───旅行③。君に伝えたかった事が…


「冬馬はルカのことどう思ってるの?」

「唐突だな…すごくできた子だと思うよ。懐いてくれるのも嬉しいしな」

「あんた馬鹿なの?」

「いきなり悪口かよ!そんな鈍感系主人公にいう台詞を俺に言うのか?」

「言うわよ。だって冬馬、ルカの気持ちを理解していないもの」

「あの子はね…本気であなたが好きなのよ」

「待て待て!どういうことだよ」

「女の子がお弁当を毎日作ったり、登下校を一緒にしたり、家に招いたり…どうしてか分かる?」

「風花に振られたから同情されてるんだろ?俺」

「それは…悪かったわよ……。少なくとも私は幼馴染のあんたにお弁当を毎日作りたいとは思わないわね」

「この言葉の意味が分かるかしら?鈍感系主人公さん?」

「か…仮に!ルカが俺を本気で好きだとしても!経緯も何も分からないぞ」

「そうでしょうね…教えてあげるわ」

 急展開すぎて頭が追いつかない…ルカが俺を好き?

意識した事がないと言えば嘘になるけど……


「私たちが小さい頃…8歳の時ね」

「まだ幼稚園に通っていたミオちゃんを除く私たち3人は良く公園で遊んでいたでしょ?」

「身体も小さいのにヤンチャばかりしてルカはよく喧嘩をしていたのを覚えてる?」

 忘れるわけがない。自分よりも体格が違う男に何度も突っ込んでは負けて、目の敵にされていじめられていたな。


**


「ルカお前しつこいんだよ!お前とは遊びたくないんだよあっち行け!」

「私だけ仲間外れなの嫌だよ!仲間に入れてよ!」

「は?嫌だよ!だってお前…」


「女じゃん」


 ルカは「女じゃん」この言葉に強い嫌悪感を抱き翌日から対抗することもなくただ暴力に耐える日々が続いていた。


「お母さん…私女の子なんて嫌だよ…」

「そんな事ないわ。ルカにはカッコいい王子様が絶対にいるもの」

「うん…わかったよ!私…女の子がんばる…」


「どうしたんだよ!今日は殴りかかってこないのか?チビ!」

「わ…私はもうそんな事しないもん…」

 ルカは頭を手で覆いながらただ痛みに耐えていた。

細く小さい身体には何発もの痛みが無常にも襲いかかってくる。

辛い…苦しい……やっぱり頑張れない…ルカの頭で言葉がグルグルと廻る。

「おい!やめろよ!」

「誰だよ!お前は!」

「俺は鵜崎冬馬!ルカちゃんのことをいじめる奴は俺が許さないぞ!」

 小学校の帰り道、俺はたまたま通りかかった公園でボロボロのルカを見つけた。

溢れそうな涙を必死で堪えていたのを今でも鮮明に覚えている。

 俺に標的が移るといじめっ子の主犯格は真っ先に突撃してきた。

小学生同士の喧嘩だ…取っ組み合いをして髪の毛を引っ張り合って──今思うとカッコ悪いったらありゃしない。


「はぁ…はぁ……もう二度とルカをいじめるな!」

「ふ…ふんっ!こんな女どうでもいいし!」

 いじめっ子達は一目散逃げていき公園には小学生の冬馬とルカの2人が取り残されていた。

「王子様……」

「ルカちゃん大丈夫?」

「へ…平気だよ!」

「お兄ちゃんは私の王子様だったんだね!」

「え…?王子様?」


**


「ちょっと前にルカに聞いたら、これがキッカケらしいわよ?」

「8歳って10年前くらいだろ?そんな長い間…全く気づかなかった…」

「そりゃそうよ。あの子そんな素振り見せない様にしてたもの」

「自分で言いたくないけど…冬馬って中学生の時から私の事好きだったでしょ?」

「風花さん?何でバレてるのかな誰にも言ってないはずなのに」

 中学生の俺!もう少し頭使えよ!あからさまに「す…好きな人いるの?」とか聞くなよ!

穴があったら入りたい…その上で埋めて欲しい。


「あからさまな態度されれば誰にでも分かるわよ。私だけじゃなくてルカにも…ね?」

「好意に気付いたルカは心の中に好意を秘めて過ごしていたそうよ。全く…隠し事が下手そうなのに1番の嘘つきじゃない…」

「私が冬馬を振ってからでしょ?あの子が冬馬にくっつき始めたの」


「振られた翌日から普通来るか!?流石に出来すぎた話だろ?」

「9年分よ?今のルカは秘められてた気持ちが溢れている状態なのよ」

「ちゃんと応えてやりなさいよ…お兄ちゃん」

 風花は俺の胸を拳で叩くと部屋に戻っていく。


「喉渇いたな」

 俺は自販機に向かい炭酸を2つ買って部屋に戻るのだった。





**


「お兄ちゃん!おかえりなさい!」

「お…おぉ!」

 改めて意識しはじめるとルカってめっちゃ可愛いな。

猫耳と尻尾つけて「ニャン!」って言って欲しいわ!

落ち着くんだ、平常を装うんだ!冷静に沈着に俺はクールなんだ!


「これ飲むか?ぶどうとオレンジどっちにする?」

「オレンジでお願いします!」

 ルカにオレンジの炭酸を渡すとプシュッ!と弾ける音が耳に響き渡る。

「久しぶりに飲みましたけど美味しいですね!」

「そうだ!一口ずつ交換しませんか?」

「絶対言うと思ったぞ!」

 お互いのペットボトルを交換して一口ずつ口に含む。

ん──待てよ。これって間接キッ……!


「しちゃいましたね…間接キス!」

「口に出して言うな!言ったら意識しちゃうだろ!」

「あー!お兄ちゃん赤くなってますよ!可愛いですねー」

「バカにするな!ルカだって赤くなってるじゃないか!」

「ふぇっ…?」

 ルカは手鏡で自分の顔を確認すると布団にうつ伏せになって顔を隠す。


「見ないでください!見ないでください!」

「人のことバカにしたんだから顔くらい見せろ!」

「いやぁぁぁ!お兄ちゃんのケダモノ!野獣!いっその事襲ってくださいよ!」

「絶対にしない!」

 冬馬はルカを仰向けにしようと布団をひっくり返そうとするが布団にガッチリとしがみつきルカは全く離れる素振りを見せない。


「はぁはぁ……体力使ったわ」

「お兄ちゃん!だったら寝ましょう!」

「本当に一緒なの!?ほんとのほんとに?」

「添い寝!添い寝!さっさと添い寝!お兄ちゃん!」

「リズム良く言うな!分かったから早く布団に入れよ!」

「準備できました!さぁさぁ!」

 こういう時は行動が早いんだから……。

俺は恐る恐るルカの隣に入り背中を向けて眠る。


「こっち見てくれないんですか?」

 耳元でルカは吐息混じりに囁いてくる。暖かな息がゾクゾクして背中に電流が走った様になる。

「お前…分かっててやってるだろ…」

「えへへ…悪戯です!でもこっちは向いて欲しいです!」

「はいはい、仰せのままに」

「目が合いましたね…えへへ…」

「一々口に出すな!恥ずかしいやつだな…」

「照れるなんてまだまだですねぇ!」

「電気消すからな!」

「はーい!」


 心が休まらないな。ドキドキするのは照れてるせいで間違い無いだろうけど!

風花に言われた言葉を考えていると俺は中々眠りにつく事が出来ずにいるのだった。

 




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