第36話 国選依頼と一時加入メンバー

「……で、腹は決まったかよ」

「ああ、この国選依頼ミッション受けさせてもらうよ」


 あの後、冒険者ギルドに引き返した俺は依頼票をベンウッドに差し出した。

 俺が戻ってくることがわかっていたかのように、依頼カウンターにふんぞり返っているのを見ると、ここでずっと待っていたらしい。

 まったく、他の冒険者がびびってるじゃないか。


「お前の夢を利用するようですまんな」

「まったくだ。でも、感謝してる。それで、他のパーティの記録ログを見せてもらってもいいか?」


 これも準備していたらしい、紙束が三つカウンターの前に投げ出される。


「役に立たんよ、これでは。特に『サンダーパイク』のはひどい。地下三階までしか進められていない上に、書式も報告内容もめちゃくちゃだ。配信だって見られたもんじゃない」


 配信に関しては俺も知っている。

 魔物モンスターとの戦闘になったかと思ったらしばらくして生配信が途切れたりして、資料としては全く役に立たない。

 おそらく、都合の悪い部分をカットしているのだろうが、あれでは都合の悪いことを隠してるのが丸わかりだ。


「俺はやめとけって忠告したんだがな」

「後がないのさ、あいつらは。今は国選依頼ミッション中だから規則上Aランクに留まっちゃいるが、ここで成果が出せなきゃ冒険者信用度スコアはがた落ちだ」

「がた落ち? 国選依頼ミッションにしたってそう下がりはしないだろ?」

「今回の国選依頼ミッションを受けるにあたって詐欺じみたことをやらかしてる。例えば『クローバー』のユークが『サンダーパイク』のサポートにあたる、とか喧伝してみたりな。それで不注意なスポンサーが何人か金を出しちまった。……このままだと、ヤベぇぞ、あいつら」

「俺の知ったことじゃない」


 バカな幼馴染の浅慮に溜息を吐き出して、俺は別の話題を切り出す。


「そうだ、ベンウッド。一時加入スポットを募りたい。誰かいい斥候を紹介してくれないか」


 攻略計画アタックプランを練るにあたり、一番の問題となったのが『クローバー』というパーティにおける人数と職能ジョブだ。

 普通、パーティというのはおよそ5~6人で構成される。それより少なかったり多かったりすることもあるが、安全性と報酬のバランスがとれるのはその人数だ。

 これまで四人でやってこれたのは第二の職能セカンダリジョブ持ちが三人いたからで、受けていた依頼のランクも低かったからという理由がある。


 特に『クローバー』には斥候系の職能ジョブを持つメンバーがいない。

 多少無理をすれば俺が魔法道具アーティファクトで解決できる場面はあるが、相手は『無色の闇』だ。

 やはり専門のメンバーが欲しい。


 これについては、三人に了解をとった。

 『四人で』とは言ったものの、それは『欠けることなくみんなで』という意味であり、人数が増える分には気にしないとのこと。

 柔軟なことで助かる。


「それについてはママルから話があるってよ」


 そう笑ったベンウッドが俺の背後を指さす。


「こんにちは、ユークさん」


 背後には一人の女冒険者を連れたママルさんが笑顔で立っていた。


「『一時加入スポット募集申請書』をお預かりしますね」

「あ、はい」


 ベンウッドに渡そうと持っていた『一時加入スポット募集申請書』を手渡すと、その代わりとばかりに女冒険者を前に押し出すママルさん。


「あの……?」

「こちらが一時加入スポット希望者のネネです。今から面接をなさいますか?」


 猫人族フェルシーの少女に見えるその人は、何とも言えない顔で眉尻をへにゃりと下げている。

 見た目は俺より少し下……マリナと同じくらい。

 髪の毛と同じこげ茶色のピンと立った耳がなかなか愛らしい容貌で……服装からして、斥候職だろう。


「ママルさん?」

「ネネ、ご挨拶なさい」

「よ、よろしくお願いします」


 どうにも元気がないというか、怯えてるというか。


「彼女は?」

「知人の子なんですけれど、ちょっと故郷でオイタが過ぎまして……。数年前から預かって性根を叩きなおしていたんです」


 そりゃかわいそうに。

 ママルさんに性根とやらを叩かれたら、きっと直る前に千切れてなくなるかしてしまうだろう。


「いま、失礼なことを考えませんでしたか?」

「まさか。それで……ネネさんは、希望ということでいいんですか?」

「全身全霊でがんばるっす」

「……」


 なんだか事情がありそうだが……ママルさんの紹介であるなら、きっと腕は確かなのだろう。


「じゃ、こっちに。他のメンバーと顔合わせをして、それから一時加入スポットの事について詰めましょう」

「行ってきなさい、ネネ。ユークさんに失礼のないようになさいね」

「はっ……はいっす!」


 緊張した様子のネネを連れて、マリナ達が待つテーブルに向かう。

 そこでは、必死に記録ログを読み込む三人の姿があった。


「みんな、一時加入スポットの希望者を連れてきた。ネネさんだ」

「よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げるネネ。

 ママルさんがそばに居ないせいか、少し緊張が解けたのかもしれない。

 あの人がそばに居ると、ベンウッドすら落ち着かなさげにするからな。


「やった! 女の子だ!」

「よろしくお願いしますね」

「ねこみみ……!」


 三者三様の反応だが、面接はいいのか。

 まあ、俺がすればいいか……。


「ネネさん、座ってくれ。それで軽い自己紹介を。君のジョブと冒険者信用度スコアも教えてもらえるかな」

「私はネネ・シルフィンドール……見ての通り猫人族フェルシー職能ジョブは元『盗賊シーフ』の『忍者』っす」

「元?」

「【天啓の覚書】を使ったっす」


 なるほど。

 実際、『戦士』から『騎士』に職能を変化させた奴も知っているし、そういう事もあるか。


冒険者信用度スコアはCランクです」

「ええと……俺達は近日中に『無色の闇ハイランクダンジョン』に調査で入るんだが、それも納得してるってことでいいのか?」

「……はいっす。それで地獄の日々から解放してもらえると聞いたっす」


 その件について、詳しく聞くべきだろうか。

 いや、今はいいか……。


「絶対にお役に立つので雇ってほしいっす!」


 切羽詰まった様子のネネの気迫に押されつつ、俺達は斥候役の一時加入スポット冒険者を『クローバー』に迎えることになった。

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