第18話 思い上がりと上から目線(サンダーパイク視点)


『先日もザルナグ討伐配信で皆さんの目をくぎ付けにした“クローバー”ですが、今日も新たな配信でわかせました!』


『この映像は……ゴルゴナ地下遺跡5階のフロアボス、“レフティ・ハンド彷徨う左手”の討伐の様子でしょうか』


『その様です。以前も話題に上がっていた、この赤装束の方はリーダーのユークさんで、やはり赤魔道士だそうです。いやぁ、毎回ほれぼれする動きですねぇ』


『というと?』


『何と言っても無詠唱クイックキャストの技術がすごいんですよ! アレはあらかじめ魔法を準備しておく赤魔道士の上級スキルですが、戦闘前に適切なものを選択して待機させなきゃいけない、かなり難しいスキルです。相当な、経験と知識がないと、ああは上手くいきませんね』


『なるほど、なるほど』


『それにですね──……』


 冒険者ギルドの大型スクリーンに映し出されるユークを目にして、僕は思わず歯噛みする。

 何だってあんな役にも立たない、姿以外は地味なヤツがもてはやされるのかさっぱりわからない。

 高難易度のダンジョンアタック動画でもなく、珍しくもない浅い階層のフロアボス討伐動画。

 こんなものが面白いと思っているなんて、視聴者の質はここのところすっかり悪くなったようだ。

 しかし、そうも言っていられない現状もある。


 僕たち『サンダーパイク』も以前と同じように配信を行っているが、最近は視聴数がすっかり落ち込んで、先日もスポンサーが一人離れた。

 ……業腹だが、僕たちもこんな感じの配信をするべきかもしれない。


「ちっ……ユークの奴、低ランクパーティに混じって天狗になってやがるな」


 同じように配信を見たバリーが、酒をあおりながら毒づく。


「この間、Aランクに昇格したらしい。調子にも乗りたくなるだろうさ。それより、僕等の事だ」


 ここのところ、僕ら『サンダーパイク』はどうにも調子がでず、失敗が続いている。

 理由としては、『新加入メンバーの質が悪い』という一点に尽きるが、それでも失敗は失敗だ。

 加えて、新メンバーが居つかないという問題もある。


 一時加入スポットではなく、正式加入レギュラーとしてパーティに迎え入れているのに、そのほとんどが一回から二回ほどの仕事で捨て台詞を残して去っていく。

 やる気も根性も我慢も足りない『ヘタれた冒険者』が増えていると聞いたが、どうやら噂は本当だったらしい。


『おおっと! ユークさん、ここで魔法の巻物スクロールを使用。一気に押し込む! これはナイスアシストですね、ガトーさん』


『ええ、完璧なタイミングでした。仲間との連携も素晴らしいですね。彼のアシストがあれば、私もダンジョンに挑めそうです』


『それはどうでしょうねぇ。……っと、ここで、討伐完了。危なげない勝利です』


『今後も〝クローバー〟から目が離せませんね! それでは、次の配信に移りましょう。次は──……』


 配信の中のユークに、思わずため息をつく。

 しかし……ユークのやつは、あんなに動けるやつだっただろうか?


 いや、少なくとも『サンダーパイク』にいた時のあいつは、あんな風ではなかった。

 〈歪光彩の矢プリズミック・ミサイル〉なんて誰も知らない新魔法を使ったりはしていなかったし、もっと地味で事務的で、無気力だったはずだ。


「なあ、このままメンバーが見つからないじゃ困るしよ、この際アイツ呼び戻さねぇか?」

「ユークをか?」

「おう。なんだかんだ言ってもオレらについてこれてたし、最近の根性なしどもよりはましだろ?」


 バリーのいう事にも一理ある。

 新メンバーの質は下がる一方で、そのせいで依頼もダンジョンアタックも失敗続き。

 このままでは冒険者信用度スコアに響いて、ランクダウンもあり得る。


 少なくとも、ユークが居た時は、依頼に何度も連続で失敗することなどなかった。

 あれで雑用係なりに、僕たちの役に立っていたのかもしれない。


「あれだ……要は金の問題なんだろ? ちょっとばかり、報酬に色を付けてやればいい。役に立たねぇジェミーの取り分でも減らしてよ」

「だが、あいつは自分で抜けたんだぞ?」

「金がなくて苛ついてたんだろ? いまごろ後悔してんじゃねぇか?」

「……そうだな。それにAランクが低ランク依頼をこなしたところで冒険者信用度スコアは稼げない。ここはひとつ、僕たちが折れてやるのもいいかもしれないな」


 あいつが幼い時から言っていた冒険の目的ゆめ──世界の果て、『深淵の扉アビスゲート』に挑むには、国と冒険者ギルドの許可を取り付ける必要があり、高い冒険者信用度スコアが必要だ。

 僕たちのようなAランクパーティに籍を置くことは、ほぼ必須の条件と言える。


 それがわかっていながら抜けると言った時は驚いたが、理由は金だった。

 裏を返せば、こちらが少しばかり報酬面で折り合いをつけてやれば戻ってくるということだろう。

 まったく……我が幼馴染ながら、情けない。


 そんなさもしい奴が幼馴染だなんて、僕まで恥ずかしくなってくる。


「次見かけたら声かけてやろうぜ」

「ああ、そうしよう。お互いに歩み寄ることも必要だしな。これまでの事は水に流してやろう」


 そう笑って、バリーとジョッキを打ち合わせる。

 あとで念の為にジェミーとカミラにも確認をしておかねばならないが、反対意見は出ないだろう。

 そもそも、ユークがあんなこと言い出すまで『サンダーパイク』は上手くいっていたのだし、あいつが抜けたから新メンバーを探さねばならなくなったのだ。


 冒険者としても、大人としても責任をとってもらう必要がある。

 その上で、僕たちがあいつを許してやれば、何もかも元通りだ。


「お、話をすれば……だ」


 バリーの目配せに振り返って見やると、若い娘ばかり三人連れたユークが、楽し気に話しながらギルドの入り口に姿を現した。

 赤毛の女剣士に、銀髪のダークエルフ、それに幼げな容姿の僧侶。

 どの娘も見目はいいが、垢ぬけない感じがする……見たところ、まだ駆け出しだろう。

 だが、女は女だ。


 童貞くさいあいつのことだし、どうせ言い寄られてころっと騙されたに違いない。

 依頼受諾の関係上、Bランク──いまはAランクか──の冒険者信用度スコアが欲しい駆け出しにいいようにダシに使われてるって、気付きもしないなんて。

 相変わらずどんくさいことだ。

 赤魔道士に、そうほいほい声をかける奴が居るわけないだろうに。まったく。

 さて、声をかけてやるか。


 僕は立ち上がり、胸を張ってユークの前に歩いていった。


「やあ、ユーク」

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