───夏休み②。両手に花と思われたい…


 ありのまま今起こったことを話すぜ!

俺は今カップルで乗るスライダーにルカとミオと3人で乗っている。

これ2人乗りって書いてあるよね?役員さん…ダメだ。完全に俺のこと死ねば良いのにって顔で見てる。


「お前ら交代で乗るってことはできないの?」

「いやです!私がお兄ちゃんの初めてを貰うって決めてましたから!」

「お兄ちゃん、死ぬときは一緒だよ?」

「2人して物騒なことを言うな!それに狭いからはしゃぐな!」

 左側にルカ、右側にミオとまさに両手に花状態なんだが…ルカがバシャバシャとはしゃぐと必然的にミオ側に身体が動いたしまう。

 妹ながら中学生にしては育ちすぎな身体に押し付けられ肩に柔らかいものが当たる。

その度にゴミを見るような目で見られるんだが…ミオちゃんこれ不可抗力。俺、悪くない。

「それでは行ってらっしゃーい!」

 係員の掛け声とともにスライダーは発進する。

スライダーの水って驚くほど滑るよね…なんて考える暇は無くトンネル状の道をグルグルと目まぐるしく回転する。


「待て待て!死ぬ死ぬ死ぬ!」

「すごい勢いですね!たのしっ…じゃなくてお兄ちゃん!私怖いです…」

「嘘つけぇ!はしゃぎまくってただろうが!ミオもなんか言ってやれ…ってミオ!?」

 ミオは放心状態で俺の腕をガッチリと掴んでいた。

死ぬときは一緒だよって完全に道連れにする気満々の台詞かよ。

死亡フラグ建築士としては一級品だが洒落になってないから!


 回転するコースが終わると一気に下へと加速して出口に出た。

出口にはプニプニとした壁に当たり、怪我をする事は無かった。

「楽しかったですね!後50回は乗りたいです!」

「お前はネクロマンサーか何かか!俺を死んだ後もこき使うブラック会社の上司か!」

「ここは天国かな…ミオは天に召したのか…」

「しっかりしろ!ここはプールでお前は生きてる!」

 冬馬は放心状態のミオを背負いその場を後にする。

豊満な双丘が背中にあたる事を意識したら自制心が持たない…。


**


「ミオちゃん大丈夫ですか?私飲み物買ってきますね」

「悪いな。金は後から渡す」

「お任せください!」

 ルカは早足で自販機のある方向へと向かう。

「うぅ…」

「ミオ気が付いたか」

「三途の川まで行った気がするよ…スライダー許さない」

「そ…そうか。今度からは無理するなよ」

「そうするよ…流石に残機が無いもん」

 この子の中では命って残機扱いなの?某有名オーバオールおじさんの世界から飛び出してきたの?

「ルカちゃんは?」

「お前のために飲み物買いに行ったよ」

「あれ…ルカちゃんじゃない?」

 ミオの指差す方向を見ると数人の男に囲まれてたじろぐルカがいた。

状況からしてナンパだろうか…とにかく考えるより先に動いた方がいいよな。

「俺行ってくる!ミオ少し待っててくれ!」

「気をつけてね?」



「あの…私に何か用でしょうか」

「お嬢ちゃん1人だろ?つまらないだろうし俺たちと遊ぼうぜ?」

「私…困ります…」

「あぁ!?俺たちの誘いが聞けないってか?身体でわからしてやるよ!こっち来い」

 ガングロのチンピラがルカの手を掴み強引に連れ去ろうとする。


「ちょっと待てよ」

「お兄ちゃん!」

「何だお前?ヒーロー気取りかよ笑わせるな!」

「ルカは俺の大切な人だ。今すぐその汚い手を離せ」

「言わせておけば調子に乗りやがって!」

 チンピラの1人が俺に殴りかかってくる。ルカは危険を感じて目を瞑る。

 流石に拳筋がデタラメなパンチにやられる程俺もやわな鍛え方はしていない。

避けたら調子に乗るのはお前らだろ…ここは──

 冬馬はパンチを片手で受け止めると空いている方の手を使って誰もいない所目掛けて押し飛ばす。

「野郎っ…!覚えてやがれ!」

「二度とルカに手を出すな。次はこれじゃ済まさないからな」

 トレーニングしておいて良かった──力はこういう時のために使うんだな。

チンピラ達は遠くの方へと逃げて行きルカを諦める。


「お…お兄ちゃん?大丈夫ですか?」

「ルカの方こそ大丈夫か?怖い思いさせて悪い」

「え…えへへ…だ…大丈夫です!」

 小刻みに身体が震えている。

自分より身体の大きな男に囲まれれば怯んでしまうのも無理がない。

「もう大丈夫だ。ほら行くぞ」

「ま…待ってください!腰抜けちゃって歩けないです」

「しょうがないな。ほら、おぶってやるから背中に乗れ」

「やった!お兄ちゃんのおんぶだ!」

「お前本当は動けるだろ…」

「無理です!お兄ちゃん…本当にありがとうございます。私本当は怖くて…」

「分かってる。今日はもう無理するな」

 俺はルカを背負ったままミオの待つベンチへと足をすすめる。


「ルカちゃん!大丈夫?」

「大丈夫ですよー迷惑かけてごめんなさい」

「ルカちゃんが無事で良かった…本当に」

「時間も時間だし今日はこのまま帰るか」

 スッキリした気分とは言い難いがなんとか大事にならずに済んだので安心した。


「お兄ちゃん!待ってください!」


**


「やりたいことって…花火か」

「夏と言ったら海!花火!そしてルカちゃんですよ!」

「そんなの聞いたことないわよ…全く」

「お兄ちゃん、ルカちゃんの水着凝視してたよ」

「それ本当!?冬馬…あんたねぇ…!」

「誤解だ!でまかせ言うんじゃない!」

「お兄ちゃん今日カッコよかったですよ!」

「ルカから聞いたわ…冬馬ありがとね」

「大した事はしてない。それと…本当に感謝してるなら俺より靴の上で線香花火しないで?」

「じゃあ私は左をもらいます!」

「ミオも左かな」

 動いたら即死どころか時間経過で死んでしまうルートじゃねぇか!

炎上するぞー!主に俺の足が!

 でも、久しぶりに4人で集まれたな。

これもルカが俺に声をかけてくれたからだよな。振り回されることも多いけど感謝してもしきれないんだよな。


──俺の大切な人だ──

 ルカは何度も脳内再生を繰り返し終始笑顔を浮かべている。

「うぇへへ〜…プロポーズされちゃった!」

「ルカ?笑い方が下品よ?」

 待て待て!そんなに激しく身体を動かしたら…!


ポトッ

「あっつ…!!!」

 案の定俺の足に花火の先端が落ちるよな!オチは見えてたけど!

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