第19話 進むユークと過去からの誘い
「──ご視聴ありがとうございました! 〝配信〟終了。……みんな、お疲れ様。損耗チェックよろしく」
一息ついて、俺はみんなを振り返った。
今回、俺達はCランク依頼を受けて、ここ『ゴルゴナ地下遺跡』へと来ている。
目的は、今しがた討伐した地下5階のフロアボス、“
巨大な手だけの
現状、何に分類されるかよくわからない不気味なこの魔物を研究する学者は意外と多く、新鮮な研究材料を……ということで依頼があったらしい。
しかも〝生配信〟もしてほしいという、追加オーダー付きで。
その分、報酬は高かったが。
「鎧、ちょっと損耗。剣は問題なし。怪我は―……なし、大丈夫!」
「手持ちの矢は残り十二本。身体的ダメージはなしです。精霊魔法を使ったので、魔力はやや損耗です」
「魔力は、残り、半分くらい。
損耗チェックもかなり手馴れてきたし、相互チェックも最近はしているようだ。
「俺は
俺の言葉に、三人が小さく頷く。
よしよし、ちゃんと自己分析も出来てるな。
上手くいってもいかなくても、現状を把握するのは成長には必要なことだ。
俺が駆け出しの頃よりも、ずっと彼女たちはよくやってる。
「よし、
「了解! あー……いっぱい動いたからおなか減っちゃった」
「帰ったらいつものところで一杯やろう。それまでこれでも食ってろ」
食いしん坊のマリナにリンゴを一つ投げ渡して、俺は
本来はシーフの仕事だが……この錬金術で作った簡易
「お、これはなかなか……。よし、階段エリアで休憩しよう」
「はーい」
◇
マリナ達と『クローバー』を結成して一ヵ月と少しが経った。
活動そのものは順調で、小さな失敗とそこそこの成功を積み重ねながら、俺達は前へと進んでいる。
マリナ達は、どうやら本気で『
もともとのポテンシャルが高いのだろう。ほんの少しのアドバイスや軽い指示だけで、彼女たちの動きはどんどん良くなっていく。
この調子で行けば、今年中のBランク昇格もあり得るかもしれない。
「やっと帰ってこれたねー」
「乗合馬車が通る時間を見誤った……すまんな」
本当は、街道を歩きながら通る乗合馬車に乗せてもらおうと思っていたのだが、どうやら俺の見通しが甘かったようで、帰りは歩きになってしまった。
『ゴルゴナ地下遺跡』がフィニスからそれなりに近い場所にあったからよかったものの、危うく野宿になるところだ。
「ゆっくり歩いて帰るのも、わたくしは楽しかったですよ」
「ん。ユークには、きっと
俺の失敗談を道すがらの暇つぶしに話していただけなのだが、意外に好評だったようだ。
ま、失敗談なんて山ほどあるし、酒の肴にするにも丁度いいだろう。
「とりあえず、達成をギルドに報告をしてしまいましょう」
「そうだな。“
四人で大通りを歩いて、冒険者ギルドを目指す。
すっかり暗くなってしまっているが、冒険者の街は不夜城さながらに明るく、人通りも多い。一仕事終えた、
当然、二十四時間営業の冒険者ギルドからも煌々と灯りがついており、酒場で冒険譚に話を咲かせる者たちの声が、道にまで届いている。
「ママルさん、まだいるかな?」
「なんだ、マリナ。ママルさんに何か用事か?」
「ううん。なんとなく。ママルさんって、ユークと仲いいよね」
そのお言葉はやや語弊があるが、客観的には事実でもあるか。
「俺が冒険者になったときからの付き合いだからな。ああ見えて、この冒険者ギルドでは一番の古株だぞ」
それでもって、もしかすると一番強いかも知れない。
俺の親世代くらいの冒険者に尋ねれば、『〝
恐怖を紛らわせるために、酒を注いでやる必要はあるかもしれないが。
彼女の厳しい『冒険者予備研修』を受けたものでママルさんに逆らえる人はいない。
ギルドマスターのベンウッドを含めて、だ。
「マリナは、妬いてる」
「そ、そういうんじゃないし!」
「はいはい。じゃれてないで行きますよ。せっかくなので
緊張がゆるんだのか、女の子らしい側面を見せるマリナとレインに苦笑するシルク。
いつも通りの光景に安心する。今回も無事にここに帰ってこれた。
俺もそう気を緩ませてギルドの入り口を入った途端、会いたくない奴に会ってしまった。
「やあ、ユーク」
通路を塞ぐように立つ、かつての
視線をやると、奥には戦士のバリーもいた。
「……三人とも、先にママルさんのところに行って依頼達成票を出してもらってくれ。レイン、これを渡しておく。使い方はわかるな?」
「ん。まかせて」
レインに
俺の表情を察して、何も聞かずに行ってくれたのは助かった。いい娘たちだ。
「サイモン。何の用だ」
「少し話がしたい」
同じ都市の冒険者ギルドに所属する身だ。
いつか顔を合せることもあるだろうとは思っていたが、まさか向こうから声をかけてくるとは予想外だったな。
「話って?」
「立ち話もなんだろう? 飲まないか?」
バリーのいるテーブルを指して、ヘラヘラと笑うサイモン。
こいつがこういう笑い方をしている時は、ロクでもないことを考えている時だ。
「ダンジョン帰りで疲れてるんだ。謹んでお断りするよ」
「そう言うなよ。お前にとってもいい話ができると思うんだ」
「あいにくだが、そういうのは間に合っている」
サイモンの『いい話』が本当によかった試しなど一度もない。
ベテランぶっては詐欺みたいな話に騙される、世間知らずな田舎者の筆頭だ。
……まったく。そんな男の『いい話』なんてものを聞くために時間を割くくらいなら、これから溝さらいの依頼でも受けたほうがましとすら思える。
「悪いけど失礼するよ、サイモン」
「待てよ!」
カウンターに向かう俺の肩を、サイモンが掴む。
「ユーク、『サンダーパイク』に戻ってこないか?」
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