第51話 諦観と浅ましい希望(ジェミー視点)


 消えゆくユーク達を見て、アタシはほっとする。

 

「ぐあっ……あが……が、いやだ、だずけで……いやだ──嫌、だ……あ、ぁ!」


 目の前では、サイモンが生きながらにしてオルクスたちに食いちぎられている。

 バリーは……ああ、手首から先だけは確認できた。食べ残しかな。

 カミラはすでに連れ去られてしまった。やっぱり迷宮のオルクスも女を攫うみたいだ。

 あたしは奇襲用にと渡された認識阻害の違法魔法道具アーティファクトを使いながら座り込んでじっとしているけど、どこまでこれが有効かもわからないし、もしかすると次の瞬間には殺されてるかもしれない。


 それでも、まあ……アタシの役目と復讐と贖罪はこれで果たされた。


 サイモンのふざけた茶番から始まったこの危険から、ユークとあの子たちは上手く脱出できたようだ。

 ユークの荷物の中には、アタシが記録した『サンダーパイク』の配信映像がたっぷりと入った記録用魔石を突っ込んである。

 いろいろと気のまわるユークの事だ、きっとすぐに見つけてくれるだろう。

 そして、それはきっとアタシ達がしでかしたことの全てをつまびらかにするはず。


 ああ、唯一心残りと言ったら、直接謝れなかったことかな。


 踏ん切りがつかなかっただけで、機会はいくらでもあった。

 でも、ぐだぐだと『サンダーパイク』に残ったおかげで、今回はユークと『クローバー』を助けることができたから、結果オーライか。


 この奇襲にアタシがいたからあの子たちはケガもしなかったし、バカなサイモンを騙すことも出来たんだ。

 アタシが「この先の戦力にするんだったら眠らせればいいじゃん」なんて提案しなかったら、今頃きっとひどいことになってた。


 感謝してよね、ユーク。

 ……なんてね。

 本当は感謝しなくちゃいけないのは、アタシ。それと、きちんと謝りたかった。


 いなくなってはじめてわかった。

 今までアタシら後衛を守ってたってことも、迷宮の進行の事も、弟の薬の事も。

 本当にびっくりした。アタシがぼやいたのを聞いてユークが弟にって用意してくれてた咳止め薬、あんなに高かったなんて。

 いつも何気なく渡してくるもんだから、もっと安いもんだと思ってた。


 アタシったら、一回もお金払わないで「またよろしく。急いでよね」なんてほんと自分がになる。

 自分の家族の事なのに、それをユークに丸投げするなんて……ほんと、最悪な奴。


 最悪って言えば、パーティの居心地もだ。

 ユークがいなくなって、あいつら今度はアタシにあたるようになった。

 その時になって、ようやくユークの気持ちが理解できた気がする。


 あんなのを五年間も耐えさせたなんて、しかもその片棒を担いでたなんてマジで人生の汚点だ。

 多分、このまま終わるだろうけど。この人生。笑うしかない。


 ああ、失敗したなー。

 本当に失敗した。


 すぐに謝ればよかった。

 ユークってなんだかんだで甘いから、きっと精一杯謝ったら許してくれたかも。

 それで、もしかしたらアタシだって『クローバー』に誘ってくれたかもしれない。


 ……さすがに都合良すぎか。


 でも、羨ましかった。

 ユークも『クローバー』の娘たちも。

 あんなに楽しそうで、あんなに頼り合ってて、まるで家族みたいだった。


 もし、あの中にいれば……アタシもきっと無理に笑ってることなんてなかったと思う。

 素直になれる場所で、素直になれる仲間と、楽しくできた未来だって、あったのかもしれない。

 なんでこうなっちゃったんだろ?


 いまとなったら、なんでユークにあんな風に接していたのか思い出せない。

 強いていえば、そうしなければ自分もああなると思っていたかも。

 ……言い訳だ。やったことに変わりはないし。


 思考するアタシの視線の先では、いよいよサイモンが終わった。

 さっきまで活きがいい状態で貪られていたが、もう声も発さなくなったそれは、人の形すらしていなかった。


「フゴッ、フゴ」


 オルクスたちが周囲を見回している。

 アタシか、消えたユーク達を探しているのかもしれない。

 鼻のいいオルクスにどれほど認識阻害が通用するのかわかったものじゃないけど、どうせあがいたところでどうしようもない。


 見つかれば終わりだ。


「……」

「フゴゴ」


 黙ってじっとしている。

 意外と動悸もなく落ち着いていられるのは、すっかりと仕事を終えた達成感からかもしれない。

 ここで終わっても、役目は終えているという実感が諦観じみた落ち着きをアタシにもたらしている。


 しばらくすると、オルクスたちはその場を去った。

 残されたのは、生きてるアタシと、可食部が残されたままのサイモン、そして手首のみとなったバリー。


 愚かな『サンダーパイク』にお似合いの終わり方だと思う。

 アタシは……最後にちょっといいことしたから生き残ったのかも。

 上り階段はもう無いし、このままじゃ野垂れ死にだけど。


 とにかく、下りの階段エリアを目指そう。

 幸い魔法の鞄マジックバッグには多少の食料もあるし、ここを進むための魔法道具アーティファクトもある。違法なのも含めてたくさん。

 それに、迂闊なサイモンたちと団体行動でない分、いくらかは小回りが利くはず。


 うまく階段エリアまで行けば、そこで救援を待つことだってできる。

 こっそり耳につけておいた配信用魔法道具アーティファクトもまだ使えるはずだし、いけるところまで行ってみよう。


「……あ、これも持っていかなきゃ」


 サイモンの死体の腰にぶら下がっている、血まみれの魔法の鞄マジックバッグも拾い上げておく。

 これにはユーク達から回収したものを『戦利品』と称して収納していたはずだ。

 我ながら浅ましいとは思うけど、謝るきっかけにでもなればいいと思う。


 まだ、終わっていないのなら……弟に、会いたい。

 そして、今度こそ素直になって、やり直したい。

 生き残ったアタシには、まだその筋が残されてる。


 そう思い直して、アタシはその場をそっと離れた。

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