───休日。兄妹たちの日常…


 時計は13時を回り風花はようやく布団から身を出す。

ボサボサの髪をくしで整え、顔を洗ってリビングで何気なくテレビを見つめる。


「お姉ちゃんおはよ!相変わらずよく寝るね」

「休みの日くらいゆっくりしたいのよ」

「私とラジオ体操でもしない?朝からバッチリ目が覚めるよ!」

「嫌よ。疲れるだけだもん」

 朝から体操すると胸焼けして気持ち悪くなっちゃうし。

ルカの元気を朝から目の当たりにしたら太陽に浴びるより効果ありそうだけどね。


「暇なら少し話さない?お母さん達は出かけたんでしょ」

「お姉ちゃんからのお見合い!是非お願いします!」

「それは…ちょっと違うわね…」

「ルカは冬馬のどこが好きなの?」

「ストレートだね…150は超えてるよ?」

「お兄ちゃんは私の王子様なんだー!それに一緒にいると心がキュンってするの」

「恥ずかしい台詞をポンポンとよく言えるわね」

「冬馬にもし彼女できたらどうするの?あいつ流されやすいわよ?」

「諦めないよ……告白してダメでも次があるもん。お兄ちゃんにやめろって言われたらやめるけどね」

「それに、お姉ちゃんをずっと好きだったんだからお兄ちゃん一途だし振り向かせたら勝ちだよ!」


 諦めない…か──ルカは昔から強い子よね。

自分がどんなに無理な状況でも我慢強く耐えて耐えて……。それに比べて私はダメね、ルカの強さを一つ貰いたいくらいよ。

「ルカは強いわね。良い子よ」

「お姉ちゃんが撫でてくれたー!えへへ…嬉しいな」

「はい、おしまいよ」

「えぇ!もっとしてよー!足りないよ!」

「たまにするから良いのよ。今度は膝枕してあげるから頑張りなさいね」

「イェス!シスター!」

「あのね…ルカ?」

「もしよ…?ルカは私と好きな人が一緒だったらどうする?」

「私はねー、お姉ちゃんが大好きだからね…お姉ちゃんに譲っちゃうと思う」

「そんな事しなくていいのよ。ルカには正々堂々好きでいてほしいもの」

「私なんかに遠慮しないでね」

「お姉ちゃん……私絶対お兄ちゃんを振り向かせて見せるから!」

「あなたならできるわよ。冬馬に振られたら言いなさい?絶対に許さないから!」

 これでいいのよ……私は一度あいつを振ってる身だもの。

冬馬の目にも私はもう映ってないはず……私にはどの結末が正解か分からないけれど。

正解を選んで良いのなら、ルカを幸せにする選択を選ぶと思う。


**


「ミオー俺のケーキ知らないか?昨日帰りに買ってきたんだけど」

「きっとミオのお腹の中だよ。甘いクリームが美味しかった」

「ミオさん!?あれ1時間並んで買ったんだけど?」

「お兄ちゃんごめんね……受験勉強してたら糖分が欲しくなっちゃって…ダメな妹だよね…ごめんね」

「ミオ実はあれお前のために買ってきたんだ!1時間なんて容易いもんだ!」

「お兄ちゃん好き」

「3年は寿命が伸びた…ミオにケーキ食べさせまくってずっとお兄ちゃん好きって言ってほしい」

「太るからいやだよ…」

「勝手に食べたのはミオが悪いし、今度お菓子作ってあげるね」

「お兄ちゃんに産まれてよかった…母上、父上俺は今…幸せです!」

「うぇぇ…お兄ちゃんってシスコンだよね。いつも思ってたけど」

「何を言う!妹を甘やかしたいのはお兄ちゃんのサガだろう!」

「じゃあミオのためにゼクシィ買ってきて」

「彼氏か!?彼氏ができたのか!?お兄ちゃんそんな台詞聞きたくなかったわ!」

「違うよ…今月号は気になる事があって」

「彼氏は?彼氏はいないよね?」

「受験生だよ?そんなの作ってる暇ない」

「あんな蠅みたいにたかってくる奴らと付き合うならお兄ちゃんと結婚した方がマシ」

 あれ…目が熱くなるな。俺今、ミオに告白されたよね!

役所までは徒歩30分…行けるぞ!!

「ミオは中学生だから婚姻届出したらお母さん達に言いつけるから」

「全てお見通しってわけか……さすが俺の妹略してさすいも!」

「お兄ちゃんの事最近見直してたけど気持ち悪いよねやっぱり…」

 ミオからの気持ち悪い宣言…すなわちこれは破滅を意味するだろう。

闇に光が効く様に、炎に水が効く様に、そんなレベルで辛辣だった。


「お兄ちゃんってルカちゃんにお弁当作ってもらってるよね?」

「正直めちゃくちゃ美味いぞ!昼間からあれが食えるなんて行かない理由がないだろ」

「ふーん…じゃあミオがお弁当作るって言ってもいらないか」

 え……ミオの弁当だと!?

受験だからと思って頼まずに細々と購買生活を続けていたが…ここにきて神イベント到来か!

たった今ミオのSSRを手に入れました。育成を即座に始めようと思います!

「ま…待て!待ってくれ!食べたい」

「ルカちゃんのがあるでしょ…!」

「ミオの弁当も食いたい!お願いします!」

「じゃあこれ書いて」

「感想文…?」

「どっちが美味しかったか詳しく書いてきてね?ミオ…楽しみにしてるから」

 俺に向けられた不敵な笑みに背筋がゾクリする。

2人の料理の腕はよく知っている。片方を選べば片方を傷つけることになる。俺は一体どうすれば良いんだ…神様どうか…どうか…声じゃなくて助けてください!


「お…俺二階に行って寝てるから!」

「うん…おやすみ」


 俺のスマホの検索履歴が過去最大に血迷っていたのは言うまでもないだろう。


・妹 幼馴染 弁当の感想文


ちなみにヒットは何一つとしてしなかった。

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