第62話 顛末と仲間

 大空洞についてからの事は、実に迅速だったと思う。

 生配信を見ていたベンウッドがすぐに俺達の元へ駆けつけ、大空洞に待機していた治療術師たちがジェミーを上級治療院へと移送……俺達は、冒険者ギルドでこととなった。


 なにせ、ベンウッドたちが目をつぶってくれたとはいえ、封印が決まった迷宮に割と強引に入ったのだ。

 記録ログと一緒に顛末書を提出せねばならないのは致し方ないだろう。

 そうでないと、ギルドマスターたるベンウッドの責任問題になってしまう。


 とはいえ、これが形式的なものに留まるのは自明の理だった。

 冒険者ギルド所属の治療術師を待機させ、公営の治療院にすでに話をつけていたのだ。

 これをが把握していないはずはない。


 それもあって、俺達のおとがめは比較的軽いものとなった。

 口頭注意と冒険者信用度スコアの減点、それと一か月の活動停止。

 ……最後のは、指定期間的にやや長いかも知れないが、『サンダーパイク』の生き残りたるジェミーに下されたものに比べれば随分と軽い。


 そのジェミーだが、初期治療が功を奏して一週間ほどで退院となった。

 その間に彼女は王国監査官の聞き取りや、ベンウッドとの面談、『サンダーパイク』としての後処理など諸々をこなした。

 俺も元『サンダーパイク』としていくつか手伝いはしたが……なかなかひどい有様だったように思う。


 俺が抜けてたった半年ほどで、Aランクパーティ『サンダーパイク』はこれまでの何もかもを駄目にして、すっかり落ちぶれてしまっていた。

 違法な組織との直接契約やAランクを隠れ蓑にした違法物品の取引、他パーティへのたかり行為や達成物の横取り、それに伴う恫喝の数々。


 リーダーであるサイモンには、プロとしての意識と危機感が足りなかったのだ。

 『サンダーパイク』にいた時、俺が「任された仕事だから」と対外交渉を全て受け持ってしまったせいもある。

 サイモンは田舎者の……ある意味、純粋すぎる愚かさで、自身にもたらされた甘言を受け入れてしまった。

 これまで、痛い目を見てこなかったのだ。そういった者の見極めもままなるまい。


「あー、終わったぁー」


 俺の隣でジェミーが大きく伸びをする。

 今日はジェミーと二人で、冒険者ギルドと公正承認組合へ行って、必要な書類の作成と提出をしてきた。

 これで『サンダーパイク』関連のあれこれは全て片付いたことになる。


「多少くたびれたが……お疲れ、ジェミー」

「あんがと」


 今日は町娘のような質素な格好をしたジェミーが苦笑する。

 あの華美な冒険装束も損失の補填のために売り払ってしまった。

 化粧も控えめだし、ちょっとした知り合いなんかだと、きっとジェミーだと気付けないだろう。


「少し休んでいこうか」


 俺の言葉に、ジェミーが小さく笑って頷く。

 近くにあった屋台で、羊肉のパイ包みとホットジンジャーエールを買って、俺達は噴水の縁に腰かけた。


「そろそろ冬だな」

「んだね」


 季節は秋、大通りを見やると季節の実りを並べる露店が立ち並び、まるでフィニスに冬の支度を促しているかのようだ。


「ねえ、ユーク」

「ん?」


 横でパイ包みを食むジェミーが、小さく囁くように俺を呼ぶ。

 あの、けたたましい甲高い笑い声を上げていた魔法使いと同一人物とは思えないような、小さな声。


「ごめん、なさい」


 立ち上がったジェミーが、深々と頭を下げる。

 ……またか。


「ジェミー、もういいって言っただろ。過去の事は過去の事だし、救助の事は借りを返しただけだ。もう水に流そうって話したじゃないか」


 肩を掴んで、そのまま隣に座らせる。

 さて、これで何回目だ。もう十回は超えてるぞ。


「何回謝っても、足りないわよ……」

「俺はもう足りすぎて、余った分を質に入れようかと思ってるくらいだ」


 ぐずるジェミーに軽口を叩いて、俺は頭をかく。

 こんな様子の彼女はどうにも調子が狂ってしまう。

 ジェミーという女魔法使いは、出会ったころからどこか派手で底抜けに明るく、いつも耳障りな笑い声を上げていたような気がするのだが。


 こっちが素なのだろうか?


「なあ、ジェミー。俺はもう気にしてない。そりゃ、『サンダーパイク』時代はいろいろあったけど……それはそれでいい経験になったと思っている。だから、お前もそう気にするなよ」

「あー……ホントやだ。アンタのそういう優しさに、ずっと付け込んでた自分がやだ。あんなパーティにいたのも、それに混ざってアンタをバカにして笑ってたのも……ホント、になる」


 ぐずりながら背中を丸めるジェミーの背中をそっと撫でる。


「アンタの、そういう女たらしなとこもやだ……」

「そんなつもりじゃないぞッ?」


 思わず背中から手を離して、ギクリとする。

 そんな風に、思われていたなんて少しばかり心外だ。


「ちょろいアタシもホントやだ……」

「ん?」

「何でもないわよ」


 苦笑したジェミーが、俺を見る。


「アタシは、変われるかな?」

「もう十分に変わってる。だって、こうして俺と普通に話してるじゃないか」


 『サンダーパイク』にいたころ、俺とジェミーがこうして二人で話す機会などまずなかった。

 冒険中以外はせいぜい薬の受け渡しをするときに話すくらいで、基本的に俺はサイモンたちと時間をあまり共有しなかったし、ある時期からは嘲笑から逃れるために能動的に距離を取りすらしていた。


 それが、俺の過ちだと今ならわかる。

 もっと、コミュニケーションを取るべきだった。

 いま、こうしてジェミーと話しているように、俺という人間をわかってもらうためにもっと努力できたはずなのだ。

 そうすれば、結果は違っていたかもしれないと思う。


「さて、そろそろ帰るか。テックが待ってるんだろ?」

「そだね。あー……」


 立ち上がったジェミーが小さく体を揺らす。

 五年たって初めて気づいた、仲間の癖。言い出しにくいことを言う時に、ジェミーはこうして体を揺らすのだ。


「今日、手伝ってくれてありがとう、ユーク」


 意を決したらしい仲間ジェミーのお礼の言葉に、俺は笑って応える。


「どういたしまして」

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