───内緒。私の恋心…


 花崎の一件から二ヶ月。外はすっかりと寒くなり枯葉がカラカラと音を立てて地面を這う。


「おはようございます!お兄ちゃん!」

「ルカは元気だな。俺は寒くて動きたくない。アストロン」

「残念です、今日はお兄ちゃんの好きなものを作ってきたんですが」

「よし!学校へ行くか!早くしないと置いてくぞ!」

「復活早いですよ!待ってください!」

「ったく…あのバカップルは何してるんだか」

「寝坊すると良いこと無いわね」


「ルカ最近学校はどうだ?」

「お父さんみたいな質問ですね!みんな仲良くしてますよ」

「小学校の学級目標か!ルカが楽しいならそれで良いけど」

「最近少しずつですが花崎さんが喋りかけてくれるようになりました!」

「良かったじゃんか!もしかしたら友達っぽいムーブかましてるだけかもよ?」

「そんな…!私遊ばれてたのですか!?」

「冗談だ、冗談!」

「ところでお兄ちゃん!」

「何でしょう姫さま」

「余はミオちゃんに会ってなくて寂しいのじゃ!」

「その心は?」

「お兄ちゃんの家に突撃しても良いですか?」

「いいと思うぞ。ミオも会いたいだろうしな」

「やった!お兄ちゃん大好きです!」

「やめろ!恥ずかしいからやめろ!」

「まだまだ初々しいですねー、可愛いです!」

「風花にも声掛けといてくれるか?集まるなら四人の方が楽しいだろ」

「確かに!お姉ちゃんに聞いてみます!」

 ミオも受験勉強で最近話す機会が減ってきたからな。

これを機にお兄ちゃんと話すようになってくれると寿命が10年延びるに決まってる!



**


「この寒さの中外仕事ってあの担任いつか呪ってやる!」

「文句言わないで手を動かしなさい。私だって嫌よ」

 冬馬と風花は文句を言いながら体育倉庫の整頓をしている。

たまたま通りかかった担任に見つかり押し切られる形で今に至る。

扉を閉めていても隙間風が入り込む辺り、建物に年季が入っているのが伺える。


「このボロ小屋いつか閉じ込められるやつが出てくるぞ」

「不吉なこと言わないでよ!早く教室の暖かい空気にあたりたいわ」

「どう考えても二人でやる量じゃ無いだろ!俺手伝ってくれるやつ探しに行ってくる!」

「そのままサボったら許さないわよ?」

「わ…分かってるから!」


「あれ?」

「どうしたの?早く行きなさいよ」

「風花さん開かないです」

「嘘でしょ!?本当に開かないじゃない…」

「鈍い音からして原因はサビだな。一級フラグ建築士のスキル発動しちゃった」

「鍵は空いてるから助けが来るのを待つしか無いな」

「この寒さに耐え続けるなんて地獄よ!?」

「そうだスマホ!スマホで連絡取れれば…」

「無理よ!今は体育の授業中!」

「少なくとも一時間はこのままか……」

「体力が削られない様にしないと、俺たちがもたないな」

「今は耐えましょうか」


「一時間経ってるけど連絡来ないわよ!?どうなってるの!」

「知らないよ!」

「もう…こんな事なら上着着てくるんだった」

「ほら。これ使えよ」

「でも…そしたら冬馬が」

「俺は大丈夫だから。風花が使ってくれ」

「ありがとう…」

 そのままズルズルと時間は経過し、エッチな展開はおろか二人は寒さに耐えるしか無かったのだ。

鉄筋作りの倉庫は鉄に寒さが染み渡り、触ると体感温度一桁は有にあっただろう。


「冬馬、一つ気になることがあるんだけどいい?」

「この状況だし話題ないより良いな。何でも聞いてくれ!」

「どうして私を好きになったの?」

「おぉ……過去掘り直球ストレート」

「どうしてって言われてもな…気がついたら目で追ってたし頭から離れなかった」

「そういうものなのね」

「風花だって龍崎と付き合ってた時はどうだったんだよ…」

「今になると不思議よね。好きだったのかどうかも分からないわ。でも周りが見えなくなっていたのは認めるわ」

「複雑なんだな」

「私、冬馬の事振ったじゃない?どうだったの?」

「幼馴染じゃなきゃライン越えも良いところだぞ…ったく」

「死ぬほど辛かったし、明日からどんな顔して会えば良いか分からなかった」

「でもそのおかげでルカと登校できたでしょ?」

「幼馴染の妹だったルカの認識が変わり始めた日でもあるな」

「家に帰ってきてもお兄ちゃんお兄ちゃんって毎日凄いんだから」

「その光景が目に浮かぶ…やっぱ家でもテンション高いんだな」

 ルカの話を聞くのは好きだし楽しい。

けど同時に最近は胸がチクチクするようになってきた。

原因は分かっている、口に出したら止まらなくなるから絶対に出さないようにしなきゃ。


「風花に好きな人っていないのか?」

「口説いてるの?ルカがいるのにやめた方がいいわよ」

「違うわ!色々感謝してるから手伝えるなら手伝いたいと思ってな」

「好きな人ね…いるわよ」

「風花に害がある男なら俺が許さん!どんな奴なんだ?」

「よく寝てるし、お調子者だし、シスコンだし。でも…優しいわ。手の届く位置にいるのに…今はもう無理なの」

「最初の三つだけ聞くと変な奴としか思えないな」

「諦める必要は無いと思うぜ?可能性があるならアタックすれば良いだろ」

「私ね、一度その人の事を手放しちゃったのよ」

「そんな私に好きになる資格なんて無いわ」

「好きに資格はいらないだろ。要は気持ちだ。風花の気持ちは絶対届くと思うよ」

「冬馬のくせに良いこと言うじゃない…バカ」

「今俺、褒められたの?貶されたの?」

「どっちもよ!」


「水瀬!鵜崎!いるか?」

「先生来たみたいだな」

「今開けてやるから扉から離れてろ!」

 先生三人がかりで強引に扉を開けると俺たちは外に出る事ができた。

「風花、さっき言ってた好きなやつって誰なんだ?」

「内緒よ、バーカ!」

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