───姉妹。ただ分かって欲しくて…


「ちょっと待って!私、ルカに怒られることした?」

「ご飯を食べたら私のお部屋まで来て!」

 帰ってきて早々にマシンガンの様な言葉を浴びさせられ風花は戸惑う。

ルカと喧嘩した覚えは無いし…心当たりがあるといえばプリンを食べたことくらいかな。


**

「お姉ちゃん!何で呼ばれたか分かる?」

「……勝手にプリン食べたから」

「えぇ!そんなの私聞いてないよ!楽しみに取っておいたのに…」

 予想外の答えでルカは肩を落とす。分かりやすく下を向いて落ち込み頭を抱えている。


「プリンの事はまた別の日にお説教するね?」

「あ…はい」

「私がお姉ちゃんに言いたいのは、お兄ちゃんとのことだよ?」

 お兄ちゃん──つまり冬馬のことね…。

私も勘が鈍い訳じゃ無いし、この時点で察することができた。

きっと…今日のやり取りね。


「お姉ちゃんはお兄ちゃんの言うこと…信じてれないの?」

「冬馬が龍崎くんの事悪く言うから…!」

「録音された音声を私も聴いたよ。私…お姉ちゃんが大好きなの」

「このままじゃお姉ちゃんが傷ついたままだよ!」

「ルカ……」

「恋が叶わない気持ちは私だって分かるもん!でも!認めなきゃ前には進めないから!」

 分かっている。冬馬に言われた「遊ばれてたんだよ」って言葉も。

私はただ認めたく無いだけなんだ。可哀想な女だと思われたくない。

龍崎くんの言葉にはいつも信憑性が欠けていたし、まるで上っ面だけで喋っている様だった。

「そんなこと…分かってるわよ!少しずつ分かっていたけどそれでもっ…!信じたかったのよ!」

「私といて彼が変わってくれるんじゃないかって…私がヒロインなんだって!」

 数分間の沈黙の後ルカはゆっくりと口を開いた。


「お姉ちゃんはどうして欲しいの?」

「敵討ちをして欲しい訳でも無いから…浮気されたから復讐するとかも考えてないわよ」

「そっか…でもお兄ちゃんを叩いた事は謝らなきゃダメだよ!」


「わ…分かったよ。明日謝る」

「後…お兄ちゃんにも今の気持ちを伝えれば分かってくれるはずだよ」

「私、少し冬馬を邪険に思いすぎてたのかもね」

「お互いの事なら何でも分かるでしょ?だって私達はお兄ちゃんと──」


『幼馴染なんだから』


**


「おっはよーございます!お兄ちゃん今日も見事に目が澱んでますね!」

「テンション高すぎだわ。ルカの声聞くだけでラジオ体操しなくていいまであるぞ?」

「なるほど…最高のモーニングコールってことですね!朝チュンしたら私が味噌汁作るシチュどうですか?」

「ふむ…悪くないな。朝からルカの料理食べ放題なら仕事も頑張れる!」

「私と結婚しちゃいますか!」

「ここに婚姻届があります!」

「流れで結婚させようとするな!ルカのペースに持ってかれると怖いわ…」


「お兄ちゃん!昨日お姉ちゃんとお話しましたよー!」

「悪いな手間かけさせて…。ルカ、ありがとな」

「素直にお礼を言われると身体がむず痒いですね…!」

「お兄ちゃんご褒美ください!」

 ご褒美──なでなでの事だよな。

そんな忠犬見たいな眼差しで俺を見るんじゃない!

ド○キでコスプレセット買ってきたくなっちゃう。


 俺はルカの頭にそっと手を置き優しく左右に動かす。

青みがかった黒髪がサラサラと動かすたびに揺れている。

「満足したか?お姫様」

「余は満足です!えへへ〜」

「幸せなやつだな」

「お兄ちゃんもなでなでしてあげましょうか?天にも登る快感ですよ!」

「一度やったらやめられない!正に危険ドラッグと一緒です!」

「俺を攻略しようとするな!」

 ただでさえ弁当で胃袋が掴まれている状態なのに、なでなでの良さを知ってしまったら俺はどうなっちゃうの!

ルカがもはや母親に感じてきたぞ?


「私はお兄ちゃん攻略ルート一択です!ちなみに50%攻略しました!」

「やめろ!あながち間違ってないから!これじゃ俺がヒロインじゃねーか!」

「私は肉食系なので!ガオー!」

 ガオーじゃないよ全く……。

あざといポーズでも素だから許せちゃうし、可愛いんだよな!


**


「おはよ。冬馬」

「フルスイングさん!?」

「…誰のことよ」

「聞かなかったことにしてくれ…お願いします」

 危ねぇ…フルスイングがまた飛んでくるかと思ったわ。

「昨日、叩いたりしてごめんね」

「別に大丈夫だよ。謝れるなんて偉いじゃないか!」

「私を5歳児だと思ってるでしょ…ったく」

「それと……」

 風花は昨日ルカに話した様に自分の気持ちをゆっくりと話し始めた。


「風花の気持ちが聞けて良かったよ」

「冬馬……」

「龍崎の事は嫌いだ。だけど、風花がそれで良いなら俺がこれ以上首を突っ込む訳にもいかないしな」

「それに…風花ならすぐに良い相手が見つかると思うぜ?幼馴染の俺が言うんだから間違いない!」

「ふふっ…なにそれ。幼馴染に不思議な力はないから」

「私のことで本気になってくれてありがとね」

「気にしないでくれ、悪く言えばただのお節介だ」

「確かに…そうかもしれないわね」


「風花さん?少しは否定して欲しかったんだけど…」

「面倒くさい男…」

「はいライフポイント削れました!心の中でピピピピピって音が聞こえました!今日から…」

「青眼って言ったら殴るわよ?」

「……うす」

 風花の元気が戻って何よりだな。

龍崎を許そうとは思わないが風花にこれ以上害がないなら…今は目を瞑っていよう。


あ──風花今日はピンクなのね。


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