第21話 イメージキャラクターと鈍い赤魔道士
深酒の失敗も記憶に新しい、一週間後の朝。
すっかり冒険の準備を整えた俺達は、『アイオーン遺跡迷宮』の入り口前に立っていた。
この迷宮は、フィニスからはやや遠方にある都市、『クアロト』のすぐそばに存在する。
なぜ、フィニスから離れたこの
依頼人は、『クアロト』に本拠を構える老舗の武具工房『アーシーズ』。
そして、その依頼内容は『工房の新作装備を着用してのダンジョン攻略配信』である。
「全員、どうだ?」
「うん、動きやすいよ。結構軽いし、いいかも!」
マリナがはしゃいだ様子でくるりと回ると、短いスカートがふわりとめくれて、腿がちらりと見えた。
まぁ、下衣は
「慣れないですけど、大丈夫だと思います」
一通りの点検を済ませたシルクが、照れたように笑う。
こちらは体のラインにフィットした黒の全身衣の上から、マリナと似たデザインのジャケット型皮鎧を羽織っている。デザイン的には露出した肩がワンポイントらしい。
「いい、これ。
レインは、ポンチョのようなマントをつまんでご満悦だ。
「これ全部くれる上に、お金まで払ってくれるなんて太っ腹だね!」
「これは、配信映え、する……!」
気楽そうな二人と打って変わって、シルクは少し不安げだ。
「緊張します……。大丈夫でしょうか?」
「大丈夫、似合ってるよ」
「……っ! そういうことではなく! 初めて入るダンジョンなので!」
なんだ、配信映えの話ではなかったのか。
だが、シルクの性格からすれば慣れない装備で初めてのダンジョンというのは不安要素が大きいのかもしれない。
「よし。そういう事なら依頼の件も含めて、軽くおさらいのミーティングといこう」
「うん。ここはどんなところなの?」
「そうだな……」
『アイオーン遺跡迷宮』はかなり古い
迷宮の深さは地下四階層で、最深部には
つまり、『アイオーン遺跡迷宮』は、ダンジョンとしての機能もある
「ここまではいいか?」
「はい。大丈夫です。それで、最深部まで行くんですよね?」
「ああ、そうだ」
依頼の内容は、『アイオーン遺跡迷宮』を突破して、『アウ=ドレッド廃棄都市迷宮』の入り口に到達することだ。
依頼者の『アーシーズ』が今シーズンに打ち出したテーマは『女性冒険者たちの為のニュースタイル。オシャレで安全な冒険に出かけよう』であり、ポジションごとに違った強化付与がされた女性向け
『クローバー』は前衛のマリナ、軽装タイプのシルク、魔法使い系後衛のレインとうまく商品展開とマッチしており、ここのところの配信人気も相まって「是非に」と、指名依頼が来たというわけだ。
「難易度的には『ペインタル廃坑跡迷宮』よりも与しやすい。防具の性能もかなりいいし、緊張せずいつも通りで行こう」
「ユークは、潜ったこと、あるんだよね?」
「ああ。『アウ=ドレッド廃棄都市迷宮』にも行ったことがあるぞ。ここの迷宮群は古代の商業都市だったって言われていてな、
「おお、いきたい、です」
なんなら、
……通称『開封の儀』と呼ばれるその配信も、比較的人気のある配信だ。
冒険配信の中でも“夢のある部分”を切り取るわけなので、当たり前と言えば当たり前なのだが。
「ま、なにはともあれ……今回は、配信そのものが依頼だ」
「しつもーん」
「はい、マリナ君」
「えっと、『アーシーズ』はあたし達の攻略配信を見てどうするの? 防具の問題点探したり?」
そこからか、マリナ。
説明したと思ったが……。まあ、いいか。
確認は重要だ。
「編集して、新作防具の宣伝配信として使うんだ。緊張を煽るわけじゃないが、みんなは『アーシーズ』が発表する新シリーズ防具のイメージキャラクターになるってわけだな」
「へ?」
「配信の合間とかに
俺の説明をぽかんとした顔で聞いていたマリナが、大声を上げる。
「えええええッ!?」
「……俺、説明したよな?」
シルクとレインに向き直ると、うんうんと頷いている。
やっぱり説明してた。
「どうしよう、あたし……お肌とか、お手入れしてないよ! 髪も!」
「充分かわいい、だから大丈夫だ」
「……っ!」
「さあ、そろそろ行くぞ」
編集があるとはいえ、罠にかかって無様な姿をさらすのもよくないし、そもそも低級とはいえ迷宮だ……気を緩めるわけにもいかない。
「……? マリナ、何固まってるんだ? 行くぞ?」
「ひゃい!」
ぎくしゃくとした様子で歩くマリナ。
配信が
「先頭は俺、レインとシルクを挟んでマリナが殿だ。いろんな角度の映像を取るために『ゴプロ君』が動き回るが、あまり気にしないでくれ」
「わかりました。戦闘指示はよろしくお願いします」
シルクがうなずいて、新調した弓を担ぎ直す。
今回の依頼に合わせて『アーシーズ』から購入した、魔法の
これも発売前の新作で、シルク曰くなかなかに高性能らしい。
「レイン、もし余力があったら火炎系の魔法を一度使ってくれ。映像に派手さがあるといいかもしれない。それに、幸い『アイオーン遺跡迷宮』の
「……」
「レイン? どうした?」
なにやらジト目で俺を見るレイン。
炎の魔法は嫌だったのだろうか?
「えっと……何、かな?」
「ニブチン」
ジト目のままのレインが、俺の胸をペチリと叩いた。
……一体何がいけなかったんだ。
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