第32話 出発と別れと
「そろそろ、行こうか」
叔父とベンウッドが『ラ=ジョ』から発って三日後。
十分な準備と攻略計画を立てた俺達『クローバー』は、町の入り口から『
黒い半球は、俺達が初めて確認した時よりも確実に大きくなっており、残り時間が少ないことをいやおうなしに感じさせる。
町の入り口には、俺達を見送る多くの者が集まっていた。
「頼んだぞ、ユーク」
「ああ。避難誘導は任せた」
マストマと握手して頷き合う。
俺達が出発した後、『ラ=ジョ』は事実上の放棄となる。
『
俺達『クローバー』も、この先は不退転の覚悟で挑まなくてはならない。
だが、頑なに『ラ=ジョ』に残るという者も、いる。
その内の一人、ボードマン子爵が進み出て新型『ゴプロ君』を差し出した。
やや大型化しているが、形状は『ゴプロ君』そのもの。
だが、これは冒険王国ウェルメリアの最新技術と、
「ガトー・ツォーミ男爵から届けられた最新の『ゴプロ君』を王立学術院と『ラ=ジョ』の総力を挙げてカスタマイズしたもの──『ゴプロ君G』です。ニーベルン嬢の〝黄金〟に感応して、〝配信〟が可能です」
「間に合ったんですね」
「ええ。今回の『クローバー』の生配信は、男爵が実況するとのことですよ」
「おっと、これは責任重大だ」
おどけた俺の言葉に、ボードマン子爵が小さく噴き出す。
「やはり、我々の本質は冒険者なのでしょう。世界の危機よりも〝配信〟の方に責任を感じるなんてね。私の責任も果たして見せますよ、ここでね」
『ラ=ジョ』に大型の配信用
配信用
さすがというかなんというか。
先見の明なんていうのも烏滸がましいくらいに用意周到で、ツォーミ男爵という御仁はどこかからこちらをのぞき見しているのではと思うくらいである。
計画の上では『死の谷』周辺の配信状況が整ってから『ラ=ジョ』に届けられる予定だった魔導設備で、この町とウェルメリアの〝配信〟を
その『ゴプロ君neo』をボードマン子爵たちが改造した。
性能的に優秀ではあるが、『
俺がかつて提出した『透明の闇』の報告からの研究で、ボードマン子爵は『
故に、
ニーベルンの〝黄金〟の力によって、この世界と『
つまり、あの『透明の闇』から、俺達の世界への道標となりうる機能なのだ。
ボードマン子爵及び数人の学術員は、これらの
貴族として、学者として、冒険者としてそう決めたと言われれば、こちらも強くは言えない。
命の賭け時は自分で決めるというのが、冒険王国ウェルメリアの民の流儀なのだ。
「後は任せよ。これを託す」
マストマが懐から懐中時計のようなもの──【
「使い方は覚えておるな?」
「ん。大丈夫」
手渡す瞬間、すっと膝をついたマストマがレインを抱擁した。
「ユークの手前ではあるが、無礼を許せよ」
「……いろいろ、ありがと。殿下」
「気をつけて行ってまいれ。ユークをよく守れよ。必ず戻れ。お前の顔がもう見れぬのは些か寂しい」
「うん。また、お茶を。一緒に」
レインが小さくうなずくと、マストマは抱擁を解く。
「許せ、ユーク。一度は惚れた女の送り出しなのでな」
「おいおい、縁起でもない。無事に戻ってくるさ。帰還時は遠慮してくれよ?」
マストマと苦笑と、軽い抱擁を交わして俺は仲間たちに向き直る。
「それじゃあ、出発しよう。準備はいいな?」
仲間たちに向き直って、最後の確認をする。
いまさらと言えばいまさらだが、やはり必要なことだ。
「問題なーし! 張り切っていこう!」
マリナが吹っ切れた様子で笑顔を溢れさせる。
緊張感はないが、ムードメーカーはこれでいい。
「準備万端です。お任せください」
キリリとした顔でシルクが頷く。
緊張は見て取れるが、固まってはいない。サブリーダーとしていいコンディションだ。
「先行警戒はお任せくださいっす。師匠には負けんすよ!」
ネネがやる気満々といった顔で胸を叩く。
師弟対決は俺だけではなかったようだ。期待させてもらおう。
「足手まといにならないようにするわ。今度こそ」
ジェミーは少し肩に力が入りすぎてるか。
だが、俺は嬉しい。彼女は冒険者としての俺をもっともよく知っているから。
「ルンも頑張ります」
ニーベルンは『ゴプロ君neo』を抱えて少し鼻息を荒くしている。
初めての冒険がこんなことになって申し訳ないが、今回の〝配信〟はニーベルン頼みだ。
サポートと護衛はやってみせる。
「ん。最後まで、一緒だよ」
小さく微笑むレイン。俺の理解者。いつだって、俺の背中を押してくれる
彼女がいてくれれば、俺はあの透き通るような無色の中でも恐れず進める。
「よし、それじゃあ出発だ」
両手を広げ、仲間たちを抱擁する。
「目指すは世界の果てだ──慎重に楽しもう」
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