───主人公。お菓子のトラウマ…
「じゃじゃーん!ここが私の部屋です」
パステルカラーの小物が丁寧に棚に並べられ勉強机とベッドがある比較的シンプルな部屋だった。
「風花の部屋とはまた違う匂いがするな」
「お兄ちゃん?気持ち悪いですよ?」
「悪い…けど、落ち着く匂いで好きだな」
「そ…そんなにですか?」
「なら…!」
ルカは手を広げ何かを待つ仕草を見せる。
「俺にどうしろと?ぬいぐるみでもぶち込めってか?」
「違います!お兄ちゃん!おいでおいでです」
「理由もなく女の子の胸の中に行くわけないだろ」
「理由ならあります!お兄ちゃんは失恋しました!」
「うわぁ泣きそう…いっその事抱きつこっかな」
「お兄ちゃん!?まだ心の準備が…」
冬馬は一歩ずつルカに近づき後一歩という距離で立ち止まる。
目を瞑りながら顔を赤くするルカを少し楽しんだ後頭をポンポンと撫でる。
「冗談だ、年上をあまりからかうなってことだ」
「思わせぶりだなんて…ずるいお兄ちゃんです」
「はっ…!まさか私を堕とす事にジョブチェンジですか!ダーマ神殿に行きましょう!」
「俺は一生遊び人で生きていくから」
「今日からヒモになっちゃいます?」
「働きたい願望はあるからなー。
むしろ養ってあげたいまである」
「私とかどうですか?ごはんにします?
お風呂にします、それとも…」
「俺は寝る」
「もう!少しはノってくださいよ!」
「罰ゲームとして私の手作りクッキーを食べてみてください」
白い皿に乗ったクッキーに目を落とすときつね色に焼け、甘い匂いが鼻腔をくすぐってくる。
「じゃあ一枚……」
「どうですかお兄ちゃん!私の手作りですよ」
ルカの料理の腕はよく知っているからこそ躊躇いなく口に運ぶことができた。
噛んだ途端サクッと心地いい音と共に芳醇な甘さが口に広がってくる。粉物の特徴で口の中の水分が少しずつ奪われて紅茶が欲しくなってくる。
「すごく美味い。弁当があの腕前だからな、ルカのクッキーが不味いわけないよ」
「もう胃袋掴めたんじゃないですか?お兄ちゃん早く私のものになってください!」
「胃袋か…たしかにそうかもな」
「私の勝ちです!何で掴まれたか明日までに考えておいてください!」
「You loseが無いから−15点」
「相変わらず厳しいですね…」
コンコン
「2人ともー、下にチョコがあったんだけど残り2個だからあげるわ」
「ありがたく貰うわ。風花、ありがとな」
「ふ…ふん!別にあまり好きじゃないからよ」
俺は知っている…風花が本当はチョコが大好きな事くらいな。
気をつかうなんてらしくないなまったく。
俺はそんな事を思いながら手渡されたチョコの包みを開き口に運ぶ。
「あ…!お兄ちゃんそのチョコは!」
時既に遅し…手から離れた包みには──ウィスキーボンボン。
外国のアルコール入りのチョコレート菓子だ。
ルカの声を最後に意識がボーッとし始める。
「お姉ちゃん!これお父さんのおつまみだよ」
「あれぇ…そうだったっけ?冬馬の事よろしくね」
「お…お兄ちゃん?流石にお菓子で酔うなんて展開ありませんよね?」
「ルカ、毎日俺のために味噌汁作ってくれ」
「えっ…!はい!喜んで…じゃなくて!」
「しっかりしてくださいお兄ちゃん!」
冬馬はフラフラとした足でルカをベッドへ押し倒す。
男の力を振り払うこともできずルカは抵抗ができずにいた。
「やっ…お兄ちゃん……私は」
2人の顔が残り数センチの距離まで近づきルカも諦めて目を閉じる。
これはカウントしないでおこう…そう思い覚悟を決める。
バタン
冬馬はベッドへと倒れ込み眠ってしまった。
「物足りないような…良かった様な…複雑な気持ちです」
「後でお姉ちゃんにはお説教が必要ですね」
「お兄ちゃん今度はお兄ちゃんの意思でキスしてくださいね?」
**
翌週の学校で冬馬は風花にいいよる。
「昔も同じことあったよな?風花さん?」
「何か言い訳があるなら聴こうじゃないか」
「ご…ごめんって!そんな怖い顔しないでよ…ね?」
忘れもしない10歳の頃……風花がキッチンから持ち出してきたウィスキーボンボンで俺は今回と同じようになってしまった事がある。
まさか2度目があるなんて思わず…完全に油断した。
風花から貰うものには今後毒見役を付けるのも検討しようか。
**
「お姉ちゃんから迂闊にもらっちゃダメですよ!私も昔イナゴの佃煮缶食べさせられそうになりましたから…」
「ルカ…もっと早く言ってくれ。忘れていた俺も俺なんだが」
「お兄ちゃんは私の作ったものだけ食べてればいいんですよ!」
「ってことで今日のお弁当です!」
相変わらず完成度が高いな。朝早くから作らせてると思うと心が痛い…。
ルカに胃袋掴まれているかという質問だが…あれは完全にYesだ。
「ルカ毎回ありがとな」
「じゃあ付き合ってください!」
「それは……ノーだな」
「なんでですかぁぁぁ!!」
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