───新年。それぞれの決意…


 外は早いもので白一色に染まっていた。1月1日──元旦もとい新年の始まりである。

毎年、新年の朝日を見ようと思ったりもするが眠気が勝ってしまう謎の現象。

眠くなると思考が低下して──初夢見れれば良くね?とか考えてしまうダメ天使。


「お兄ちゃんあけおめー」

「新年一発目にミオの声が聞けてお兄ちゃん幸せ!あけおめ」

「新年からキツイこと言わないでよ」

「そして新年から両親の姿がないんだが?」

「富士山から日の出見るとかで昨日からいないじゃん」

 あれぇ…そうだったっけ。鵜崎家の長男なにも知らされてないんだけど?

夫婦仲が良いのは俺としても嬉しいんだが、もう少し俺にも構ってほしいわ。


「ストイックだなーウチの親は。ミオは行かなくていいのか?」

「お兄ちゃん、初詣の約束忘れたの?」

「も…もちろん覚えてるさ!ミオとの約束を忘れるなんてあるわけないだろ」

「ふーん。なら良いけどね」

 新年から嘘を重ねていく男。お父様、お母様、俺は新年一発目から汚れてしまいました。


「豪華なおせち料理とかは無いけど、ミオの作ったお雑煮ならあるよ?」

「食べたい!」

「いいよ。お餅は何個がいい?」

「2つで頼めるか?」

「分かったよ、少し待っててね」


 ミオはこたつからのそのそと出ると鍋に火を点火させ、餅を焼き始める。

ミオと結婚したらこんな風景が見れるのかっと幸せに思う反面、果たして俺はミオの彼氏を許せるのだろうか──と、複雑な心境になっている。

「はい、どーぞ」

「ありがとな!」

 まず一口目に汁を口につける。しっかりと出汁が効いていて鼻腔の奥まで響く匂いだ。

餅に手をつける前に一緒に入っていた大根やかまぼこなどを一つずつ味わう。

どの具材もしっかりと味が染みていて噛むと中から汁が溢れてくる。

 メインの餅は形が崩れることなく、きな粉やぜんざいとはまた違う味が楽しめて俺は凄く好きだ。

「うん、美味い!」

「良かった。ミオも食べようかな」

「食べてないのか?」

「昨日は下準備してて、朝はお兄ちゃんと食べたかったから」

「お兄ちゃん、新年初泣きいいですか?」

「朝からしんどいよ…」



「ふぅ…お腹いっぱいだね」

「そうだなー、初詣っていつ頃行くんだ?」

「一応1時に神社集合になってるよ」

「よし!振り袖着るか!」

「恥ずかしいからいいって」

「でも神様に願掛けするなら気合は入ってたほうがいいんじゃないか?」

 否、嘘である。ただ俺がミオの振袖が見たいだけの言い訳だ。

受験生という立場を逆手に取った高等技術、俺でなきゃ見逃しちゃうね!

「たしかに…そうかな?」

「絶対そうだって!」

「じゃあ着ようかな?」

「待ってろ!今とってくるから」

「兄バカなんだから、もう」



**



 俺とミオは15分ほど早く集合場所に着く。家族連れからカップルなど老若男女で溢れかえっている。

境内は小さな出店も出ていて祭りのような盛り上がりだ。

「初詣なだけあって人が多いな」

「良い匂いもするね」


「お兄ちゃーん!!」

 遠くからルカの様な声が聞こえてくる。気のせいだろ。これだけ広いんだからお兄ちゃんなんて声聞こえてくるのも珍しいことじゃないよな。

 昔夏祭りでナンパされたと思って振り向いたら俺と一緒に行った友達がされてただけで空気になったのは良い思い出───汚い花火にならないかな。

「スルーしないでください!私です!ルカです!」

「幻影か?まるで別人の様に見えるんだが」

「待たせたわね、ルカの着付けに手間取っちゃって」

「い、いや…大丈夫だ。俺たちも今さっき来た」

「気まずそうな顔しないでよ。冬馬が気にしてたら接しづらいじゃない」

「わ…悪い!とりあえずあけおめ」

「んっ、あけましておめでとう」

「ちょっとお兄ちゃん!私の振り袖はどうですか!」

「馬子にも衣装とはよく出来た言葉だな」

「あまりの可愛さに悩殺しちゃいましたか?まぁ?私は美少女なので!」

「自分で言うな!たしかに可愛いと思うぞ」

「よく言えました!実は私も可愛いと思ってまして…」


「ルカって基本スッピンだから少し化粧しただけでこの変わりようよ?流石私の妹ね!」

「あ!ミオちゃんも振り袖なんですね!可愛くてお持ち帰りしたいです!」

「ありがとう、ルカちゃんも凄く可愛いよ」

「ミオを持ち帰るだと?絶対に許さんぞ!今ならもれなく俺も付いてくるからな!」

「わお!欲張りハッピーセットです!ひとつくださいな!」

「毎日朝チュンしてあげますからね!」

「俺の体力を底なしだと思ってない?罪悪感で雀の鳴き声が悪魔の笑い声にしか聞こえないんだが?」

 もっと恐ろしいのが数ヶ月後にお腹をさすりながら「できちゃった♡」とか言われるのものならヤンデレルート不可避。


「ほらイチャついてないで早く行くわよ?」

「だ、断じて違う!」

「お兄ちゃん!早く行きましょう!」

「お…おい!腕を引っ張るな!」

 冬馬はルカに腕を引かれながら参拝客の列に並ぶ。

「ほんと、お似合いよね。あの二人…」

「二人でお兄ちゃんの事こき使おうね」

「ふふ、そうね。ミオちゃん!私たちも行きましょ」


「うぅ…神様もこんなに参拝されたらご利益あげるの面倒くさいなりそうです」

「縁起でも無いこと言うな!おみくじで大吉引けなかったらルカのせいな?」

「酷いです!そんなお兄ちゃんにはお願い教えてあげません!」

「知ってるか?お願いって言わない方が叶うんだぞ?」

「そうなんですか!?初耳です!」

「ルカって毎年念仏みたいにお願いを唱えてたからね。正直言って怖かったわよ」

「たしかに、お年玉全額賽銭箱に入れてそうだなー」

「あの時は止めるのが大変だったわ…」

「本当にあったのかよ!?」 

「私たちの番ですよ!」

「行くか」

「そうね」

 四人はそれぞれの想いと願いを乗せて二礼二拍手をする。

小刻みの良い音色を響かせながら5円玉が賽銭箱に転がり、ガラガラと鈴の音が響き渡る。


「そろそろいいかしら?」

「私おみくじ引きたいです!」

「ミオも引きたいなー」

「俺たちも買うか?」

「そうね、新年の運試しといきましょ!」

『せーの!』

「お!やった大吉だ!」

「ミオも」

「私もよ」

「ルカはどうだったんだ?」

「なんで私だけ中吉なんですかぁ!」

「神様を罵倒したからだな!」

「そんなぁぁ!」


「見終わったなら樹に結ぶぞ?開運するかもしれないからな!」

「私!一番高いところがいいです!」

「無茶言うな!俺が届くところな?」

「ミオも高いところがいいな。上に人がいるのは気に食わないもん」

「理由が腹黒すぎる…」

「風花は?」

「私はもう結んだわよ。早く行ってきて」

 賑やかにおみくじを結ぶ三人を風花は遠目から眺める。

こんな日々がずっと続けばいいのにね。


「もっと上がいいです!」

「ミオはルカちゃんより高くしてね」

「俺の身長が足りないから!二人とも高くしてやるから!」

「あ!あの木でもいいですよ!」

 ルカが指を刺す先には大きく聳え立つ御神木が鎮座していた。

我、神社の王ぞ?とでも言いたげな風貌だな。

「絶対に断る!」



「ありがとね。お兄ちゃん」

「お安い御用──とは言えないが妹のためだからな!」

「受験、がんばれよ!」

「うん。絶対に首席合格してみせるね」

「ルカ先輩、ふふ…いい響きです!」

「ルカちゃんはルカちゃんだよ?」

「私の夢が崩れました!先輩呼びされるの夢だったのに!」

「新年から騒がしいわね……神様も休まらないわよ」

「そうだな。三人とも改めて──」


『あけましておめでとう!』

 先に言われた…

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