第39話 『王廟』と『無色の闇』
「ユークさん、ネネさん!」
サブリーダーとして別働パーティの指揮をしていたシルクが、駆け寄る俺にほっとした顔を見せる。
「待たせた! 損耗は?」
「なしです。このまま突入できます!」
「よし、
仲間たちに目配せして、俺は頷く。
幸運なことに、俺とネネも
どういった理由かは知らないが、俺の呪いがこもった魔法は彼等を惹きつける何かがあるらしい。
「では、隊列パターンは予定通りに。ネネさん、いけますか?」
「問題なしっす!」
特製のブーツに【静音油】を染み込ませていたネネが、笑顔で答えて『王廟』の奥へと静かに向かう。俺達はその後を慎重に追った。
「ジェミー、シルク。魔力と精霊の流れを注視してくれ」
「まかせて」
「わかりました」
『王廟』なのか『透明な闇』なのか『塔』なのか。
今のところ判断できやしないが、ネネが見つけられない異常性の関知はこの二人に任せるのがいい。
ここが『無色の闇』由来の
「マリナはルンのそばでガードを頼む」
「おっけー! ルン、そばにいてね」
「はい、わかりました」
仲間に指示を出しつつ、俺は自分にしかできない方法で
つまり、〝
「レイン、【
「ん。わかった」
叔父曰く、
言葉で聞くと意味が分からないが、肌感では理解できる。
自分の属する世界との違和感、あるいは一体感というべきか……とにかく、コントラストを感じるセンサーのようなものだ。
これまで俺が感じてきた痣の疼きは、それであったらしい。
俺達の目指すべきは、その違和感が最も強い場所である。
この世界の端をしろしめす『塔』、ひいては『
「──……!」
引き寄せられた気配はまるで漂う香りのように仄かだったが、確かに俺はそれを感じた。
そして、その瞬間をレインは逃さなかった。
さすが『錬金術師』も脱帽する
「見つけた……!」
「よし。ネネが帰ってきたら進行開始だ」
頷き合う俺とレインを見て、マリナがこちらを覗き込む。
「なになに? どうしたの?」
「大まかな目的地を捉えた。って、説明したろ?」
「えへへ、実はあんまりわかってなかったり」
確かに、事前説明の時には「かもしれない」「だろう」「……の可能性もある」なんて言葉が飛び交って、感覚的なマリナには理解しがたかったかもしれない。
「『透明な闇』は何でもあって、何もない世界だ」
「えっと、ううん?」
「ものが多すぎて、目的のものが見つからない場所ってことだよ」
言い換えた言葉に、マリナが「うん」と頷く。
「じゃ、どうやって『塔』を目指すの?」
「そこでコレだ」
レインが持つ【
「これが『透明な闇』の中でも作用するってことは、俺とルンが証明済みだ。だから、これで『
「でも、それがどんなものか、不明。不安定。だから、ユークの〝
「よくわかんないけど、二人のおかげで場所がわかったってことね?」
首をかしげながらも、マリナが笑う。
詳しい説明はわからなくとも、現状の把握ができていればいいか。
俺にしても、うまくいったというだけで本当に理論として正しいかわかったもんじゃないしな。
「でも、ここ……『王廟』よね? 本当にここから『無色の闇』に入れるの?」
「正確にはここも『無色の闇』の中には違いないさ」
ジェミーにそう答えて、俺は頬に少し触れる。
俺のもつ〝
ここの気配は、間違いなく『無色の闇』と同じものだ。
ただ、土地の記憶がここを『王廟』たらしめている。
それに反応した『無色の闇』が『王廟』という
どこまでできるかわからないが、俺達自身の心象をコントロールし、強く誘導すれば『無色の闇』に入ることは可能なはずである。
そのための一手──『
つまるところ、ここから先は俺達次第という訳だ。
「戻ったっす」
一通りの説明を終えたタイミングで、ネネが戻ってきた。
「どうだった? 怪我とかないか」
「大丈夫っす。それよりユークさん、例のアレ、したんすね」
「どうしてわかった?」
「先行警戒中に、周辺がつぎはぎ模様になったっす。『無色の闇』と同じ感じっす」
ネネを少しばかり驚かせてしまったみたいだが、どうやら推測は正しかったらしい。
俺達が、〝
同時に、俺達は最難関迷宮『無色の闇』へと踏み込んだことになるが。
「【
「っす。周辺のチェック完了してるっす。方向はどっちっすか?」
ネネの言葉に、レインが【
「なるほどなるほど。じゃあ、案内するっす」
「みんな、気を引き締めて行こう……! ここから先は『無色の闇』だ。何が起こるかわからないぞ」
俺の言葉に、全員が頷く。
そして、みんな少しばかりわらった。
「ん?」
「ユークさん、固くなりすぎですよ。『クローバー』の夢、憧れの舞台に再び立ったんです。いつものをお願いします」
普段と逆の言葉に、俺は少しばかり苦笑して肩の力を抜く。
「そうだな。〝配信〟も繋がってるし……俺達の夢に向かって〝慎重に楽しもう〟」
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