもりなんだけどな」

「私より先にラブプラスで彼女作ってたんですか!?」

「シミュレーションだって!2と3の区別くらいつくから変なこと言わないで!?」

「少しだけ妬いちゃいます!焼き芋できるくらいに!」

「火傷じゃ済まないんだが!?」


「お兄ちゃん!私待ってますからね?」

「闇落ちしないでくれよ?」

「今度からお兄ちゃんが起きなかったら耳元でグサって言いますから!」

「ブラックすぎるぞ!?絶対やめろ!」


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