───試練。弁当審査会…


「…って事があったんだよ」

「なるほど…ミオちゃんから私への挑戦状って事ですね!」

「ではお兄ちゃんどうぞ!」

 俺の目の前にはミオからの弁当とルカからの弁当の2つが並べられている。

もちろん両方食べるつもりだが……俺は胃袋の大きさには自信がない。

「い…いただきます!」

「今日は炒飯か!具沢山で俺好みだな」

「お兄ちゃんのことは手にとる様に分かりますからね!ルカちゃんに死角無しです!」

「ぐうの音もでないからひと言言っておく…ぐぅ」

「完全勝利です!ぷよぷよなら全消し10連鎖ですよ!」

「甘いな!俺は積みゲーなら負ける気はないぜ!」

 シェゾ君……お前が欲しいなんて大胆なこと言っちゃってさ。

あの見た目と声は世の男子を虜にしたに決まってるだろ!俺もその1人だからよくわかるぞ。

ちなみに今は断固としてアルル派だ!あの見た目で僕っ娘ってたまらないよな?

サタ×アル派とはきのこたけのこ戦争レベルで決着つかないと思う。


「ふっふっふ…私のシグくんに勝てますかね?」

「ルカなんてすけとうだらで倒してやるよ!」

「良いでしょう!お兄ちゃんが負けたら語尾にファンキーウェーブって付けてください!」

「長いわ!せめてクマとかにしない?」

「嫌です!すけとうだらです!」

「すけとうだらに恨みでもあるのかよ!確かに負けると心にくるけど!」

「昔お姉ちゃんのすけとうだらに24連敗しました!」

「ルカ落ち込むことはないぞ!あれは異次元の生き物だ。指ひとつひとつが別の意思で動いている」

「おっぱいも大きくてゲームも強い…勝てる所が見当たらないです!お兄ちゃん泣きそうなのでよしよししてください!」

「恥ずかしいから却下だ!」

「なら肌寒くなってきたのでお兄ちゃんの生肌で温めてください!」

「嫌じゃないけど色々と不味いだろ!ほらホッカイロあげるから」

 ルカはホッカイロを頬に当てて表情を緩ませる。

可愛い…全身にホッカイロ貼り付けて怒られたい!


「えへへ…ポカポカです!」

「寒いなら明日から別の所で食べるか?無理して風邪引くのも嫌だしな」

「それなら!4階の空き教室とかどうですか!」

「ルカの教室とかじゃダメか?」

「…却下です!お兄ちゃんと2人きりがいいです!間違いが起こってもいいように!」

「だ…断じてならん!風花にミンチにされた後出荷されるわ!」

「そしたら私が買って復元してあげますよ!」

「発言がサイコパスだぞ!?犯罪係数は高いだろうけどまだ死にたくない!」

「死ぬならお嫁さんと手繋ぎながら自然死したい」

「では私とどうですか?」

「命は大事にしろ!俺は後にも先にも悲しい思いをするから死んで欲しくないんだ」

「お兄ちゃん……カッコいいです!私を抱いて下さい!」

「ふふ…皆まで言うなよ。死ぬ覚悟はできてないので却下!」

「相変わらずガードが硬いですね……私ってそんなに魅力ないですか?」

「そんなことは絶対にない!逆だ!魅力があるから自分を大事にして欲しいんだ!」


 お兄ちゃんありがとうございます!

本当は私下ネタなんて顔から火が出るほど恥ずかしいんですからね?

Hだって付き合って1年経ってからのクリスマスがいいです…ロマンチックに捧げたいです!

お兄ちゃんじゃないなら私は一生しなくて構いません!

「お兄ちゃんって私の事好きですか?」

「豪速球の質問だな……デッドボールだぞ」

「好きかどうかって聞かれたら…好きに決まってるだろ」

「それは妹としてですか?」

「答えはノーだ。ほらチャイムが鳴るから教室に戻るぞ!」

 冬馬はルカに背を向けて早足に屋上を後にする。

顔が熱くなり肌寒いはずだった外の風が心地よく感じるほどだった。

「あ…待ってくださいよ!あなた!」

「誰があなただ!」


 ニヤニヤが止まりません…お兄ちゃんにやっと意識してもらえたんですね!

頑張ってきた甲斐がありました。でもここからです!

お兄ちゃん!覚悟していてくださいね!


**


「それで…?お兄ちゃんこれは何かな?」

「感想文でございます…」

「小学生でもこんな事は書かないよ」

 バンッと机の上に広げられた感想文シートにはひと言だけ書かれていた。


『両方美味いじゃダメですか』


「話を聞いてくれ!俺だって必死に考えたんだ!」

「本気にならないでよ。こういう時は嘘でもルカちゃんって書くのが正解だよ」

「お嫁さんのお弁当が世界で一番だからね」

「嫁じゃないし…付き合ってすらないし!」

「率直にミオの作ったお弁当の感想が聞きたいなー」

「相変わらずすごく美味かった。ミオの旦那になれる人は幸せだな!」

「バカ…そういう事を軽く言うんだもん…」

「何か言ったか?」

「難聴系に進化したお兄ちゃんってラノベ書こうかなって思っただけだよ!」

「難聴系は良くないよな!絶対あいつら聞こえてるから」

 ミオは俺に近づくと腹にポスッと拳を埋めてくる。


「俺気に触ること言っちゃった…?」

「無自覚はタチが悪いよお兄ちゃん?」

「以後気をつけます?」


**


「聞いてお姉ちゃん!私今日お兄ちゃんに意識してもらえたんだ!」

「そ…そう。良かったじゃない」

 風花の胸の内にチクリと小さな痛みが走る。

「私がんばるから!お姉ちゃんも応援しててね!」

「私が応援しなくてもルカなら大丈夫よ。頑張ってね」

「私がんばる!!」

 ルカがどんどん前に進んでいく。

それに比べて私は足踏みしてるだけでちっとも前に進めない。

このままじゃダメだって痛いほど分かってるのに……ルカに幸せになってもらいたいのに。

心のどこがで私が結ばれる事を期待している欲望の塊がある。


「私…お姉ちゃん失格かも」

 虚しい呟きが星に吸い込まれるように空へと消えていく。

当たり前に側にいた。これからも冬馬は私の隣にいるってどこかで信じ込んでいた。

 告白された時。今になって冷静になれば、オッケーを出していれば…どんな現在を送っていたのかな。

未来が見えていたなら…ルカの気持ちを知らなかったら…私があいつと幼馴染じゃなかったら…グルグルと良くないことばかりが連鎖していく。


「私…どうしたらいいんだろ」



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