第40話 休息と宝箱
「〝配信〟カット。気を抜いてもらって構わないよ」
俺の言葉に、全員が息を吐きだす。
攻略中ずっと〝生配信〟というのもなかなか気が休まらないので、休憩中は配信を切ることをあらかじめベンウッドには伝えてある。
特に先行警戒で動き回るネネや前衛のマリナはこのタイミングで身体の清拭をしたりもするので、配信が行われない休憩時間は必須だ。
彼女らの肌を衆目に晒すわけにはいかない。
「あー、緊張で気疲れしちゃうよ! この水って飲めるかな?」
「飲めるとは思うが、念の為に飲用するのは魔法で出した水にしよう」
20フィート四方程度の小部屋には、水がわき出す小さな泉があり、迷宮内にしては清潔で神聖な空気に満ちていた。
迷宮内でたまに見つかる
通常の迷宮では地図などにしっかりと記載されていて、それを起点に探索を行うものだが、『無色の闇』はその形を日々変化させる。
階段エリア以外でこうした
「ここまでは順調だな。損耗はどうかな?」
「あたしは【
これ、俺が〈
「矢は回収しましたし、損耗なしです」
「魔力、もう、回復してる」
「問題なしっす」
各申告を吟味して進行度を考える。
基本的に損耗が四割に達したらダンジョン探索は切り上げ時だ。
特に武具や矢弾、消耗品は魔力と違ってリカバリーがしにくい。
一応、その対策もしてはいるのだが、全てが上手くいくとは限らないのがダンジョンアタックの常だ。
警戒と慎重さは常に保っておきたい。
「
「これ、〝生配信〟するべきかどうか迷ってるんだよな」
部屋の端に佇む
公式の調査配信の中で
たしか、中には宝石や古代金貨の類が詰まっていただけで、大きな興味を引かなかったが……もし、配信内で貴重なアイテムを獲得してしまったらトラブルになるかもしれない。
ただでさえ俺達はCランクパーティという身の上でありながら、特別な依頼を受けて『
これが高難易度ダンジョンで産出される宝物──例えば非常に強力な
しかし、逆にそういった報酬があると明示されれば『無色の闇』の攻略に腰を上げるパーティが出てくるかもしれない。
『無色の闇』は難易度のわりに実入りが少ない……という話がまことしやかにささやかれている。
そもそも、封鎖されてからもう二十年以上たっているのだから、実際のところを知っている人間はそう多くないというのに、だ。
俺の叔父やベンウッド、それにママルさんなど当時の踏破メンバーに聞けば教えてくれるかもしれないが、俺にしたってそれを尋ねたことはない。
今や配信では人気の開封の儀ではあるが、手に入れた宝物を尋ねるのは冒険者としてのマナーに反する。
自ら手にした財と栄光を自慢するならともかく、沈黙するものの懐を探るのは褒められたことではない。
「よし、決めた。
「そうなんすか?」
「ああ。今後どうするかは戻ったときにベンウッドに相談しよう。今は余計な波風を立てたくない」
「了解っす。じゃあ、開けるっすよ」
すでに罠の有無などを確認していたらしいネネが、
鍵も先に開けておいたのだろう、抵抗もなくぱかりと開いた
彩り鮮やかな数種類の宝石、古代金貨、薄汚れた手袋、銀色の指輪、そして、『黒い小箱』。
「いろいろあるな。とりあえず宝石と金貨は収納してっと……残りは何か調べてみよう」
残った物品を手に取って、精神を集中させる。
「ええと、手袋はただのガラクタ。
迷宮産出品の鑑定は錬金術師としてそれなりに手慣れたものだが、この手のひらに乗る黒い小箱が何なのか、理解しかねた。
そもそも箱かどうかすらわからない。やけに滑らかな面取り加工がなされたこれには、開けるようなものが見当たらない。少し大きめの六面ダイスだと言われればそうかもしれないと思う。
……真っ黒で数字がわからないけど。
「不思議な物体だな……」
なんというか、自分が何かわかっていない、答えを待っているかのような……そんなモノだ。
よし、【
「危険なものですか?」
「いや、危険ではないよ。ただ、これは赤ん坊みたいなものだな、多分」
「え、赤ちゃんなの?
「む、ボクも、欲しい」
何にでも興味を示す
「とりあえず、こいつは珍しいんでベンウッドに報告してからだ。異変の手掛かりになるかもしれないし。レイン、おいで」
「なに?」
「これを」
手を取って、その指に【
分け前的な問題から言えば、帰って清算してから分配するべきだろうが……攻略に使える拾得品はどんどん使っていった方がいい。
精神の乱れが直接効力に影響する魔法を多く使用するレインが、これを使うべきだろう。
「──……っ」
レインが固まってしまったが大丈夫だろうか。
呪いの類はかかっていないはずだが。
「箱の事は、マリナに、ゆずる……」
「ホント? やったね!」
一体どこでどう折り合いがついたのかさっぱり理解できないが、円満に解決できたならそれでいいか。
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