───風邪。元気な奴程タチが悪い…
朝6時半に起きて顔を洗い歯を磨く。洗面台で寝癖を整えてリビングに向かい妹に朝の挨拶をする。
俺の家は両親が共働きで妹が家でのご飯を作ってくれている。
用意されていたトーストと目玉焼き、カリッと硬めに焼かれたベーコンを食べる。
妹は委員会があると言って俺が朝ごはんを食べている最中に学校へ行ってしまった。
食べ終えた皿を流し台に入れてバッグを手に持ち俺も外へ出る。
水瀬家へは徒歩30秒もかからないが少し早めに出て損はないだろう。
いつも通り呼び鈴を鳴らしていると1つ異変を感じた。
うるさいくらいの足音が聞こえずに扉が開いたのは5分後だった。
「冬馬おはよ」
「おはよう。風花、ルカはどうした?」
「朝は喋るのも嫌だからルカの部屋に行けば分かると思うよ」
「じゃっ…私は行くからルカをよろしくね」
依頼…というよりは一方的な押し付けに近いがルカが心配なのはそのとおりだ。
水瀬家の玄関をくぐり2階の奥の部屋へと向かう。
ノックを2階するがまったく返事がない…。
「ルカ!入るぞ」
一言声をかけ扉を開けるとベッドに寝ているルカの姿があった。
寝坊か…と思ったけれど様子が違う事にすぐに気づく。
顔は赤くなり呼吸は乱れて頭が熱い──つまり熱…風邪だ。
「ルカ…大丈夫か」
「あ…お兄ちゃん玄関に出れなくてごめんなさい」
「何言ってるんだ、熱があるならちゃんと寝てろ」
「俺は学校に行くから薬飲んで安静にしてろよ」
ルカに一言掛けて中腰にしていた体を起こす。
すると俺の動きは何らかに止められる…ルカだ。
「…これじゃ学校行けないんだが」
「お兄ちゃん…そばにいて欲しいです」
弱々しい声が俺の庇護欲を駆り立てる。
風花にもお願いされたし?これは致し方無いよな。
「今日だけだからな。とりあえず熱は?」
「えへへ…ありがとうございます。朝測ったときは38.2度でした」
「薬飲んだりしたのか?」
「……何もしてないです」
風花がよろしくねって言ったのは本当に全部よろしくねってことかよ。
でも引き受けた以上は徹底的に看病してやらないとな…いつもの恩もあるし。
俺は手始めにルカに薬を飲ませ、でこに冷却シートを貼る。
30分くらい経つと薬が効き始めてきたのか呼吸が一定になり健やかになってきた。
「お兄ちゃん…お母さんみたいです」
「珍しいな。ルカが風邪を引くなんて」
「毎年1、2回引いちゃうんですよね…うちは共働きなので1人になっちゃって辛いです」
「でも今日はお兄ちゃんが居てくれるので幸せです」
「弁当いつも貰ってるしな。こんな状況でしか恩返しできないのが癪だけど」
「恩返しなんていらないですよ、私はお兄ちゃんが側にいてくれればそれで…」
**
「少し眠くなってきました」
「体調良くないし、しっかり寝たほうがいいぞ」
「でも…目を閉じたらお兄ちゃんが居なくなっちゃいそうで嫌です…」
「そんな事か…大丈夫だ。ずっとここにいるからルカは安心して寝ろ」
「じゃあ1つお願いしていいですか?」
「なんだ?」
「手…握ってくれませんか」
この子今…手握ってって言ったよね?
俺、生まれてこの方彼女居た事ないのに……もっと言うなら最後に女の子と手繋いだの小学校の体育の点呼だぞ。
「ダメ…ですか?」
そんな上目で見られたら嫌だなんて言えないじゃん!
元気な子の弱々しくて、しおらしい姿ってギャップのせいでグッとくるものがあるな。
「ほら…」
「これじゃ握りづらいです」
ルカは布団をまくりポンポンとこっちに来てとハンドサインを送る。
「ルカちゃん?俺に一緒に寝ろってこと?風花にバレたら殺されるんだが…」
「むぅ…手握りづらいから来て欲しいだけです。Hな事は元気な時にしてください!」
「元気でもしないから!」
「お姉ちゃんが帰ってきたら解放しますから!ダメ…ですか?」
「分かったから。そんな顔するな」
俺は制服のブレザーをたたみ、ルカの隣にモゾモゾと入り込む。
ピタリとルカがくっつき体温が直に伝わってくる。
「ルカ、手じゃないの?」
「そんなの忘れました!」
ルカは冬馬にピタリとくっつきギュッと抱きついている。
やばい…色々と当たっては行けないモノが当たる。控えめだけど柔らかいとか思ってないから!
「お兄ちゃんの匂いでいっぱいです…幸せです」
「ルカ、顔赤くなってきてるぞ。また熱上がってきたんじゃないか」
「そ…そうですか?眠くなってきたので私は寝ます!おやすみなさい」
お兄ちゃんのバカ…熱いのは恥ずかしくなったからですよ。
余裕が無いなんてバレたら笑われるかもしれないので熱のせいにしておきます。
「ったく…気持ちよさそうに寝息たてやがって。俺も少し眠るかな」
**
「冬馬?ルカ?2人して何やってるのかしらね」
冬馬は風花の声で起き上がり瞬時に時計を確認すると17時を過ぎていた。
眉をピクピクとさせ、見るからに怒っているのが分かる。
「風花!違うんだこれは!そうだよなルカ?」
「お兄ちゃん…獣の様でした!キャッ…!」
「ルカやめろ!何もしてないだろ!」
「もう元気になったので既成事実作りましょう!」
「このバカ冬馬!うちの妹に何してくれてんのよ!」
「お兄ちゃん!夢の3○ですよ!両手に花で幼馴染です」
「ルカそんな汚い言葉使わないの!冬馬は早くベッドから出なさい!」
風花に散々言ってくれやがって……でも、元気になって結果オーライなのか?
いや…俺が被害者でいいよね?
「元気ならもう帰るぞ!」
「あ…もうちょっとくっつきたかったです!」
「馬鹿言うな!今日は安静にしてろよ?明日からまた迎えにくるから!」
「はーい!」
冬馬が玄関に行き靴を履いてドアに手をかけると風花に呼び止められる。
「ちょっと待ちなさい」
「…本当に何もしてないから」
「そんな事は分かってるわよ」
「今日、ルカの事ありがとう」
「気にするな。俺も感謝してるから」
「そう…今度は元気な時にうちに来てね」
「あぁ、じゃあまた明日な」
ルカの復帰後の破天荒には驚かされたが重症じゃなくて安心したな。
翌日──俺が風邪を引いたのはまた別の話。
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