───思考。恋の天秤…


 両家合同の旅行が終わって1ヶ月近くが経とうとしていた。

俺たち学生は日常へと戻り今日も今日とて学校に通っているのだった。


「起きてくださいお兄ちゃん!お弁当食べにいきましょう!」

「教室まで入ってくるな…付き合ってると思われるだろ!」

「ウェルカムカモンです!みなさん私はお兄ちゃんと付き合ってます!」

「やめろ!お兄ちゃん呼びで彼女ヅラは色々と誤解を招くだろ!」

「以後お見知り置きを!」

「もう殻に篭りたいわ……俺のこと今日からゼニガメって呼んで」

「ミシシッピアカミミガメですね!」

「違う!ゼニガメはクサガメだ!あの小さな身体が進化したら砲台がつくんだぞ!」

「ではお兄ちゃんに質問です!最初に選んだパートナーはなんですか?」


「…ヒトカゲです」

 過去に戻れるならゼニガメを押させたい。ヒトカゲの名前をインフェルノにしたかったのに文字制限でインフェルになったのは良い思い出。


**



「どうぞ!今日の愛妻弁当です!」

「愛妻は違うとしても心がこもってるのは良く分かるぞ」

「いつもありがとな!」

「き…急にお礼を言われるとムズムズしちゃいますね!えへへ…」

「これってガパオライスってやつか!?」

「大正解です!今日のルカちゃんは頑張っちゃいましたよー!」

「何時に起きて作ったんだ?」

「5時起きです!因みにラジオ体操していたので目はパッチリです!」

「実は隠し味があるんですが分かりますか?」

「ヒントはお兄ちゃんの大好きなものです!」

 俺の好きなもの……さっきの話の流れ的にまさかな…?


「かめ吉ぃぃぃぃ!!お前かめ吉なのか!?」

「お兄ちゃん!?私はスッポンなんて捌けませんから!」

「良かった…かめ吉お前の事は俺が守るぜ」

「正解は私の愛です!」

「絶対分からないだろ!確かにミオもやる気のある時とない時じゃ同じものでも味が違うけど!」

「そういうことです!女の子はお砂糖と蜂蜜と不思議なスパイスでできていますから!」

「その理屈でいくと俺は塩と働き蜂とそこら辺の砂利で出来ていることになるな!」

「頼りないです!もっとアルレボ担いできてください!」

「俺に古龍倒せってか!?百歩譲ってアマツさんにしてくれない?」

「許しませーん!!」


「姫さま?ちょっと要求が高すぎませんかね?」

「黒曜石は砕けない精神です!」

「やめろぉぉ!トラウマが…トラウマがぁ!」

 ジョジョブラキ、てめぇだけはダメだ…許さない。

鬼人薬飲んでも50分かけて倒せなかった雑魚ハンターおる?

すいません…俺です。

「私は倒したので私の勝ちです!何で負けたか明日までに考えといてくださいね!」

「ルカってそんなにゲーム上手いのかよ……逆に考えるんだ。生き物を殺すなんてできない心優しい人間なんだ俺は」

「だって家にはお姉ちゃんが居ますからね!」

 忘れてた……風花のやつに生まれてこの方ゲームで勝てた事がなかったってことを。無駄にスペック高いんだよな。

俺は1GBも記憶できないけど……


「あれはチートだろ!生きるチート!」

「姉妹の絆です!お兄ちゃんだってミオちゃんいるじゃないですか!」

「ミオはそういうのあまりしないんだよ!多分」

 昔ミオの部屋を覗いたら笑いながらバイオなハザードをやっていたな。

悪戯で後ろからバンッてやられた時は本当に死ぬかと思った。

「ミオちゃん受験生で忙しいですもんねー、志望校はどこなんですか?」

「第一希望はここらしいぞ?ミオの学力ならもっと上行けるのにな」

「きっと私と同じ学校に通いたかったんですね!ルカ先輩、いい響きですね…ふふ」

「違うな。ミオは俺と同じ学校に来たかったんだよ。そうに決まっている!」

「私はお兄ちゃんと同じ学校が良かったのでここにしましたよ!どうですか、可愛いですか?」

「なんだよその理由!可愛いなもう!飴ちゃん食べる?」

「いただきます!!」

 関西のおばちゃんってこういう気分なのかな。

老後は飴を配り歩いて百鬼夜行でも作ろうかな、俺はぬらりひょんって事で!



**



「冬馬起きなさい。放課後よ」

「珍しいな、風花が起こしてくれるなんて」

「だって起こさなかったら明日までに寝てそうだもの」

「はは…間違ってないかも」

「それで?ルカとはどうなの?」

「今日はガパオライス食べたぞ。めちゃくちゃ美味かった」

「違うわよ!旅行の時に言ったこと」

「意識はしてるんだが……どうしたらいいかわからないのが現実だ」

「まず第一、冬馬がルカをどう思ってるかよね」

「料理上手な幼妻系妹」

「はぁ…あんたに聞いた私がバカだったわ。聞き方を変えるわよ?ルカが男子と付き合ってたらどう?」

 ルカが男子と付き合ってたら…か。

あのルックスと愛嬌だからモテないわけがない。ルカが俺にしてくれるみたいに彼氏にしてるのを想像すると──表現できないけど耐え難い気持ちになる事は間違いない。

「………嫌だな」

「そう。それが聞ければ充分よ。校門でルカが待ってるから早く行ってあげて」

「あぁ。また明日な!」

 風花は言葉を発する事なく手のみを振り返す。


「冬馬のバカ…」

 もう…遅い事くらい分かってるわよ。ルカから冬馬を奪う真似は絶対にしない。

いつまでも冬馬が側にいると思ってちゃダメよ…前に進まなきゃ。

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