第41話 愚か者と犠牲者
『王の間』へと足を踏み入れた俺たちを見た『フルバウンド』のメンバーがピタリとバカ騒ぎをやめて俺たちを見た。
こちらも、状況を把握するべく『王の間』を見渡す。
溢れるほどの財宝に囲まれた『フルバウンド』。
その先の王座には、まさに王様然としたシンプルな王冠を被った人影。
ルンの姿が見当たらない。
……いや、いた。
王座の少し後ろ、金色に輝きながら浮遊する水晶のようなもののすぐそばに、座り込んでいる。
こちらに背を向けているため表情はわからないが、ケガなどはなさそうだ。
「ルンちゃん!」
同じく姿を見つけたらしいマリナが駆けだそうとするが、それを遮るように『フルバウンド』の面々が立ちふさがった。
「邪魔しないでよ……ッ!」
「まあ、待ちいや」
『フルバウンド』のリーダーであるザッカルトが、ニヤニヤとしながら口を開く。
「もうこの迷宮は攻略されたんや。お前らやない。ワイら『フルバウンド』が、単独で完全攻略を果たした」
「何を言っている?」
「あのガキを連れてきた時点で、このレースはワイらの勝ちっちゅうこっちゃ」
レース?
ここにきて、まだ攻略の順を競っていたっていうのか?
それに、ルンを巻き込んで?
……こいつら、正気なのか?
「お前ら
急に表情を変えたザッカルトが剣を抜く。
それに倣ってか、『フルバウンド』のメンバーがそろって得物を構えた。
「何をしているんです!? わたくし達が争っている場合ではないでしょう?」
「じゃかぁしい! 最初から気に入らんかったんや。ドゥナ言うたらワイらやろが! それを余所もんのお前らがズカズカ踏み荒らしよって! おかげでええ笑いもんやッ」
唾を床に吐いて、ザッカルトが俺を睨みつける。
「特にお前は気に入らんわ。人気配信パーティかなんか知らんけど、女ばっかりはべらしてちゃらちゃらしよって……冒険者ナメとんか?」
「なによそれ! ただのひがみじゃない!」
おっと、マリナ。
火に油を注ぐのはやめようか。
「なぁ、王さん。“お願い”や! ワイらに力をくれや!」
首だけ振り返って、ザッカルトが玉座の王に叫ぶ。
土気色をしたその人物は無言でうなずき、ゆっくりと右手を上げる。
「ユーク、ヘン、だよ!?」
「精霊の乱れもものすごいことになっています!」
それぞれの感知能力で『王の間』を観測していたレインとシルクが、警告を発する。
俺とて魔法使いの端くれだ。何かが起こっていることはわかっている。
何より、俺の頬の痣がこれまでにない不快感を俺に伝えてきていた。
「……この魔法式……! 『成就』の力を揮っているのか」
大書庫で知り得た『成就』の魔法式。
それが一瞬揺らめくように起動して、玉座の後ろの水晶を黄昏に輝かせた。
完全ではない。しかし、それは確かに『一つの黄金』と呼応して、『フルバウンド』の面々に降り注ぐ。
そんな彼らの指には、『金の指輪』がきらめいていた。
「あなた達! 指輪を、つけちゃったの……!?」
レインが強い語調で、責めるように問う。
彼女にしては珍しいことだが、俺としても同じ気持ちなので驚きはしない。
あの『金の指輪』を身に着けてしまうなんて、あまりに愚かが過ぎる。
アレがいかなるものなのかは、情報共有をしていたはずなのに。
「お前らが何か隠しとるんはわかってたからな。王様に使い方教えてもろたんや」
ゲラゲラと笑うザッカルト達。
「何でも思い通りにできるんやで? 最高やん!」
ザッカルト達の目がマリナ達を舐め回すかのように動く。
「ええ女が揃っとるし、楽しめそうや。お前はいらんからすぐ死んでもらうけど」
ニヤニヤとするザッカルトの背後、王座に座る人物が口角を持ち上げて静かに嗤う。
三日月に歪められたそれを見て、俺は妙な既視感に囚われた。
理由も判然としないまま心臓が跳ねて上がるが、今はそれどころではない。
それに気が付いたザッカルト達が、こちらに向かってくるからだ。
その瞬間、最も行動が早かったのはシルクだった。
特別製の
次に容赦なく行動したのが、ネネだ。
地を這うように身を低くして疾駆した彼女の小太刀が、魔法使いの死亡に気を取られた僧侶の首を刎ねて、返す刀で傍にいた盗賊の胸を刺し貫いた。
「な、なんや……! なんでや! ワイらには『黄金』の加護があるんやぞ⁉」
「あたし達にはユークの加護があんのよッ!!」
力任せに、凶暴に振るわれたマリナの黒刀が、ザッカルトの
袈裟懸けの一撃に深手を負ったザッカルトが膝をついて武器を取り落とす。
「なんやねん、なんで、こんな。おい、ドルメル!」
俺の前で痺れてうずくまる戦士の名を呼ぶザッカルト。
〈
かなりの深度だし、放っておけばいずれ呼吸困難で息絶えるだろう。
……と、考えていたが、どうやら事態はもう少し悪かった。
「な、なんや? どうなってるんや……?」
『フルバウンド』のメンバーたちの体が
「ぎょぼ……あがヴぁ」
当のザッカルトにしても傷口から裏返るようにして、肉が盛り上がり、その姿を歪めていく。
驚いてはいるが、やはりそうなったか……という気持ちもある。
隣で杖を構えるレインも、予想の範疇とばかりに動揺はない。
「全員戻れ。『フルバウンド』が魔物化するぞ!」
声を張り上げて、
全員が周りに集まったところで、俺は巻物を発動させた。
「
巻物が青い炎に包まれて焼け落ちる向こう側、ウェルファリア王国初の『斜陽』の犠牲者が、明確な殺気を以て俺達の前に姿を現していた。
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