───告白。幼馴染の恋心…
俺たち二年生は冬休みに二日間模試を受けるために登校しなくてはならない日がある。
一日目が終了した日の放課後、俺は風花に呼び止められていた。
「私、冬馬のことが好きよ」
放課後の教室で俺は風花にそう告げられた。風花の気持ちに全く気づいていなかったと言うと嘘になる。
都合の良いように解釈をして、俺は最悪の人間だ。
「風花…俺はっ…!」
「私、冬馬を困らせたかっただけなの。返事はそのうちでいいわよ」
風花は俺の喉から出かかっていた言葉を遮るようにして言葉を被せてくる。
「困らせたかった」これは嘘をついていた俺に対する嫌がらせなのか…もしくは何かの比喩なのか。
「突然言っちゃってごめんね。冬馬の心に入り込むにはこうするしかなかったの…だって私はルカには勝てないから」
「ルカと風花は違うだろ。それぞれの良さがあるんだから比べる必要なんてないよ」
「冬馬?あまり優しい言葉はかけない方がいいわよ」
言葉一つ一つに別の意味を含むような言い方をする。
風花はハッキリとモノを言うタイプだから尚更気にかかってしまう。
「返事を出してくれるなら…一つだけお願いしたいの。私とルカを姉妹じゃなくて一人の女の子として考えて欲しいわ」
「あぁ…分かった」
「じゃあね、また明日」
**
「お兄ちゃんどうしたの?ご飯…美味しくなかった?」
「ちゃんと美味いんだが…」
「悩み事?ミオで良ければ話して欲しいな」
遅かれ早かれ知る事実だ。ミオに相談しておくのが吉だろうな。
「実は────」
「そっか。大変な挟み撃ちだね」
「参考までにミオの考えも聞きたいんだが…大丈夫か?」
「正直ミオには分からないよ。風花ちゃんもルカちゃんもミオは二人とも好きだもん」
「もちろん、幼馴染としてね」
「アドバイスなんて出来ないけど、自分の気持ちに素直になるのが一番なんじゃないかな?」
「俺の気持ち……か…」
風花はダメな俺を昔から後押ししてくれる力強い存在だった。
そんな風花に俺は憧れと同時に惹かれていったんだよな。わざとらしく好きな人を聞いてみたり、浅はかな知識を活用して遊びに誘ってみたりもしたけど全部見通されてたんだったっけな。
ルカを意識するようになったのも風花のおかげだし…俺は風花無しじゃここまで来れなかったのが事実。
でも、今のこの状況で風花からの好意に気付くのが正直言って怖かったんだ。
どちらかを選べばどちらかが傷つくのはわかっているし今までの関係じゃいられなくなるのは明確だ。
風花が知りたいのは今の俺の気持ちだろう…同情の感情で動いたモノなら恨まれるだろう。俺は…俺たちは前に進まなければならない。
**
「待たせたか?」
「大丈夫よ。その顔は答えが出たって感じかしら?」
「そんな感じだ」
「冬馬の事だからもっと遅いと思ってたわ」
「昨日一日中考えてたぞ。おかげさまで全然寝てない」
「悩んでくれただけでも嬉しいわよ。答え、教えてもらってもいい?」
「ちょ…ちょっと待ってくれ」
冬馬は胸に手を当ててゆっくりと息を吸い込む。何度も繰り返して身体の中に新しい空気を取り込み、落ち着かせる。
「風花…ごめん。風花とは付き合えない」
「そう…残念だわ。でも、それでいいのよ」
「ごめんね、私のわがままに付き合ってもらって」
「どうしてこのタイミングだったんだ?」
「あなたの気持ちを知りたかったのよ」
「結果的に私は振られちゃったけど…今、冬馬の心に残ってるのは?」
「……ルカ」
「ちゃんと分かってるじゃない。それが冬馬の気持ちよ」
「それだけ分かれば充分よ。ルカの事よろしくね」
「待ってくれ!もし…俺が風花を選んでいたらどうなってたんだ…」
「その時はありがたく付き合ってたわ。お姉ちゃんの勝ちってことよ」
「もしもルカを泣かせたりしたら……許さないんだからね」
「ルカには私から必ず言うわ。抜け駆けした悪いお姉ちゃんだもの」
「バイバイ」
風花は冬馬に手を振って教室を出る。階段を降りて生徒玄関を出ると肌を刺すような寒さが襲ってきた。
「はぁ……冬馬のバカ…」
張り詰めていた糸が切れたように私の眼からは涙が溢れ出す。
手が震えて目頭が熱くなってくる感覚…今にも声をあげて泣きたいわ。
もしもルカにバレてたらあの子は手を引いてたでしょうね。
全く…姉妹そろって同じ人を好きになるなんて…皮肉なものね。
頬に沿って流れる涙の後に風が当たり、弱った心に追い討ちをかける。
「ルカ…頑張るのよ」
**
その日の夜、冬馬は食事をしながらミオに報告をする。
「俺、風花を振ったよ」
「そっか」
「なにも…言わないのか?」
「お兄ちゃんが決めた事でしょ?自信持たないと風花ちゃんが報われないよ」
「それに、ミオもまだお兄ちゃんから返事してもらってないけどなー」
「小さい頃お兄ちゃんと結婚するって言ったのに10年間返事待ってるんだよ?」
「じ…冗談だよな?」
「教えないよーだ!」
「お…おい!」
少しずつ、少しずつだけど俺たちは確実に前に進み始めた。
風花からの告白を断った時、俺の中で一つの決心ができた。
それは─────
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