第28話 最奥と報告

 かなり慎重に『アイオーン遺跡迷宮』の最下層を進んで行く。

 幸い、あれ以降は影の人シャドウストーカーと遭遇することはなく、俺達は最深部のすぐ手前までスムーズに進むことができた。


「この先が、最深部だ」


 装飾など何もない、まるで壁の様な錆びた扉に手をついて三人を振り返る。


「ボス部屋ってことですか?」

「そうなる。俺が過去に踏み込んだ時は、何も起きなかった。扉も閉められるし、『アウ=ドレッド都市迷宮』に入る前の野営地にしていたくらいだ」


 だが、今回はどうなるかわからない。

 様子がおかしい以上、ここも何かしら問題が発生しているかもしれない。


「〈魔力感知センスマジック〉には、何も反応、ない」

「精霊力の乱れも感じませんね」


 ……で、あれば問題ないとするべきか。


「一応、ボス部屋に踏み込むつもりで強化を付与しておく。奥にある『アウ=ドレッド都市迷宮』への入り口に触れれば依頼は終了だ。その後、すぐさま引き返す」

「奥は見ないの?」

「覗くくらいならいいかもしれないけど、入るのは止しておこう」

「了解!」


 各々、準備を整えて俺に頷く。

 そして、付与魔法を一通りかけ終わったところで、俺が扉に手をかけた。

 通常の扉と違い、ここは引き戸のようになっていて、取っ手に手を振れると自動的に扉が壁の中にスライドしていく。


「……」


 その隙間から中を覗き込んで、俺はほっと胸をなでおろした。


「敵影なし。進もう」


 後ろの三人に頷いて、『アイオーン遺跡迷宮』の最奥であり、『アウ=ドレッド都市迷宮』の入り口広場へと足を進める。


「あれが、アウ=ドレッドの入り口? なんだかすごいね!」


 マリナが指さす先には、やや装飾過剰とも取れる巨大なアーチ状の扉が存在していた。

 以前見た時も思ったが、古代の技術というのはスケールが違う。


「一説によると、本来は『アウ=ドレッド都市迷宮』側が人の住処で、この『アイオーン遺跡迷宮』は商店を集めた建物だったんじゃないかって言われている」

「じゃあ、『アウ=ドレッド都市迷宮』の奥には何があるの?」

「それを解明するのが俺達冒険者の課題さ」


 マリナの質問に答えつつ、軽く苦笑する。

 この『アウ=ドレッド都市迷宮』もまだ最奥が未踏破なダンジョンの一つだ。

 もしかすると、ここの最深部にも『深淵の扉アビスゲート』が設置されているかもしれない。


 あれは、古代の民が別の世界に渡るための魔法道具アーティファクトだとする研究が今有力視されているくらいだしな。


「さぁ、それじゃあ扉に触れて依頼完了だ」





「……以上です」

記録ログの提出ありがとうございます。ご依頼主には、こちらから話を通しますので。ご報告ありがとうございました」


 日が落ちる前に無事『アイオーン遺跡迷宮』から帰還した俺達は、休息もそこそこにクアロトの冒険者ギルドへと向かった。

 緊急性の有無など俺たちでは判断がつかないし、自分達でどうにかできる案件とも思えない。

 そう考えて、取り急ぎの達成報告と記録ログの提出を行った。

 これが、一般的な冒険者としての最適解だろう。


「みんな、お疲れ様」


 依頼カウンターで一通りの手続きを済ませた俺が声をかけると、テーブルで待っていた三人が少し疲れた様子で笑った。

 帰りがかなり強行軍になってしまったので、疲労も強いだろう。

 少しばかり申し訳ない。


「ユークが、一番、疲れてる、でしょ。お疲れ様」


 レインが椅子を引いて、俺に微笑む。


「なに、このくらい何てことないさ」


 帰りは『サンダーパイク』にいた時の様な、フルコントロールで進行を行った。

 全員に〈身体強化フィジカルエンチャント〉をはじめとした付与魔法を常時維持し、魔力回復や疲労軽減の魔法薬ポーションなども惜しみなく使って、最短距離で町まで戻って来た。


 結果としてその必要はなかったかもしれないが、ああいった異常事態の危機というのは気付いたときには逃げ場がなくなってる場合もある。

 使える物を使って、リスクを回避するのもまたサポーターの仕事だ。


「ギルドは何と?」

「特には。ここからはギルドの仕事だ。聞き取りがあるかもしれないから、予定通り明日と明後日は休養日にしてクアロトに留まろう。観光もしたいしな」

「賛成! 四人でデートしよう!」


 明るい様子でとんでもないことを提案するな。

 大体四人でって、それはデートになるのだろうか。


「この街は馴染みがないのでユークさんに案内していただけると助かります」

「ボクも。ユークと、魔法道具アーティファクトを、見て回りたい」


 なんともまぁ、それぞれ心を揺らす提案だ。

 これまで女性にいい思い出がない俺にしたら、少しばかり魅力的過ぎる。

 正直、まんざらでもない気分になってしまうところが情けない。


「わかった。どうせ呼び出しがあれば四人で行くことになるだろうし、明日は固まって観光としゃれこもう」

「やったね! あたし、ごはんの美味しいお店希望!」

「わたくしは名物の温泉に立ち寄ってみたいです」

「ボクは、魔法道具アーティファクトバザールに、行きたい……!」


 ……全部いっぺんに済ませるのは難しいな。

 よし、プランを練ろう。

 俺だって、そこまでクアロトに詳しいわけでもなし、後でギルドにもおススメを尋ねてみるか。

 向こうにしても聞き取りがあったときの為に、俺達の動向を把握しておきたいだろうし。


「よし、それじゃ打ち上げといこう。少し行ったところに、上手い鶏料理を出す店があるんだ」

「さすが、ユーク! 抜け目ない!」

「フッ……まかせろ。冒険後のサポートも俺の仕事だからな」


 芝居がかった俺の言葉に笑う三人を連れて、俺は日の落ちたクアロトの街へと足を向けた。

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