第37話 先輩パーティと王城進行

「光が、随分と奥まで差し込んでいますね」


 出口となる階段に差し掛かったところで、シルクがそう漏らす。

 当初、俺達が踏み込んだ時は踊り場までしか差し込んでいなかった黄昏の光が、すでに階段の下にまで伸びている。


「時間はそうないってことだな?」

「ええ。このペースだと半年はもたないですね」


 この目算もこのペースであれば、の話だ。

 もし、何かしらのきっかけがあればこれが加速度的に早くなる可能性だってある。

 そう考えれば、残り時間が「半年ある」と考えるのも迂闊が過ぎるかもしれない。


 階段を駆け上がり、『グラッド・シィ=イム』へと出る。

 静けさと黄昏の光に相変わらず乾いた寒気を感じるが、飲み込んで進んでいく。

 これに怯んでいては、先行している『フルバウンド』に追いつくのは難しい。


「……前方、コクーン! 数、四っす!」


 連合アライアンス斥候スカウトに混じって先行警戒をかけていたネネが、背後を走る俺達に警告を告げる。

 あの硬直視線を飛ばす魔物か……!

 かなり危険な魔物だ。


「ここは任せてもらいましょ。お先へどうぞぉ」


 『カーマイン』が走ったまま各々武器を抜く。


「ユークはん、ルーセントはん、後追いをかけるさかい……ようよう走りなはれ」

「まかせよう。行くぞ、ユーク君」

「……しかし」

「ルンちゃん、助けるんやろ?」


 マローナがニコリと笑って、スピードを上げる。

 その後ろに『カーマイン』の面々が続いた。


「ユーク君、優先順位だ。今回、我々は君のサポートをする立場だ。慣れないだろうが、目的を見失うな」

「……ッ」


 厳しい視線のルーセントにうなずいて足を動かす。

 せめての援護、と『カーマイン』の面々に強化魔法をばら撒いて、戦闘を開始する彼女たちの隣を駆け抜けていく。

 最短距離を狙った大通り突破。敵との遭遇もあるかもしれないとは思っていたが、まさかこんなにも早いとは思わなかった。


「先行警戒! ルートのみで!」


 俺の隣を走るシルクが指示を飛ばし、それにネネと『スコルディア』のミリアムがうなずいて先行していく。

 優秀なサブリーダーがいて助かった。俺もしっかりしないと。


「すまん、シルク」

「お気になさらず。こういう時のためのわたくしですから」


 微笑むシルクに軽く笑顔を返して、心の中で気合を入れ直す。

 そういつまでも引きずってはいられない。


「ルーセント! 庭の連中、ざわついちゃってる!」

「数が多いっす」


 外郭の入り口で足を止めていたネネとミリアムが、身を隠すように俺達にハンドサインを送ってくる。


「ふむ、結構おるが……。さて、どうするよ、ルーセント」

「無論、我々が足止めして『クローバー』を先行させる」

「かなりいるっすよ?」


 軽く確認したが、十体近くの魔物モンスターが、庭園にいるのが確認できた。

 しかも、ここをうろつくのは兵士セントリー騎士ナイツと呼ばれる強力な魔物たちで、想定される討伐ランクはBランクだ。

 『スコルディア』が実力あるパーティであるというのは理解しているが、あまりに危険すぎる。


「なに、どうせすぐに『カーマイン』が追いついて来る。逆に、君達の足を止めさせたとなれば、露払いに入ってくれた彼女たちに申し訳ないからね」

「しかし……」

「なに、何とでもなるわい。若いもんは前だけ見ておれ」


 老魔術師モリアが杖を握ってニヤリと笑う。


「モリア、ミリアム。派手な魔法で何体か仕留めろ。ダルカス、一緒に出るぞ。マジェ、精霊魔法で『クローバー』を援護だ」


 ルーセントの指示に、それぞれ頷いて得物を構える『スコルディア』。

 こんな状況で、俺は少し心が高揚するのを感じてしまっていた。

 『サンダーパイク』が結成される以前……つまり、俺が冒険者になる前から高名だった憧れのAランクパーティ『スコルディア』。

 そんな彼らが、俺に、俺達に期待を寄せている。


「わかりました。後で落ち合いましょう」

「ああ、無理はするな。迷宮行動ダンジョンワークのセオリーを守れ」


 大先輩らしい言葉に、頷きを返して突入のタイミングをうかがう。

 それは、魔法攻撃が行われた直後だ。


「──〈火球ファイアボール〉」

「ほい、〈吹雪ブリザード〉」


 ミリアムの放った火球が庭園の中央で大爆発を起こし、次いでモリアの魔法で吹き荒れる猛吹雪が魔物たちを氷漬けにしていく。


「突入する」

「おう」


 フラットな口調でそう告げて、ルーセントとドワーフ戦士のダルカスが猛スピードで庭園に突っ込み、容赦なく魔物モンスターを薙ぎ払った。


「さ、皆さんはこちらですよ」


 戦闘が開始された庭園の傍目に、ハーフエルフの僧侶であるマジェと共に庭園の端を駆ける。

 精霊使いでもある彼女の魔法で、俺達の気配を薄くしているようだ。

 何から何まで、あらゆる状況に対応できるAランカーの冒険者集団『スコルディア』のすごさを思い知った。


「何もできない。くやしい」

「ボク、も」


 マリナとレインが、戦闘をちらりと見ながらこぼす。

 俺も同じ気持ちだ。


「いいえ。あなた達は、ここから成すのです。さぁ、お行きなさい」


 以前進入した勝手口に到着した俺達に、マジェがニコリと笑う。


「ありがとうございます」

「おっと、お礼は結構。終わったら一杯奢ってください。それが、冒険者の流儀でしょう?」

「そうでした」


 軽く笑って返して、俺は仲間たちに目配せする。

 ここからは、『クローバー』だけでの進行となるのだ。気を引き締めて行かねば。


「いくぞ、みんな。第一目標はわかってるな?」

「ルンちゃんの安全確保!」

「よし。俺達とルンの安全が第一だ。保護次第、即脱出をかける」


 俺の言葉に全員がうなずく。


「よし。『ヴォーダン城』、攻略開始!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る